食事は2日に1回!?シングルマザーの想像を絶する窮迫状態【対談】 赤石千衣子×福山哲郎 5月21日
今回は、一人親家庭の支援・応援を目的とするNPO法人「しんぐるまざーずふぉーらむ」の理事長の赤石千衣子さんに、コロナ禍における一人親家庭の実情についてお話を伺いまいた。
※実際の対談の様子はこちらからご覧いただけます。
想像を絶する困窮の実態
福山:今回、明石さんたちは、調査をされて、一人親家庭の非常に厳しい状況を訴えおられますが、まずは調査結果も含めた実態についてご紹介いただけますか?
赤石:3月の全国一斉休校の際、一人親家庭の皆さんがお困りだろうと、アンケートを実施しました。その段階で、収入がなくなるという回答が5%、収入が減少するという回答が43%という結果でした。これは大変だと、その月にお米を全国1,100世帯に送りました。寄せられた感想には、お子さんが母親に向かって「今日はお米がたくさんあるね、雑炊じゃなくていいね」と言ったというものがありました。それが3月20日過ぎです。その段階ですでにそうした状況だったので、非常に驚かされました。4月に再度調査を行いましたが、困窮の度合いはさらに増し、収入がなくなったという回答は6.8%、収入が減少したという回答が約54%と、だんだん深刻化していく実態がわかりました。
緊急小口資金であれば償還免除規定もあるからということで、小口資金をなんとか借りるようにお伝えしました。しかし、支援を行う中で、なかなか自分一人で窓口に行って借りることのできない方が多いということがわかりました。団体への相談件数もどんどん増加し、4月からでは400件近くになっています。そのうち6~7割は生活困窮の相談です。5月初めには、「もう1円もなくて子どもは水を飲んで空腹を凌いでいます」、「子どもを食べさせるために自分は1日1食にしています」という声も寄せられています。この分だと、相談につながらない方はどう過ごしているんだろう、もしかしたら命に係わる問題なのではないかということで、一人親家庭に目を向けた施策をしていただきたいと各党に要望を出しました。
最近の調査では11%の方の収入がなくなっていて、どのように節約しているのかを尋ねたところ、「1日1~2食です」、「自分のご飯は2日に1度にしている」など、食事の回数を減らすという回答や、食事の質を落とすという回答が最も多かったです。あとは、公園で飲み水を調達するとか、トイレの水を流すのは家族全員が用を足してから1回だけにするとか、本当に非常時になっています。食事が2日に1回という母親には昨日連絡を取りましたが、生後4か月と4歳、小学1年生のお子さんがいて、保育園もないので、お子さんは卵かけご飯のみで、お母さんは、「今日は食べません」と言っていました。
福山:仕事がなく収入がなくなっているご家庭にとっては、一般的な児童扶養手当だけが唯一の収入ということになるんでしょうか?
赤石:そうですね、児童扶養手当と児童手当だけで暮らしておられる家庭はすごく多いと思います。
福山:例えば先ほどの2日に1回しか食事をされないお母さまのところは、児童扶養手当が子ども3人だとだいたい5万円ぐらいですかね。
赤石:5,6000~5,8000円ぐらいです。
福山:その額に児童手当が加わるということですよね。
赤石:そうですね。5月11日に児童扶養手当が入金されたと思います。でも、家賃などを支払ってしまうと、お米と卵しか買えないということになります。
福山:そのような状態が3月から始まっていて、5月11日まで児童扶養手当が来ない。光熱費も状況によっては払えませんよね。加えて、10万円の給付もまだということは、児童扶養手当が来ても、そのほとんどが光熱費や家賃に費やされてしまい、食費を捻出しようと思ってもほとんどお金が残っていないという状況なんですね。
赤石:でも、お母さんはすごく我慢強いので、お米と卵を買えていて今は大丈夫だから、この支援は他の方に回してあげてください、とおっしゃるんですよね。それはまずい。お願いだから支援を受け取ってくださいと伝えました。何かの病気になってお母さんが倒れてしまったら、子どもたちが共倒れになってしまいます。想像を絶する窮迫状態がこの世の中にあるわけです。
福山:もちろん、そうしたご家庭には貯金もないでしょうし、頼れる方もあまりいらっしゃらないではないでしょうか。
赤石:ちょっともう胸につまされるような話が多くて、私どももこの問題をどうしたらいいのかと毎日苦慮しています。
多様化する一人親家庭を取りこぼしてはいけない
福山:今、国に対して一番要望されていることは何でしょうか?
赤石:一人親を応援してほしいのですが、まずは、児童扶養手当の受給者が多いので、そこの増額をしていただきたい。そして、あなたたちに光が当たっているんですよというメッセージを国として発信していただきたいと思います。
ただ、一人親でも児童扶養手当を受けていない、例えば遺族年金を受けておられる方、障害をお持ちで障害年金受けておられる方、まだ離婚が成立していなくてなかなか手当を受給できない方、あるいは、いろいろな事情で手当を受けられない方、こういう方々も20~30%いらっしゃるので、彼らにも光が当てられないといけません。また、二人親家庭でも、お父さんもお母さんも失職してしまったという家庭も結構あるので、住民税非課税の子育て世帯全体にも給付を、ということをお願いしています。財源の問題もあって大変というのはお聞きしているのですが、やはりひとつの対象だけだと外れてしまう方がいるということが大変気になっています。
福山:非課税世帯で収入が激減した世帯への30万円給付という話もありました。あの給付は、10万円一律給付とは役割が全然違う。30万円給付も残してくれと、私たちは言っていたんです。そうすれば、10万円と30万円でいろいろな方をカバーできるはずでした。しかし、残念ながら、30万円給付は予算に盛り込まれませんでした。ですので、今は、まずは児童扶養手当の増額です。我々は、「コロナ困窮子ども支援法案」として、コロナの感染拡大が始まってからの半年間6か月分、児童扶養手当をおよそ倍額にしてほしいということを提案しています。与党も一生懸命考えてくれているので、児童扶養手当を増額するという考え方では与野党にそれほどの違いはないように思えます。それもすべては赤石さんたちが動いてくださっている結果です。我々としては、与野党を超えて、何とか児童扶養手当の増額についてまとめたいと思っています。
赤石:4月の末に一人親はものすごく大変なんですという話をしても、最初は「そうなの?」みたいな反応が返ってきましたが、この間に皆さんに実情を訴えて、すごく理解を深めていただいたと思います。一人親に支援が必要なのだということに気づいていただいたことを、ありがたく思っています。この先、給付金や手当が届くまで何とか私たち民間で支えるので、国のほうでも頑張っていただきたいというのが願いです。
福山:あとは、児童扶養手当など支援枠組みから外れてしまう人たちにどのような支援の形を作るかですよね。プレシングルの方や、二人親家庭でも非正規の両親が双方とも仕事を失っているという事例がたくさんあるので。
赤石:非正規の方々は、なかなか休業補償に辿り着かないということが明らかになってしまっています。施策はあるんですけれども、雇用主にも余裕がなく自分のところの経営で精いっぱいなので、なかなか手続きしてくれないという声は聞きます。やはり支援が届かないということになります。
一人親を孤立させてはいけない
福山:休業補償を貰える方/貰えない方、児童扶養手当を貰える方/貰えない方、そのような形での分断や心のしこりが残ることは、この危機の中で本当によくないことだと思います。心理的な面でも、一人親の親御さんはもとより、子どもにもいろいろな影響があると思いますが、そのあたりはいかがですか?
赤石:お子さんも、親の状況が不安であれば、当然すごく不安になっていると思います。ゲームだけをしているという話も聞きます。「外遊びをさせてあげたいけど、子どものお腹が空いても食べさせるものがないからゲームをさせ続けている」とか、そんな事例もありました。お母さんたちを孤立させないことも大切だと思います。メールマガジンを出したり、ちょっとハードルが高くともオンラインのママカフェをやったりなど、いろいろな形でメンタルを維持してもらう仕組みを作ったりしています。
福山:少しでも家計に対して安心してくださいという国からのメッセージと、具体的な支援が大切になりますね。
赤石:それはとても大事だと思います。自分のことは社会が置き忘れていると思っている方も多いと思うので、自分たちを代弁して世の中に発信してくれているというだけでも、彼女たちは少し元気になります。
福山:自粛で仕事もなくなって家で子どもに囲まれながら一生懸命日々どうしようと考えておられる方は、思考がどんどん内向きになりますから、自分たちのことを語ってくれる人がいるということをわかっていただいて、少しでも元気と勇気を持ってもらえればと思います。
私たちの無関心が、一人親家庭を困窮に追い込んだ
赤石:最も脆弱性を抱える集団のひとつが一人親家庭であること、このことを、私たち、あるいは、国も社会も、すでにわかっていたわけですから、もっと早くから施策に結びつくような提案をして、それが実現していたとすれば、今こんなに心配しなくて済んだはずです。私たちも言ってはいたのですが少し力足らずで、この3か月彼女たちを厳しさに追い込んでしまったなと思います。
福山:そう言っていただくことはありがたいのですが、政治の場にいる我々は非常に責任を感じていますし、耳が痛い。我々がちゃんと寄り添う仕組みを準備しておかなくてはいけませんでした。5月の終わりから6月、派遣切りや失業がさらに増加すると予想されます。どんどん財布が心細くなるのが 5月の終わりから6月だと思っていて、それをすごく心配しています。
赤石:そうですね、特別定額給付金が早く入ってくれるとよいのですが、自治体によってちょっと異なります。何とかそこまではお米なり支援なりを届けたい。公的なところは迅速性はないので、私たちが必死にやりながら、その先は国の施策や自治体の施策をぜひと願っています。あとは、平時のときの支援が足りなかったんだという反省をしていくしかないのかなと思います。
福山:我々は、児童扶養手当の増額の実現を与党とも折衝しながらやっていきたいと思います。「しんぐるまざーずふぉーらむ」の取り組みを支援したいという方はどのようにすればよいのでしょうか?
赤石:WEBサイトに寄付のページがありますので、ぜひ応援いただければと思います。より多くの一人親の方に支援を届けるべく、スタッフが必死に頑張っております。
福山:しんぐるまざーずふぉーらむも関わっている「一人じゃないよプロジェクト」というプロジェクトがあり、一人親家庭の皆さん以外にも障害を持った方とか子ども食堂の運営だとか、いろいろなところで支援や救済に頑張っていただいているNGOや社会企業家、そういった団体の皆さまが「一人じゃないよプロジェクト」ではそれぞれの活動を紹介して寄付を募っています。
赤石:これは、小島慶子さんや浜田敬子さんなどいろいろな方が立ち上げたプロジェクトで、支援を呼びかけてくださっていて、本当にありがたいです。「共助」と「公助」の両方が進むといいなと思っています。
福山:現状、一人親家庭、特にシングルマザーで派遣やパートタイムとして働いている方の時給がそもそも安すぎではないでしょうか。最低賃金も問題ですが、現実問題としては、普段がぎりぎりだから、何か危機的なことが起こったりするとすぐに崖っぷちに追い込まれてしまう。こうした社会にこそそもそも問題があると思うのですが、その点についてはどのように思われますか?
赤石:おっしゃる通りですね。シングルマザーのパート・アルバイトの年間の平均収入は、133万円です。1、2人お子さんを持つ世帯が、133万円で生活しているのです。これは厳しすぎる。この方たちの収入を上げる方策を考えなくてはいけません。最低賃金の引き上げや、彼女たちの働き方が保証される仕組みを一緒に考えていただければと思います。
※ NPO法人「しんぐるまざーずふぉーらむ」のWebサイトです。ぜひご訪問ください。
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