巨大生物がフランスの街を歩き回る
2024年10月25日から27日、フランスのトゥールーズでは、芸術集団「ラ・マシーン」による壮大な都市オペラが開催されます。イベントのタイトルは「Le Gardien du temple. La porte des ténèbres(寺院の守護者。闇の扉)」で、街全体を舞台に巨大な機械仕掛けの生物たちが登場します。
これらの生物は、高さ10メートル以上、重さ38トンという圧倒的なスケールを持ち、トゥールーズ市内をゆっくりと歩き回ります。これらの生物は、「ラ・マシーン」の芸術監督フランソワ・ドラロジエールが生み出した「キメラ」と呼ばれる機械芸術の一部です。ドラロジエールは1980年代にトゥールーズを去り、現在はナントを拠点としていますが、その想像力は再び「バラ色の街」に戻ってきました。
このイベントには、192人の劇団員、140人のボランティア、約800人の市職員が関わっています。
リリスは木製の外装と鋼鉄製の骨格でできています。内部には複雑な油圧回路が張り巡らされており、火を噴くギミックや低くうなる音響効果などが組み込まれています。巨大な脚を動かすには、1つにつき一人の操縦者が担当しており、リリス全体では19人の操縦者が必要となります。
このイベントには、90万人以上の観客が集まることが期待されています。
物語
リリスの誕生
リリスの過去は謎に包まれていますが、伝説によれば、彼女はかつて地上で愛された人間の女性だったと言われています。しかし、その愛が叶わなかったことで彼女の心は歪み、怒りと悲しみに満ちた存在となり、やがて蠍の体を持つ怪物へと変わり果てたのです。その後、彼女は冥界の門に囚われ、やがてその守護者となりました。
トゥールーズへの旅
ある日、冥界の王ハデスは、暗闇の奥深くからリリスを解き放つ決断をしました。ハデスは彼女を解き放ち、彼女に「呪われた魂」を集めさせる使命を与えます。
トゥールーズの街に足を踏み入れたリリスは、街の古い石畳をその巨大な蠍の足で踏みしめ、鋭い尾を振りながら進みます。その姿は不気味でありながら、どこか哀愁を漂わせていました。リリスが進むと、街の人々は恐怖に震え、窓や店の扉を急いで閉じます。しかし、彼女は人々に危害を加えることなく、ただひたすらに暗闇の中をさまよいます。
ミノタウロスとの遭遇
リリスがトゥールーズの旧市街に差し掛かると、彼女の前に巨大なミノタウロス「アステリオン」が現れます。アステリオンは、古代の迷宮に閉じ込められていた恐るべき怪物ですが、彼の眼差しにはどこか寂しさが感じられます。彼は、リリスの目を見つめながら言います。「私は恐れられる怪物だが、お前もまた同じなのか?」と。その問いかけにリリスは一瞬動揺します。彼女はアステリオンに、「私は呪われた魂を探している。それが私の使命だ」と答えます。
アステリオンは、リリスの言葉を聞き、静かにうなずきます。「ならば、お前の魂は本当に呪われているのか、それとも光を見失っただけなのか」と彼は問いかけます。リリスはその問いに答えられず、ただアステリオンの眼差しに見つめ返すだけでした。アステリオンは、「恐れと悲しみが我々の中に巣食うが、それは必ずしも闇そのものではない」と告げ、彼女に思考の種を植え付けます。
蜘蛛のアリアーヌとの試練
リリスが街を更に進むと、今度は巨大な蜘蛛「アリアーヌ」が現れます。アリアーヌは、糸を張り巡らせてリリスの行く手を阻みます。アリアーヌの糸は、過去の悲しみや恐れを象徴し、リリスはその糸に絡め取られるかのように動きを封じられます。しかし、アリアーヌはただの敵ではありません。彼女はリリスに向かってこう言います。「お前が本当に求めているものは何なのか?」と。彼女の問いにリリスは戸惑い、立ち止まります。
アリアーヌは、さらにこう続けます。「運命の糸は、過去を織り成すだけでなく、未来をも織り成すものだ。お前が追い求める『呪われた魂』とは、お前自身がかつて失ったものではないのか?」リリスはその言葉に心を揺さぶられ、自分自身が失ったものに思いを馳せます。それはかつて人間だった頃の彼女の愛や希望、夢だったのです。
ガロンヌ川のフィナーレ
リリスはガロンヌ川の河岸にたどり着きます。そこでは、アステリオンとアリアーヌが再び現れ、彼女の決断を見守ります。リリスは、闇の中で何かを探し求めていましたが、今ではそれが「呪われた魂」ではなく、彼女自身の内なる光であることに気付き始めます。アステリオンは静かにうなずき、アリアーヌは彼女に「恐れを乗り越えるのだ」と励まします。
その瞬間、リリスはついに自らの使命と対峙し、暗闇に飲まれるのではなく、そこから光を見つけ出すことを選びます。彼女は鋭い尾を地面に突き刺し、大地に向かって一声叫びます。その叫びは街中に響き渡り、闇に包まれたトゥールーズの空に一筋の光が差し込むように見えました。
リリスが探し求めていた「呪われた魂」は、実は彼女自身の中にあったのです。彼女は、闇の中で彷徨うことをやめ、光の中へと歩み始めます。アステリオンとアリアーヌもまた、彼女と共に静かに消えゆきます。街には静寂が戻り、人々は再び窓を開きますが、その顔には新たな希望の光が宿っていました。