見出し画像

"Inemuri" は日本の文化

TIM KANNING, Frankfurter Allgemeine Zeitung


タクシーは混雑した市内の交通の中をゆっくりと進んでいる。速度は遅いが、確実に進んでいる。そしてまた進み、前の車の赤いテールランプにさらに近づいていく。「ストップ、ストップ」と私はとうとう叫ぶ。バンパーとバンパーの間があと数センチしか残っていないからだ。タクシー運転手はギリギリのタイミングで急ブレーキを踏んだ。60歳くらいの黒髪ボウルカットの日本人男性が驚いたように周りを見回し、助手席の私を見て、何度も「すみません」と繰り返す。空港に着くまで、謝り続けていた。

彼があまりにも恐縮しているので、私まで申し訳ない気持ちになる。彼がその日、どれだけ長い時間タクシーで客を乗せて、東京の騒がしい道路を走り続けてきたのか想像するしかない。そして、できれば私の送迎が今日の最後の仕事であることを願う。しかし、日本ではタクシー運転手も他の職種と同様に人手が不足しているため、65歳を超えて働いている運転手も多い。長時間労働も珍しくない。幸いなことに、私の運転手は渋滞でのうたた寝の後に都市高速道路でさらにもう一回の仮眠を取る必要はなさそうである。

都市のビルの谷間では、人々が小さく見える。
日本人はどこでも、いつでも短時間のうたた寝をすることができる。それは通常、走行中のタクシー内ほど危険ではない。ヨーロッパ人にとっては興味深い光景である。特に、朝も昼も夜も満員の地下鉄車両が、通学・通勤中や買い物帰りの人々の仮眠車両のようになることが興味深い。彼らは自然体で、ためらうことなくうとうとしている。多くの人々は、その技を完璧に身につけており、座っていても立っていても、目を閉じ、少し頭を下げて、目的地に着く直前にぴったりと目を覚まし、ほとんど乱れることなく活気を取り戻す。

時には劇的な状況に見えることもある。最近見かけたのは、口を開けたまま恋人の膝に崩れ落ちた少女の姿だ。それはまるでドラマの死体役のようだった。また、寝ている間に買い物袋を落とし、袋からジャガイモが転がり出した老人もいたが、乗客の半数が手伝ってジャガイモを集めていた。うたた寝は、働きすぎの証とされ、仮眠を取れるのは健康な証と見なされる。

この公共の場での短時間睡眠には「Inemuri」(居眠り)という日本語の名称がある。これは他の言語には訳しづらい表現であり、「anwesend sein」(存在する)と「Schlaf」(眠る)ことを表す漢字が組み合わさっている。居眠りは、働き者である証であり、健康の証と見なされるため、恥ずかしいものではない。

そのため、居眠りは街のあちこちで見られる。小さなコンビニのテーブルに、電子レンジで温めたラーメンを食べた後、腕を枕にして頭を休める姿もある。モーターショーの講演が始まると、スーツ姿の観客数人が目を閉じてしまうことも珍しくない。

国会でも、時折、野党議員の演説を聞かず、夢の中にいる議員の姿が見られることがある。遊園地の「ハピネス・カフェ」で、昼食後、隣のテーブルで小さな子どもがまず居眠りを始め、次に父親、最後に母親までもが、コールドプレイやエド・シーランの音楽に包まれて眠りに落ちる。

この終わりなき睡眠欲求の背景には何があるのか?日本ではこの疑問と頻繁な居眠りの影響がすでに科学的調査と政治的議論の対象になっている。

筑波大学国際統合睡眠医療研究所の柳沢正史教授は、日本人は夜間の睡眠が単に不足していると指摘する。「夜に十分な睡眠を取っている人は、日中に眠りにつくことができない。たとえ眠りたいと思っても」と彼は説明する。

最近、東京都が発表した調査によれば、日本の労働者の約半数が夜に6時間未満しか眠っていないことが明らかになった。厚生労働省はすぐに睡眠不足の影響について警告し、夜にもっと眠るようにと国民に呼びかけた。夜間に十分な睡眠を取れないと、集中力が低下し、うつ病のリスクが高まり、怒りっぽくなる傾向がある。また、認知症のリスクも増し、寿命も短くなるという。

柳沢教授は、政治がこの問題にようやく関心を持ち始めたことを喜んでいる。教授によれば、極端に短い睡眠時間には理由がないという。「日本人は、働く時間が長すぎて眠れないと思い込んでいる」と彼は指摘する。実際、日本では他の産業国と比べても勤務時間が非常に長いが、教授の示すグラフには、各国の平均睡眠時間と生産性の関係に相関は見られない。

日本人の平均睡眠時間は1晩につき6時間15分ほどで、ドイツ人より1時間少ない。にもかかわらず、ドイツの一人あたりの経済力は日本よりわずかに高い。さらに数十年前、日本人は今よりも長く眠っていたという。その頃は特に経済が成長し、人々が特に勤勉に働いていた時代だった。

しかし、日本人のこの独特な睡眠習慣には、個人が影響を及ぼしにくい要因もある。とりわけ、大都市では住居が狭く、壁が薄いため、静かな環境やプライベートな空間が不足している。4人家族が80平方メートル以下の住居に住むことも少なくない。遮光設備がない部屋も多く、東京の地理的な位置の影響で、年間の多くの時期で朝5時には明るくなる。さらに、5月から9月の夏の夜は暑く湿気が高いが、夜通しエアコンをつけることに抵抗がある人も多い。

特に東京圏の人口3600万人の中で、人々は常に混雑した人波の中を移動している。日本人は静かに周囲と共存しながら動いているが、その絶え間ない人混みはやはり疲れをもたらすものである。

いいなと思ったら応援しよう!