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【対談前編】ガラパゴス化する日本の感染状況と新型コロナ対策とは 國井修×福山哲郎 5月6日

今回は、ジュネーブより、感染症の予防・治療・診断と支援を行うグローバルファンドの戦略投資効果局長で医師でもある國井修さんにお話を伺いました。まずは前編をお届けします。(後編はこちら

※実際の対談の様子はこちらからご覧いただけます。

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感染症対策専門家が見る、新型コロナの流行

福山:まずはグローバルファンドでどのようなことをされているのか、感染症とずっと向き合われてきた立場から現状をどのように見ているか、グローバルファンドについても含めてご説明いただけますか?

國井:グローバルファンドが扱っているエイズ・結核・マラリアの三大感染症は、1年間に2億人以上の方が感染し、死亡者は240万人を超えます。コロナと比べると、7~8倍の感染者が出ており、死亡者は10倍です。数は減ってきていますが、いまだに世界中で猛威を振るっています。グローバルファンドは、そうした感染症に対して予防・治療・診断を行い、世界130か国で活動している団体です。

福山:世界各国がそれぞれ基金に資金を拠出するかたちで運営されているんですよね?

國井:そうです。我々の重要な役割は、世界中からお金を集めて、それを130か国以上の感染が広がる地域に送り、政府や国連機に加えて市民社会のコミュニティの方々ともパートナーシップを組んで、皆で一緒に計画を立てて実施をして、モニタリングもして、より効果の高いプロジェクトの促進をしています。

福山:コロナウイルスの影響は、そうした感染症対策の現場にも出ているのでしょうか?

國井:新型コロナの影響は直接的また間接的にあります。まずは、コロナが広がることによっていろいろなことがストップしています。ヨーロッパなどが最たるものなのですが、コロナが入り病院が機能が不全になるんですね。アフリカでもそうなりつつありますが、病院も少ない、医者も少ないような地域にコロナが入っていって、これまでエイズ、結核、マラリアの治療をしていた人たちが働けなくなっています。また、ロックダウンがアフリカでも始まっていて、医師たちが病院に来られなくなったり、患者さんも来られなくなり薬がもらえないというようなこともありました。中国でロックダウンが起きたことも大きい。今良い薬で安く作ってくれるところは中国とインドなんですね。そうした国で製造している薬をアフリカに送れなくなってしまい、それで事業が停滞したり遅れたりしたこともありました。

福山:グローバルファンドも、コロナを放っておくわけにはいかないですよね。それについてはどんな状況なのでしょうか?

國井:国連、政府、現地の市民社会からいろいろな人たちが協力しているので、その協力体制をコロナにも使おうという気運が高まっています。我々は急いで今ある資金をリプログラムして、現地のお金をまずは5%から、すぐにコロナに使っていいよとしました。その間に、どのくらいのものが途上国で必要で、そのためにグローバルファンドや世界銀行などがどのくらいお金を集めて一緒に協力していかなければならないのかを皆で考え、コンソーシアム(共同事業体)を作っています。その中でグローバルファンドは、世界中に送っている結核診断の機械があるのですが、結核の遺伝子分析の検査がコロナに対しても使えるようになったので、この機械をどんどん取り寄せ、現場での検査を広げています

福山:すると、検査に対するハードルはだいぶ下がるわけですね。

國井:だいぶ下がります。ただ、ちょっと高いですけどね。とはいえ、今は背に腹は代えられないので高くてもどんどん現場に送って検査を始めています。

感染の舞台はアフリカへ

福山:感染は中国で始まり、アジアやヨーロッパ、アメリカにも広がり、いよいよアフリカだと言われていますが、アフリカの感染レベルはどういう状況だと考えるべきなのでしょうか?

國井:どんどん広がっています。始めはエジプトなどでヨーロッパからの旅行者を介して入ってきたのですが、それ以外の地域にもどんどん入ってきていて、今はもう52か国以上、ほぼアフリカ全土に蔓延しています。感染者数もついこの間1000人ぐらいだと思ったら2万人以上と増加しました。ただ、2万人以上と言っても検査がやっと始まったところで、それも医療レベルがそれなりに良く検査も入ってきやすい地域なんです。サブサハラ地域(サハラ以南)といわれる貧しい地域ではまだまだ検査ができていないので、どのくらい感染が広がっているのかまだわかっていません

福山:治療薬がない状況なので、感染しても放ったらかしだったり医療にかかれない人も多いということですよね?

國井:まさにそうです。特に8割ぐらいの方は感染しても無症状・軽症だと言われているのですが、重症の場合はICUに入らなくてはいけませんし、人工呼吸器が必要な場合もあります。ところが、そのICU自体が無い国がほとんどですし、医師が人工呼吸器を見たことがないというレベルもたくさんあります。なので、このような地域で流行った時には、まず助けることができないという状況です。

福山:アフリカでの感染が広がると抑えようがなく、感染拡大の状況についてもどの段階にあるのか全体が把握できない状況の中で、今度はアフリカからもう一回、他の世界の国々への二次感染・三次感染が起こるというリスクはないのでしょうか?

國井:まさにあります。アフリカと中国は非常に商業の交流が盛んなので、アフリカの方々で中国を訪れる方も多くいますから。世界中に感染が拡大して初期に発生したところにまた戻ってくるということもあり得るんですね。また、アフリカの方が中国国内において差別されているという状況もあります。

全然違う!?アジアと欧州の準備体制

福山:日本国内では、そろそろ一旦収束に近くなっていろいろなものを解除しだす準備に入っているという報道があります。しかし一方で、検査数はヨーロッパの国々と比較すると少ないという状況です。日本の今の現状、それから世界のコロナウイルスの蔓延というのは、流れでいえばどの局面にあるのでしょうか?世界の状況と日本の状況、双方について考えをお聞きしたいと思います。

國井:実はヨーロッパにもかなり早い時期にウイルスは入っていたようです。ところが、ヨーロッパは対岸の火事と思って油断していたら、突然爆発したという形です。ヨーロッパとアジアに多くの違いがありますが、その中でも大きいのは、アジアでは、SARS、MERS、新型インフルエンザの際にいろいろな失敗があったということです。その失敗と教訓のために、それが上手くいったというか、準備ができていたというのはあると思います。ところが、ヨーロッパは、例えば新型インフルエンザに対して、国と各州などがきちんとした準備体制をしていなければならなかったのに、できていませんでした。こうした意味では、アジアとヨーロッパでは準備態勢が違っていたということがあります。病原性が変わったとか遺伝の体質が違うとか言う人もいますが、私は基本的に、準備体制や収容能力などの部分においてかなりの違いがあったのだと考えます。ヨーロッパの中でも成功している国とそうでない国があります。例えば感染者がかなり増えたドイツでは死亡率を下げることができましたし、アイスランドも感染を抑え込み、死亡率も本当に低い。そのような国もあるので、おそらく初動態勢やきめ細かい対応ができたのか、そういったことの違いだと思います。

ガラパゴス化する日本の感染状況と対策

福山:日本はどうでしょうか?

國井:まずはフェーズの話ですが、ヨーロッパは全体的にピークは過ぎた感じです。本当にひどかった3月中旬から下旬、その辺りからロックダウンを始めて、1か月半ぐらいでピークが終わって、今やっと下がってきた。ですから、今ヨーロッパは、封鎖をどのように解除していくかという段階にあります。ほとんどの国が少しずつ緩和策を段階的にやっていこうということで話が進んでいます。まだ死亡とかは多いんですが、ヨーロッパは一応そのようなフェーズに入っています。

福山:一応ピークアウトしたという見方があって、それに見合う検査があり、ある程度の納得できる根拠などもあり、そろそろ解除の動きが出てきているということですね?

國井:そうです。日本ついてですが、コロナが最終的に収束した後に、日本というのは非常に特殊なケーススタディになると思います。もしこのまま凌いで収束したなら、日本のケースというのはいろんな形で世界から注目されるでしょう。なぜこんなに他のアジアの国々と比較して「甘い」形のやり方で上手くいったのか。ヨーロッパから見れば本当にもうロックダウンもせず、厳しい強硬策もせず、それでうまく感染者や死亡者を抑えられたのはなぜか、というのは皆さん注目してくると思いま。ただ、私は、日本は結構きめ細かい対策はできていたと思っています。やはり新型インフルエンザなどの過去の経験も含めて、いろいろな形で自治体レベルまで計画はありましたし、その辺の対策はよくできていたと思います。とはいえ、感染がじわじわと広がっているのは確実ですし、今の感染者数というのは、検体数が少ないので、本当の実態を示しているとは思えません。ヨーロッパは日本の10倍20倍というところが多いのですが、それでも検査が足りないと言われています。そして、陽性者の何倍も感染者はいるだろうとも言われています。なので、感染者数というのを指標にして日本は感染が拡大していないということは全然言えないと思います。とはいえ、検体の陽性者数とか死亡者数とかを見てみると、まあそれなりに抑えられているのかも知れません。ただ、追跡ができていない。感染症対策というのは基本的に、感染者を特定して、隔離して他の人たちに広げないようにする。接触者がいた場合には、それもきちんと追跡していく。今はそれができない状態です。今後感染が拡大した場合には保健所や、PCR検査を公的な機関だけでやるという態勢では、ちょっともう無理だろうと思います。態勢を広げていかないと。

福山:今は日本の検査実施数は1万人にもなりませんし、主に東京で行われています。東京も陽性率が3割とか4割で、かなり体調が悪くならないと受けられない状況で、無症状とか軽症者の方が検査を受けずに国民の中で心配が広がっています。

國井100万人当たりの検査数を見ると、実は、タイなんかは日本の2倍、アフリカのジブチでも10倍やっています。その意味では、日本も頑張ってほしい。

福山:以前、韓国の簡易キットの話が話題になりましたが、あれは導入しようと思えば導入できるんですよね?

國井:できると思います。韓国は、SARSやMERSの経験から、今後何か次に起こったときにはすぐに検査や診断、治療といったものを早めに開発して早めに認定できるような態勢を作っています。韓国はベンチャー企業も多いので、民間でどんどん開発していいものを作って出していくという態勢が元々できていました。ただ、韓国は、対策や計画をあまりせずに検査を広げてしまったがために多くの患者さんが医療機関に来てしまい院内感染を広げてしまったとか、陽性だった人を無症状でも軽症でも医療機関に入れてしまいパンクしてしまったということもありました。そのへんは、日本では上手く抑えることできたと思います。ただ、今はもうフェーズが違うので、違った形で検査を広げていく必要があると思います。

福山:接触については、日本では「三密」とか80%の接触減とかが主流になっていますが、国際的に見るとどのような議論があるのでしょうか?

國井:ソーシャルディスタンス、つまり社会的な距離をきちんと取るということは基本的に世界共通ですが、「三密」とか80%減というのは国際的には言われていません。しかし、私は、それ自体は悪くないというかむしろ日本独自の非常に面白い理論だと思っています。ただ、それをどのように伝えて国民の人たちにわかってもらうかというのは、またプラスアルファの努力が必要でしょう。三密は結構わかりやすいと思うんですけれども80%はわかりにくいので。欧米も国で対策が違います。早い時期から完全にロックダウンしている国もあれば、そうした対策をしなかった国もあります。それで、いろいろな差が見えてきたんです。

福山:感染の広がりに差があるということですね?

國井:はい。いろいろ違いはありますが、これは後になってから一つ一つを細かく見て、学校の閉校にどれぐらいの意味があったのか、厳しいロックダウンにはどれぐらいの意味があって、オフィスワークを在宅勤務にしたのはどれくらい効果があったのか、これらについては徐々に数値になってくると思います。いずれにしても、日本の場合は、海外から見ると強硬策ではありませんが、同調圧力などがあって、ほぼ欧米がやっていたようなロックダウンに近いものができています。私は、感染症対策ということを考えると、厳しい方が良いと専門家としては思うんですけれども、やはり経済とか社会とかいろいろなことを考えるとバランスを取っていくことは大事だと思います。バランスのとり方というのは、結構日本は微妙に上手くやっていたと思わなくもありません。

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