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【対談後編】 新型コロナは、日本の未来をつくるためのトライアル 國井修×福山哲郎 5月6日

今回は、ジュネーブより、感染症の予防・治療・診断と支援を行うグローバルファンドの戦略投資効果局長で医師でもある國井修さんにお話を伺いました。ここでは、後編をお届けします。(前編はこちら

※実際の鼎談の様子はこちらからご覧いただけます。

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どの段階?日本の感染フェーズ

福山:日本では、オフィスワークもまだ動いているので、通勤されている方は結構いらっしゃいます。日本は、どのようなフェーズにあると考えられますか?

國井これからも感染爆発が起こり得る状況だと思います集団免疫という考え方、つまり、多くの人がかかってしまえばその人たちが感染していない人たちを守るという考え方があるんですね。でも、これが本当にコロナウイルスで使えるのかは誰もわからないんです。どれぐらいの抗体ができるのかもわからない。抗体ができた場合にどのくらいの間その抗体が効果的なのかもわかりません。

福山:抗体検査というのは、ヨーロッパでは普通に行われるような状態になっているのですか?

國井:まだです。抗体検査のキットはいろいろなところでできていて、実際に始めているところもあるのですが、精度が非常に悪くて、あるものはPCRよりもずっと悪い。多くの政府や政治家の中には、抗体検査をして抗体がプラスになったらもう感染しないから働きに行っていいよという形でパスポートのような証明にしたいという方もたくさんいるんですが、今の段階では逆にそれを使ってしまって他に感染を広げてしまう可能性もあるので、今はまだ検査として使えるものではないのです

福山:まだまだ感染の芽が切れている状態ではないと思った方がいいということですか?

國井:そうです。日本の感染状況はじわじわと上がってきていますね。じわじわと感染者が増えていく途中でばっと感染爆発が起こりかねないということもあります。今ワクチンや薬がない中で大切なことは、感染爆発を起こさずに、その人たちが医療機関に押しかけて医療崩壊を起こさないようにすることです。日本はある意味ではだらだらと行っているので、いかに上手くこの状態を維持するのか、感染者を抑えていくのか、そしてどのように収束に向かわせながらやっていくのかが問題だと思います。

福山:最近になって検査を増やすみたいなことを政府が言い出して、少し方向転換しそうなんですが、検査を増やせば見かけ上の感染者数が増える可能性もあります。ここが日本の評価の難しいところでしょう。

いつになる?自粛緩和のタイミング

國井このまま自粛なり緊急事態宣言を続けていけば、おそらくいわゆる感染爆発は起きないとは思います。これが上手くいけばいいですね。ただ、問題は、この後緩和策をどのように広げていくかです。これは、日本以外でも同じですが、二波三波をどのように抑えていくかというのは今後のすべての世界の重要な関心どころになります。このまま経済が抑えられているのは大変なことなので、緩和策を講じながらどのように感染症と付き合っていくかという話が重要になります。いいシナリオは、いいワクチンや薬ができて、感染しても大丈夫だという形になることですが、その可能性はかなり低いと思います。ウイルスに対する治療薬が難しいというのはわかっているので、いわゆる決定的なモノができない可能性も高いということを考えながら、今後緩和策をやっていく必要があります。日本は、ある程度感染を抑えられたら、今後は経済を広げ人びとの自粛を解消していきながら、この感染症がくすぶりながらも爆発しないという状況でもっていければいいと思います。そのためには、きめ細かい対策が必要です。すべてがダメではなく、具体的な場所や場面、経済状況に応じて対策したり、感染状況を見ながら少し締め付けを厳しくしたり弱めていったりするなど。それに、都道府県によってもかなり差があるので、すべての地域を同じようにしなくてもいいのかなと思います。

福山:ただ、世界全体を考えると、緩和のタイミングや程度、入国制限など、そのトータルマネージメントをするというのは、国際社会や経済とにらみ合いながらになり、相当難しいですね。

國井:かなり難しいと思います。ヨーロッパは、全体としてかなりひどい状況にあるので、それぞれの国が自分の国だけではなくて隣の国も見ながら、国境の制限を少し弱めていったりだとか、地域全体で考えようというのは気運としてあります

第二波?第三波?感染は今後どうなる?

國井:1918~1919年のスペイン風邪の例を見ると、それでも2年間で収束しています。第三波までありました。国によっては、第一波よりも第二波のほうがたくさんの人が死んでいます。とはいえ、薬も何もない状況、栄養状態も衛生状態も悪い中でも、2年間で収まっています。なので、あれだけ大変なスペイン風邪も2年間で収まっていて、今我々は必死にいろいろなことをやっているので、今回は、第二波・第三波があっても2~3年で収まってくれるのではないかという希望はなくはないです。

福山:でも、裏返して言うと、現代はグローバリズムで世界中の移動のスピードと感染拡大のスピードは速くなっている可能性がありますよね。

國井:まさに速くなっているからこそ、アフリカのほぼすべての国まで広がっているというパンデミックが起こったのだと思います。ただ、ウイルスも馬鹿ではないので、自分たちが生き延びるためにはある程度人間との付き合いを考えます。私も今までいろいろな感染症と向き合ってきましたが、実を言うと、人間が何もしなくても、広がりはするけれど最終的には収束するんですね。それはなんでかわかりません。SARSも何だかんだいいながらきれいに消えていきました。いろんな病気が広がってまた収束して広がっていく、というところがあるので、コロナウイルスも、いつまでも続いていくというよりは、おそらく収束はするんだろうなと思います。ただ、もしかするとインフルエンザのように微妙なマイナーチェンジをして、季節性のインフルエンザのように季節性のコロナウイルスというものが今後何回も繰り返していくことも、なくはないと考えられます。

福山:まあどちらにしても、今の段階では先々までの安心も油断もできないということですね。

コロナが与えるパラダイムシフト

福山:今、仕事がテレワークになったりなどの変化があります。コロナの後の社会や生活様式はどのようなものになるとお考えですか?

國井:このコロナによる経験は、すべての人に、すべての国に、いろいろな形でのパラダイムシフトを与えつつあるのではないかと思います。テレワークなどをはじめ、いろいろな形で皆さん気づきができたのではないでしょうか。これは、まさに危機を好機に、クライシスをチャンスにする良い機会だと思います。ネガティブなマイナス面だけを見ないで、これをどういうふうに将来・未来に結び付けるのか。そして、新たな日本の未来をつくるために、この経験をむしろトライアル=実験だと思ったらいいんです。会社でどういうことをやれば新たな事業ができるか、在宅勤務でより効率よくしていくためにはどう工夫すればよいか、学校に行かなくても一人一人の良い部分を自宅で伸ばせるような教育はどうしたよいのか、本当にあるべき姿とは何なのか、本当にやるべき子とは何なのか、教育としてやるべきことは何なのか、完全にマインドセットを変えながら、いろんな形で我々は学びができたのではないでしょうか。また、これからいろいろなトライアルをしながら将来のための計画を考えるべきではないでしょうか。建設的に何をやっていったらいいのかということを産・民・学のいろいろな方々がどんどん提言していって、作りだしていくということをもっとやっていくべきです。これは欧米は政府よりも個人や民間のほうが力が強いこともあって、そういうことを皆がフレキシブルに考えている部分もあるので、今のチャンスを上手く使わないと、単にCOVID-19の対策をやっていると世界から遅れてしまう。韓国や台湾、シンガポールを見ればわかる通り、今回の対策の違いは、過去の失敗を成功にしようとして、いろいろな形のアイデアやらベンチャーが育ち、ITを使ってやっていったというところがありますから、それが日本にもできないわけはないと思います。

福山:確かに次の時代を見なければいけないのですが、日本の場合はヨーロッパやアメリカと違い、まず足元の経済がひどい状況になっています。おそらくヨーロッパもアメリカも同様なのですが、休業も6~7割は補償するだとか、そういうメッセージが日本の場合にはないので、足元の事業者も国民も自分の生活がどうなるんだという不安がたくさんあります。ヨーロッパと比べて日本の補償は手厚くないなという気がしています。それで、次のプロセスには行きにくいんじゃないかと私は思っています。そこだけ、最後にコメントいただければと思います。

國井:社会制度は国によって全然違うので、一律に幾らをどんな人たちに配るべきだということは言えないですし、私は政治家でもないのでそんな立場にはないですが、ただ、ヨーロッパを見ると対処が早い。60万円ぐらいを補償として2日以内に振り込んだとかですね。本当に大変な人はだれなのか、まずはそういう人たちを見つけて補償なり補助金を出すというのは、結構徹底していると思います。本当に今大変な人たちは誰なのか、そこには何よりも早く出さなければいけないというのは経済がどうこうというような問題ではなくて、そこは政治家が考えて政府が何かやるべき話だと思います。

福山:そういう点ではヨーロッパは政策の志向というかスコープがはっきりしてますよね。

國井:ヨーロッパによってもいろんな国がありますが、やっぱりしっかりとした国はそこのところは譲らないというか、これはもうなんとかしなければならないというところはあります。

福山:今日は、ありがとうございました。

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