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料理が「エンタメ」化している
Craig Simpson, The Telegraph, 2025-01-05
料理を「エンタメ」にしてしまうソーシャルメディア
現代社会では、料理が「エンターテインメント」化し、ソーシャルメディアやテレビでの華やかな料理の映像が、若者を実際の料理から遠ざけているという指摘がされています。これを懸念するのは、キングスカレッジ・ロンドンのフィオナ・ラヴェル博士です。
ラヴェル博士によれば、ソーシャルメディアやテレビに映し出される料理は、視聴者に強く印象付けるために過度に美しく装飾されています。視聴者は、料理を画面越しに楽しむ一方で、実際に挑戦することを「自分には無理」と感じてしまいます。
例えば、TikTokで4,080万人のフォロワーを持つゴードン・ラムゼイや、Instagramで人気のジェイミー・オリバーといったシェフたちが紹介する料理は、多くの人にインスピレーションを与えていますが、その一方で「自分の料理は見劣りする」と感じる人も少なくありません。
料理がエンターテインメントとして消費される一方で、家庭での実践が減少しているのです。
料理が「完璧」でなくていいというメッセージ
一部の研究者は、ソーシャルメディアが料理の「敷居を上げてしまう」現象を指摘しています。これは、多くの人々が「料理はプロフェッショナルの仕事」と感じる要因の一つとなっています。
料理に対する過度なプレッシャーが若者を遠ざけている中で、ラヴェル博士は「料理はミシュラン星レベルである必要はない」と強調します。家庭料理の目的は、栄養を取り、楽しむことにあるべきで、見た目や技術の高さが最優先ではありません。
料理スキルの世代間断絶
かつては、料理のスキルが世代間で受け継がれることが一般的でした。祖父母や母親が教える伝統的なレシピは、家庭の味や文化を守る重要な役割を果たしていました。しかし、現代ではその伝承が途絶えつつあります。
ラヴェル博士によれば、母親から料理を学ぶ機会が減少している現在、この「学びのギャップ」を埋めるために、別の教育手段が必要だといいます。
若者たちは、ソーシャルメディアで祖母世代の伝統的なレシピを視聴することが増えています。例えば、イタリアの祖母たちの料理を紹介するYouTubeチャンネル「Pasta Grannies」は100万人以上のフォロワーを抱えています。
しかし、こうした動画は、懐かしさや家庭的な温かみを提供する一方で、実際の料理スキルを育むものではありません。
料理文化の新たな習慣と課題
ソーシャルメディアは、料理文化に大きな影響を与えました。料理を写真に撮り、共有する「食のポルノ」とも呼ばれる現象が広まり、多くの人が食べ物を美しく見せることに注力するようになりました。この文化は、2014年にフランスの有名レストランが「食のポルノ」撲滅キャンペーンを開始するきっかけにもなりました。あるシェフは、レストランのメニューに「カメラ禁止」のシンボルを導入するほどでした。
こうした背景の中、料理が「見るもの」から「実際に行うもの」へと再び変わるには、どのような取り組みが必要でしょうか?
料理教育の新しい形が求められる
料理スキルの世代間断絶を補うためには、新しい教育手段が必要です。一部の専門家は、学校教育や地域コミュニティでの料理教室の復活を提案しています。また、ソーシャルメディア上で、プロのシェフだけでなく、家庭的でシンプルな料理を紹介するインフルエンサーの役割が重要になる可能性があります。
例えば、InstagramやTikTokで活動する栄養士エミリー・イングリッシュは、自身の著書「Live to Eat」を通じて簡単で健康的なレシピを広め、多くの支持を得ています。レバノンのセレブシェフ、アビル・エル・サギールは2,740万人のフォロワーを持ち、伝統的なレシピを紹介することで大きな注目を集めています。
ソーシャルメディアの利点と課題
ソーシャルメディアは、料理に関する情報を広める強力なツールであり、多くの人々が新しいレシピや技術に触れる機会を提供しています。しかし、同時に「完璧な料理」のイメージを助長し、初心者にとって心理的な壁となることもあります。
ラヴェル博士は、料理が楽しめるものであることを若者に伝えるために、料理教育を「楽しさ」と「実用性」の両面から見直すべきだと提言しています。