コロナ禍におけるスポーツ界、そして病院の経営危機とは? 【対談】境田正樹×福山哲郎 5月4日
今回は、コロナ禍におけるスポーツ界の現状と、病院の現状について、東京大学理事、Bリーグ理事であり弁護士でもある境田正樹さんにお話を伺いました。
※実際の鼎談の様子はこちらからご覧いただけます。
10億円の減収も。 スポーツ業界の現状とは?
福山:境田さんが理事を務めるプロバスケットボールのBリーグは、プロ野球などとは違い大きなスポンサーがおらず地域型でやっており、それぞれのチームの現状に心配があります。また、昨年W杯で盛り上がったラグビーも、社会人リーグからプロ化に向けて舵を切った時に、コロナ禍の状況に立たされてしまいました。今のスポーツ業界の状況についてお聞かせいただければと思います。
境田:Bリーグは、B1・B2含め合計36チームがあり、事業規模は、プロリーグが始まった4年前の100億円から3年半を経て300億円にまでなりました。スポンサーも4~5倍に増えて、観客動員数も伸び、順調にやってきていました。しかし、今回のコロナ騒動が起きたことで、半分以上のチームは地元の中小企業や個人商店から支援を受けながら運営をしているため、そのようなチームはどこも財務的に厳しくなっています。資金にショートしそうな数チームについては、リーグから緊急融資という形で財政支援をしています。しかし他方で、リーグ本体も、今回のことで放映ができなくなったりプレーオフができなくなったりと、場合によっては10億円ほどの減収を見込んでいます。Bリーグ自身も財務的に厳しくなっており、外部の銀行から融資を受ける形でなんとかこの急場を乗り切ろうとしていますが、なかなか我々だけでは限界があります。
福山:地域スポーツを盛り上げようとしていた企業もコロナ禍でスポンサーから降りるなど出てくるのではないかと思います。その辺りはいかがでしょうか?
境田:おっしゃる通りで、スポンサーからの撤退や減額、また今期も試合の1/3ができなかったのでチケット代の返金なども発生しておりさまざまなコストがかかっているため、非常に厳しい状況にあります。
福山:それぞれのチームが地域に根差したかたちでやっているので、それが止まって、地域と文化とスポーツのつながりも切れてしまっています。コロナが収束したらなるべく早くBリーグを再開していただくことがよいと思うのですが、そのためには事前の準備資金も必要ですよね。
境田:想定したくはありませんが無観客試合を行う場合には、お客さんが良好なIT環境で観戦できるよう環境整備への支援や、観客が来ても安全に観られるよう衛生面へのサポートなど、国からも支援していただけると我々も頑張れるかなというところはあります。
福山:一方、去年大いに盛り上がったラグビーですが、トップリーグはどのような状況でしょうか?
境田:ラグビーは、昨年のW杯でベスト8という成績を修め、昨年1年間のラグビー協会の収入は、57億円程度でしたが、今年は70億円を見込んでいました。次回W杯やオリンピックへ向けて強化を行ったり、現在プロ化というか新しいリーグを作ろうと進めていますので、各地域できちんとした拠点や地方組織を整備していく必要がありました。それらにお金を費やしてラグビー界の大きな発展を目指そうとしていたのですが、今は減収予測が30億円となっています。本来70億円を見込んでいたところ40億円程度しか収入が見込めず、すでに理事の給料を減額したり、かなり厳しいリストラにも入っています。
福山:トップリーグも企業チームが多いから、経済状況によってはチーム自身の財政状況も悪化していますよね。
境田:そうですね。かなり消極的になっているチームが多いですね。
福山:国会では与野党を超えてスポーツ議連があるので、この状況をどうするかという議論をしています。スポーツだけ特別という意味ではなく、スポーツにもちゃんと目を行き届かせることは、与野党に関係なく議員の役割だと思います。
疲弊する医療現場と危機に瀕する病院経営
福山:続いて、医療法人についてお話を聞きたいと思います。
境田:全国には78の国立・私立大学の医学部付属病院がありまして、大学全体で言うと、4月でおそらく200~300億円減収するだろうという予測を立てています。例えばICUの部屋が10あるとしてもコロナの重症患者2人を入れて2部屋を使用すると、他のICUも半分は使えないとか、通常の1/3しか使えないような状況になります。病棟を閉鎖するんですね。ICU以外の一般病棟もかなり閉鎖をしなければ、コロナ患者には対応できません。手術も、今東大病院でも3割減っています。同様に、外来患者も3割程度減らしています。そうした中で、政府からは補正予算による医療機関支援(1490億円)や、診療報酬支援などをいただいています。しかし、病院の経営サイドから見ると、今回の補正予算ではほとんど赤字の補填にならないと言われています。
福山:補填にはお金が回らないということでしょうか?
境田:今の仕組みでは回りません。1490億円はあくまでも都道府県に交付されるお金で、各都道府県が必要だと判断した医療機関に交付されます。なので、コロナ対応に対する損失補填のようなところには回ってこないと思います。
福山:感染拡大や非常事態宣言の延長などで、少なくとも6月まではこうした状況が続くと見込まれますが、病院の経営にはどのような事態が起きてくるのでしょうか?
境田:おそらく多くの病院で、給料が払えない薬が買えないとか、電気代が払えないとか、早ければ6月にはそのような状況になると思います。本来入ってくるはずの分が入ってこなくなり、支出は変わらず、というよりもコストが上がっている中で収入だけ減るので、完全に資金ショートします。東大病院も、資金をかき集めたとしても10月までしかもたないのではないかと思います。
福山:病院経営というのは、内部留保が溜まるような仕組みにはなっていないのでしょうか?
境田:なっていません。診療報酬は、入りと出がトントンだろうというところで計算されます。大学病院には自由診療はほとんどなく、厚生労働省が決めた診療報酬に基づくお金の流れになります。
福山:なぜ政府は今回この部分に補正予算をつけなかったんですかね?1490億円では全然足りないと思います。
境田:パンデミックが起きたときに一番大切なのは、国民の命を守ることです。それには、重症化を防ぐために特定機能病院を維持することが求められます。そのためには、医療資源を確保し、二次・一次医療圏、それから民間の施設のようなかたちでトリアージをきちんとすることで、大病院や大学付属病院のような施設が崩壊しない仕組みを作らなければいけなかった。しかし、日本はそれが疎かだったと思います。国がパンデミックを想定した医療政策を立案すべきだったのに、それを怠ったことで、医療機関にものすごいしわ寄せが来ています。医療従事者は戦場に行けと赤紙で言われている状態なのに、今回の10万円の給付や事業者への100万円というのを見ていたら、あれは飲食業も医療機関も一緒なんですよ。だから、政府として、基本的には飲食業も医療機関も変わらないという位置づけなんです。これはおかしいだろうというのは強く言いたい。
福山:我々は、補正予算の中に医療機関の支援交付金を新たに5000億円積めという対案を出したわけです。もちろん飲食店の方も非常に大変なわけですが、医療機関は別の意味でちゃんと支えるんだと主張しなくてはいけません。2~3か月後に地域の拠点病院の経営が破綻しましたなんで、考えられません。
医療機関の維持に求められる政治的な救済とは
福山:今後、病院の経営が破綻するということは、本当にありうるのでしょうか?
境田:あり得ます。これは少し言い過ぎかもしれませんが、戦場に行って戦ってくれ、ゼロ戦乗って突っ込んでくれと、でもあなたの食事代も住まいも与えませんと。私にはそういうメッセージが聞こえます。一般の人と、命懸けで毎日病院に行ってコロナの患者を診ている人は、全然違う次元にいます。データを調べると、3か月後には本当にその人たちに給料が払えなくなって、半年後には失職するというのが確実なわけですよ。5月10日に4月の診療報酬の確定値が出ますから、6月の本来病院に入るべき報酬が幾らぐらい減るかがわかります。そうすると、どの病院長も真っ青になります。のんびりと補正だなんだと言って秋頃になったら、そこまではもちません。医療機関にもっと手厚いサポートをしなくてはならないのに、もう7月にはほとんどの医療機関が資金ショートで、潰すとか破産ということを考えざるを得なくなると思います。
福山:「GoToキャンペーン」(1.7兆円)よりも、まずは医療機関に予算をつけるのが優先順位としては高いし、それが政治の役割ですよね。
境田:そう思います。1人10万円全国民というのは受けはいいとは思うのですが、医療機関だけ救済となると、そんなに一般国民には受けません。ある意味で嫌われる政策ですが、必要です。そこをいまの官邸がどこまで腹を決めてできるかだと思います。民主党政権時にも、医療崩壊の危機がありましたが、民主党が中心となって超党派で、診療報酬を変えようと、救急医療や難病や高度医療に手厚くしようと改革をして、あれで医療界は救われたところがあります。まさに10年前の超党派議連、あれをもう一度と私は願っています。
限界を迎える医療現場、PCR検査の拡充が急務
福山:病院関係者の方への配慮やフォローのあり方についても考えなくてはいけないと思います。病院長や大学病院からは現在どのような声が上がっているのか、お話いただけないでしょうか?
境田:現場の医療従事者には、家に家に帰れない状況の人が多くいます。家に帰っても、うつすかもしれないと、家族とまったく会わずに部屋に籠っている人も結構います。現場の医療従事者がどれほど精神的な負担の中で日々仕事に従事しているかという思いを汲んでいただきたい。それに、これまで医療崩壊を招いてしまうからPCR検査を抑制するみたいなことで進んできましたが、自分は感染していないと思った人がどんどん病院に入ってくるので、救急で来た人は陽性患者ではないかという想定のもとで我々はかなりの装具をつけて対応しなければならなくなっています。やはり、入り口の段階で公費でPCR検査をしてもらえれば、ものすごく負担が軽減されます。
福山:医療従事者は、自分が陰性か陽性か、無症状か軽症状かわからないまま、勤務されているわけですよね。
境田:そこにも公的な助成はほとんどないので、我々にとっては見放されている感があります。ドイツも韓国も、パンデミックが起きた場合、ICUとかがある病院は、国と一体となって国民の感染予防をするという仕組みになっています。だから、そこの病院を守らなくてはいけない。そのうえで、いかに安全に医療に従事させるかという発想で、もともと事態を想定しています。ですが、日本の場合は、そうした発想がなく、国立感染症研究所とかはともかく、それ以外のところはまったく無防備なわけです。これで実際に感染拡大が起こったときに、経済的な手当ても仕組みの手当ても、PCRの手当てもしないままに、「はい、やってください」と言われているので、非常に不合理なものを感じます。今からでもよいので、各国がどのような形で感染対策を行い実践してきたのかというところをもう一度よく見直していただきたい。そうすれば、現在のような重症患者の受け入れ態勢では絶対にダメだということになると思います。
福山:医療従事者の数もすぐに増えるわけではないですよね。
境田:増えるどころか、むしろ(仕事を)離れたいという人が今はいっぱいいます。それをつなぎ留めるのに、僕らも1000円か2000円か日当を上げます。大学病院なんでそれぐらいしか上げられません。
福山:医療機関の問題は、お金の問題にしてしまうといろいろな誤解があるかもしれません。「やっぱり金か」と。でもそうではないんですね。我々は引き続き、医療機関への支援を作れと言っていきます。最前線で安心して医療に従事できる環境を整えるのは、政治の役割です。今日は、ありがとうございました。