忠臣蔵:大序見てよかった(文楽 2024年秋)
文楽鑑賞@国立文楽劇場(大阪)。
『仮名手本忠臣蔵』大序〜四段目まで。
何年かかかったけれど、これで過去に観ていた五段目〜十一段目とつながり、コンプリート感もあり、大満足。
文楽を観はじめて7〜8年目。我流で観ているので、いまだ詳しいことは語れないのがちょっと恥ずかしい。そしてそれゆえに、本当に申し訳ないのですが、これまでは、五段目以降(あの有名な、六段目 勘平腹切の段も、七段目 祇園一力茶屋の段も)、あまり自分にはハマらず共感できないなあと思って見ていた。でも今回、頭からストーリーを観て知って、なるほど、と。次回からは五段目以降をより楽しく観られそうだと思った。忠臣蔵が出て来る落語も、同じく!
いわずもがな、史実の「赤穂事件」(1701)を翻案し、約40年後に誕生した本作。物語全体は、実際に起きた事件の流れをたどっているけれど、登場人物は『太平記』の時代に仮託され、エピソードの多くも後の創作。何より、仇討ちに至るまでの登場人物たちの苦悩や人間関係が多く描かれているのも特徴(文化デジタルライブラリーより)。
↑それも、他の文楽作品より、サイドのサイドストーリー(もはやあまり本編と関係ない話)が少なめだったのが印象的。ちなみに自分は、文楽ならではの(娯楽作品にしたてるための)、サイド・サイドストーリー(自分の造語)が多めなのも嫌いではない。いや、むしろ好きなタイプ。
さて、物語の多くがフィクションだからこそ、仮名手本忠臣蔵は、「頭から見ないとダメなんだな」と再実感。とはいえ大昔の話すぎて、登場人物たちにまったく感情移入はしないんだけど、話の流れがわかって後半を観るのと観ないのとでは大違い。他の作品以上にそう感じた。
そして、前半ラストの「塩谷判官切腹の段」〜「城明渡の段」の展開は見事。切腹の段は「通さん場」として、上演中の出入りを禁止しているそうだがその理由も体感。キリリと張り詰めたシーンだからこそ、出入りでその雰囲気を壊すのはご法度。この段の鶴沢清介さんの三味線もぐっと沁みた。なんでこんなに骨太なのに沁みるような美しい旋律が生み出せるのだろう……。人間国宝 吉田和生さんの塩谷判官もよかったな。前半は少しだけの出番だけど、吉田玉男さんの大星由良之助も印象的だった。
……とぐっと来ていたけれど、よくよく考えるとこの物語、すべては「男女の色恋」が発端になっていて、一歩引いてみるとほんと馬鹿馬鹿しいんだけど、人の運命なんてこうしたちょっとしたことで変わるんだよなあと妙な説得力もあり。このツッコミ方の感じ、我ながら愛すべき80〜90年代のドラマを見ている時と同じ感じだなと思って。ジェンダー感ゼロの今見るとひどい話もあるんだけれど、とはいえ登場人物たちはその時代を鮮やかに生きていて。絶対この当時のドラマは現代以上に、今後「古典」として愛されるんだろうなあとつよく思った。
そして、今日は女性役の三対の「首(かしら=人形の頭のこと)」が妙に際立ってみえた。「顔世御前」と「戸無瀬」の首は“老女方”。老女方ってひどい名前だけど、今日はひときわ美しく聡明で輝いて見えた。それに加えて、「おかる」ちゃんと「小浪」のおぼこくて、頭悪く(ごめん)見える感じたるや。ほんと、人形の首ってよくできているし、衣装や着付け、人形遣いの演じ方によってもがらりと変わるんだなあと思った。でもちゃんと昔の人は、「大人の女性の魅力」をわかってるじゃん!と妙に嬉しくなったり。
毎回素人の自分のガイドとしてお世話になっているパンフレット。登場人物関係図が写真付きで載っていてありがたいけど、それぞれの人物の役職をしっかり書いててほしい(首をほめたあとで悪いが、ここに首の種類の名前はいらない……)。便利なようで、結局よくわからない図になっているのが惜しいところ。
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まとまりのない感想ですが、観劇にあたって予習に使った、このサイトが素晴らしすぎた。作品解説・見どころが細やかで秀逸! 作った人の愛があふれていてよかった。
観劇後は、千日前「かつどん」さんでカツ丼ランチ。竹本織太夫さん行きつけのお店で、学生時代の先輩のお店とのこと。お出汁が効いていて最高においしかった。