【対談前編】 命と暮らしを守る #枝野政権構想 枝野幸男×福山哲郎 6月1日
枝野幸男代表は、5月29日の会見で、「支え合う社会へ―ポストコロナ社会と政治のあり方(『命と暮らしを守る政権構想』)」(私案)を発表しました。それを受けて、今回は枝野代表に、コロナ後の社会のあり方、政府のあり方についてお話を伺いました。まずは、前編をお届けします。(後編はこちら)
※実際の対談の様子はこちらからご覧いただけます。
枝野代表はどう見る? 政府のコロナ対策
福山:枝野代表は先日、新たな政権構想を発表されました。そのことを今日はじっくりと伺っていきたいと思いますが、まずは、コロナ対策の現状について、その評価を語っていただけますか?
枝野:ほとんどの施策が遅い、それから対象が狭い、規模も小さい。PCR検査の遅れに始まり、10万円一律給付の決定も遅かった。私たちが4月の1次補正の段階でしなければいけないと訴えていた支援(地方への候補金、医療機関への支援など)が何とか2次補正に入ったという状況です。この間、事業者のなかには、事業継続を断念された方や、暮らしが成り立たなくなった方がいます。困窮者を支援するNPOや生協の相談会をのぞかせていただきましたが、コロナ禍以前と比較すると若い方や女性の方の相談が急激に増加しており、やはり支援策の遅れや規模の小ささが現れていると思いました。生活の困窮などは、ここから本格的に顕在化してくるのではないかと思っています。
福山:困窮の声はこれからますます広がるような気がします。政府与党が野党の主張を受け入れたことについては評価したいのですが、それが遅くて対象が狭いということに対しては、野党としては地団太を踏む思いが続きましたよね。
枝野:家賃支援なんかが典型ですよね。ないよりは間違いなく大きな前進なんだけれども、これでは救いきれないというか、救える方が一定程度に限られてしまう。
命と暮らしを守る政権構想。どうして今必要なのか?
福山:先日の会見で、命と暮らしを守る政権構想を発表されましたが、どういった狙いで政権構想を発表されたのでしょうか?
枝野:新型コロナ感染症によって、多くの方が、次の時代はいままでと違うぞと感じざるを得ない状況に追い込まれていると思います。コロナを乗り切った先に、こういう社会があるんだよということをできるだけ前広に示すということが我々のひとつの役割ではないかと考えました。それに、対策が遅い、狭い、小さいとなった原因、対策が右往左往していると感じられる原因には、コロナの影響で社会が変わらざるを得なくなっている、その本質部分をちゃんと見極めずに一個一個の現象に場当たり的に対応しているということがあるのではないか思います。コロナによって突き付けられている社会の矛盾や弱点、問題点を、こう乗り越えていくんだというポストコロナの姿を示して、対策を組み立てていくことが、足元の対応としても重要です。早い段階でしっかりとした方向性を示すことが、足元のためにも、将来の希望を持つためにも大事なのではないでしょうか。
福山:代表が約3年前に立憲民主党を立ち上げられたときから、「まっとうな政治」という言葉のもと、立憲主義、ボトムアップの政治を掲げてきたわけです。これまでも社会の変化に対応しようとする我々の問題意識があったと思うのですが、その問題意識と現在のコロナを目の前にした問題意識とでは、大きく変わったことがあったんでしょうか?
枝野:問題意識は何も変わっていません。私個人ということで言えば、東日本大震災に直面をして、いろいろなものを改めなければいけないと感じざるを得ませんでした。そこからあまり変わりはない。この感染症でそのことが顕在化をしてしまった。日本社会、このままでは行き詰まるし、矛盾が拡がっていく、変えなきゃいけない、と思ってきたことが、いきなりドーンと突き付けられて、目の前に示されているのが今の状況。ずっと我々が言ってきたことと、時代のニーズが合致してきたのが今の状況なのではないかと思います。
福山:「まっとうな政治」のもとで、3年前に枝野代表が重視した1番のところは「暮らしを立て直します」でした。保育士、幼稚園教諭、介護職員等の給与の引き上げや、零細事業者に対する社会保険料負担の減免は、今も重要な課題です。また、児童手当・高校等授業料の無償化、所得制限の廃止、大学授業料の減免についても、一部は今回の補正予算に部分的にでも取り入れられました。さらには、所得税・相続税、金融課税をはじめ、再分配機能の強化は、今後大きな課題になります。今回の補正予算に対しては、これらのこををより具体的に主張しているというところもありますよね?
枝野:そうですよね。今やらなくてはならない政策は、3年前にやっておけばよかった政策だし、我々が言っていたものがほとんどです。時代のニーズが合ってきたことを喜んでいいのか、それとも、こんな状況まで日本社会が追い込まれたことを残念に思った方がいいのか。ただ、我々が目指してきたものや言ってきたことは間違っていないと、自信は持たなくてはなりませんね。
「新自由主義社会」とは何か? 問題点はどこにある?
枝野:「新自由主義的社会」とは、競争版の目先の効率性重視、個々人に自己責任を問う、そういう経済や社会の仕組みで、この30~40年ぐらいで急激に強まってきました。その結果、医療が崩壊の危機に晒されたわけです。介護施設や保育、学童保育、障害者福祉、そのケアサービスがなくなってしまったら生きていけない、生存に不可欠なサービスなはずなんだけれども、いずれも競争や効率性が求められてきました。例えば医療機関では、ベッドの数が抑制をされ続けてきており、地方の拠点病院を統廃合するという今国会で提出された法案もまだ生きています。ぎりぎりでまわっていた医療も介護、保育は、今回のコロナ感染症で崩壊の危機に晒されているのです。これが一つ目の弱点です。
もう一つは、非正規雇用の問題です。非正規雇用がこれだけ増えたのはこの20年ぐらい。コロナのために、正社員には来なくてもいいですよとなっても、非正規雇用の方も仕事に来なくていいですよとはならない仕組みにがあります。それから、今は、非正規雇用の方が寮に入って働くことが、製造業の方を中心に非常に多くなっています。派遣切りにあった瞬間に、1か月後には寮から出なくてはならず、ホームレスが急増する構造があります。また、貯金ゼロ所帯も増えていて、失業後に食っていくことができない方がすごく増加してしまって、社会全体が脆弱になっています。これが二つ目の弱点です。
三つ目の弱点は、効率重視でやってきたため、経済が国際分業を進めてきたことです。その結果、輸入に頼っていたマスクや防護服が足りなくなりました。ロシアやインドなど世界の食糧をまかなう地域でより感染が広がれば、世界的食糧危機になる恐れがあり、そうなってしまうと、日本は倒れてしまいます。
それから一極集中も問題です。東京周辺では多くの皆さんが満員電車に乗らざるを得ず、不安を抱えながら通勤されている方がたくさんいらっしゃるんじゃないかと思います。一極集中は効率的だけど、脆弱であるということがわかりました。
福山:ただ、国際協力は一定程度しなくてはなりません。そのバランスが重要ですね。
枝野:協調と、行き過ぎた分業を止めることは矛盾する話ではなく、コストの安いところとの分業はするけれども、いざというときには国内で対応できる最低ラインは必要だよね、ということで十分両立します。ポストコロナでは脱グローバル化が言われたりしますが、私は、一定の国際協調と国際分業の役割分担というのは必要で、一国主義というのは、特に日本では成り立たないので、そこは間違えてはいけません。
小さい行政機関、何が問題なのか?
福山:次は「小さすぎる行政」の脆弱さということで、一つ目は「マンパワーの不足」とありますが、これはどういうことでしょうか?
枝野:PCR検査の目詰まりの原因はいろいろありますが、やはりひとつの大きなポイントは保健所です。保健所の数はこの30年間で半分ほどになり、職員の数も減らされてきました。一定の経験・知識がないとできない仕事ですので、問い合わせの電話も増え感染者が増えたという状況では、完全にパンクしたわけです。それから、10万円の一律給付です。使いこなせていないマイナンバー制度まで下請けにどーんと下ろしたら、市役所、市町村役場はパンクしました。野党が声を上げ続けたことで、与党内でも応じざるを得なくなり、急遽転換をしたので、準備期間もなく、職員の手が足りずに処理ができていません。
福山:二つ目に、「司令塔が不明確で縦割りの弊害を生む構造」が今の行政組織にあるということですが、これについてはいかがですか?
枝野:多くの皆さんも、司令塔が誰なのかわからないですよね。西村経済再生担当大臣なのか、それとも加藤厚労大臣なのか、官房長官はなぜか最近姿が見えないし。これは結局、内閣官房の問題なんです。政府の役所横断的な物事をさばく機関として内閣官房があるのに、使われていない。実は内閣官房には内閣府防災という部局があって、東日本大震災のときも頑張ってくれたし、あのときの教訓や経験、ノウハウを持っています。ところが、今回のコロナについては、そういう司令塔がいません。自然災害と一緒だから内閣府防災をもっと絡めて内閣官房が全体を仕切るべきと、私は党首会談のときからずっと言ってきているのですが、全部総理周辺のチームだけでやっている現状です。
福山:三つ目は、書面主義のために「迅速な情報集約・事務処理ができない構造」があるということですが、いかがでしょうか?
枝野:FAXで報告をさせていたことを知って、私たちもびっくりしましたよね。一応、感染症に関しては地方の保健所等と中央の感染症研究所をつなぐネット環境を整備していたということですが、今回は使われていません。これも党首会談のときに、全国から一元的に集約しろと、その後予算委員会でも、コンピューターシステムを一度構築してしまえば手間にならないんだから、ちゃんとしろと言ったのに。
福山:今ならアプリでもできそうですよね、ひょっとしたら。
枝野:そうですよね。それからもう一つ私が驚いたのは、マイナンバーの使い方です。マイナンバー制度を作ったこと自体は間違ってなかったと私は思いますが、行政サービスをより良くするために使うのではなくて、国民を管理し、国民の情報を把握しようとする、そういうスケベ心ばかりが目に付いて、危ないという問題意識がありました。危なくても、せめて本来の役割である行政サービスを効率的に行うという部分が進んでいるのであれば、まだ一つの議論になるんだけれども、結局何にも使えない。マイナンバーってナンバーを振ったけれども、こんな危機のときに全国民に金を配るというのに、そのシステムが使えないというのは、まったく制度として意味がなかったということです。
後半に続きます。是非そちらもご一読下さい。