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ポストコロナに向けて。この国の経済、そして社会はどうなるのか? 【対談】 田中信一郎×福山哲郎 5月 24 日

今回は、公共政策学者であり、千葉商科大学准教授の田中信一郎さんに、コロナ後の社会のあり方についてお話を伺いました。

※実際の対談の様子はこちらからご覧いただけます。

5.24 福山さん配信.001

コロナが暴いた?国民を食い物にする日本社会

福山:今後、経済、社会、生活は、どんな状況を迎えるのか、国際的な状況も含め、現状の認識をお聞かせいただけますか?

田中:感染拡大防止のために、各国は経済活動を人為的に抑え込んでいます。この状況は、これまでの人類社会においてほとんど経験したことがないものです。戦時中ですら戦争経済という形で軍需生産を拡大していました。けれども、現在は、わざわざ経済活動を冷え込ませるようにしている状態です。前例がないので、元通りに回復するのか、影響が長引くのか、実は全く予測のつかないのです。やはり政治行政は最悪の場合を想定して、その場合でも国民生活が行き詰まらないようにしていく責任があります。

福山:現状はすでに厳しいということですね?

田中:そうです。影響がどれくらいでどのように出てくるのか、何年続くのか、わかりません。

田中:各国の対応を見ると、そこには大きく2種類の社会のあり方が確認されます。一つは、好景気であれば皆がハッピーになることを目指してきた国々、もう一つは、景気変動に左右されにくい社会構造を目指してきた国々です。今回は、好景気であれば生活が楽になるという国々のほうが、より厳しくなるだろうと思います。日本やアメリカはこちらに属します。これらの国々は、国際的な経済・健康問題など平常にはないリスクに見舞われると、非常にもろい社会です。その場合、普段からぎりぎりの生活をしている人々に一番最初のしわ寄せが行きます。他方、デンマークなどの北欧・ヨーロッパ型の国々は、普支え合う社会がしっかりと構築されているので、大きなリスクに見舞われても、現金給付の支援を既存のシステムを使って迅速にできるなど、大きなダメージを受けにくい社会になっています。

福山:日本は経済成長と人口増加を前提とする部分最適の組織に依存した行政システムであると、田中さんのご著書にあります。このシステムの脆弱さを指摘せざるを得ないと思いますが、いかがでしょうか?

田中:その通りです。1973年のオイルショック以降、経済対策・景気対策として、政府側が需要を創出してきました。補正予算を組んで毎年のように景気対策を打ち出してきた。好景気を作りだすことが政治の役目で、それを40年以上もやってきたわけです。指標上の景気の良さはある程度実現させつつも、実はそれが人々の生活に反映されないようになりました。結局、人々はグローバル化が進んで賃金の安い諸外国と競争させられるようになり、生活が苦しくなりました。コロナ禍では、その考え方を変えなけばなりません。

福山:安倍政権のこの8年は、景気拡大局面だとずっと言われてたにもかかわらず、実質賃金は低下し、生活はあまり豊かにはならなかった。一方、株式が異次元緩和で上昇し、格差は広がった。そんなところにコロナが直撃して、ぎりぎりの人たちのセーフティネットが破れる状況があちこちで起きています。 

田中:その通りですね。今の日本は、住んでいる人を犠牲にしないとやっていけない経済社会になりつつあり、それを加速助長したのがアベノミクスなんです。国民を食い物にして経済を回して景気指標を良くしていく経済、好景気に依存する社会から、景気変動やリスクに関係なく人々が安心して暮らせる社会にどのように転換するのかが非常に重要なポイントだと考えています。

市場をリデザインする?課題解決型の社会へ

福山:これまでも、本当の好景気はなかったということですよね。いい数字は、労働者の賃金を抑えたりした結果ではないかと思います。

田中:そうですね。人々が本当に豊かになり、それがまた消費に回るという、本来の好景気でなかったことは間違いありません。

福山:その根っこには、経済効率性、経済合理性、自己責任論がある。例えば、地方の病床が、保健所の人員が足りないなどの問題は、危機管理の無駄をはぶき、経済効率性や経済合理性を重視してきた結果でしょう。こうした考え方を変えろということですね。

田中:そうですね。ただ、単純に余剰の人員を抱えればいいということではなく、一番大切なのは、人々の課題が解決されていくようなシステムを普段から構築しておくことです。機能する政府が必要なんです。人員が多くても機能しなければ意味がない。普段から機能するようにしておけば、その機能に必要な資源を預けておくだけですみます。

福山:最近は社会起業家やNGOの方が、例えば子ども食堂など、ただ単に利益主義ではない仕組み作りを行っています。もう少し行政とつながれば、課題解決型のシステムができるのではないでしょうか?

田中:そうですね。結局、地域や国全体の課題は政府も含めて皆で解決するしかない。金儲け主義の株式会社が暴走しない法人体系、つまり民主主義が確保されている法人体系が必要になります。自治体や政府、そして人々が皆で助け合って支え合う社会を作ることが、実はお金や仕事が回る仕組みを作ることにもなります。資本主義の市場原理、市場経済についても、最近は新しい考え方が経済学の中から出てきました。制度経済学の文脈では、マーケットをデザインし、人々の欲望をコントロールして、指標やルールを組み合わせて人々の儲けたいという気持ちと社会の利益を上手に確保するという考えが発達しています。規制を緩和しろではなく、市場をきちんと見直して必要な規制はきちんと入れ、デザインし直すということです。こうしたことは日本でも重要になってくるでしょう。その際には、政府には公正な審判の役割が求められるので、政府の信頼が必要になります。

福山:なんでも民営化、規制緩和すればいいという流れの中で、そこに変な利権や思惑が入ってしまうと、市場を見直すことはできなくなり、システム自身に不信が生じ、一部の人にだけ利益がいく構造になってしまうということですね。

田中:環境税などを上手に活用し、環境に良い商品を安く、環境に悪い商品を高くすることもできます。さらに行政という中立の審判を置き、透明化を進め、最終的に人々がチェックする、こうしたマーケットをどうやってデザインしていくかが非常に重要な課題です。

持続可能な経済に必要なルールとは?

田中:新自由主義の元祖、ミルトン・フリードマンは、「強欲こそが絶対善だ」と考えました。違法でも儲ければ、経済にとってはプラスだと考えた人です。でも、実際にそうではない。例えば公害などに必要になるコストは最後は、経済市場の外側で誰かが手立てしなければならない。今は、市場の外の人たちが払うコストも含めて社会全体のコストをいかに小さくするかという考え方で市場をデザインし直す、組み直す時代に来ています

福山:しかし、マーケットにタガをはめようとすると、今度は「経済活動の邪魔」という声が上がる。ここには、二律背反的な意見の衝突があるわけですよね。

田中:意外とそうでもないのです。例えば、ヨーロッパなどでは廃棄物の処理費用を価格に内部化させるという仕組みを取り入れている。そうすると企業は環境負荷を減らしたほうが得ですから、儲けたい一心で一生懸命環境負荷を減らすようになるわけです。儲けたいと思う人々が存在することを前提に、その人が儲けようとすれば社会や環境が良くなる、貧困が減っていくという仕組みをどうやって作るのか、それにはやっぱりルールが必要。そのためには、政府が非常に重要な役割を負います。

福山:市場にフリーライドするのではなく、環境に負荷のあるものを作るときにはそのコストを価格に反映させて、それも含めて利益が上がる仕組みを作る必要がある。環境に貢献する企業の商品は多少コストが高くなるかもしれないが、それを買うことで世の中が良くなるような仕組みに作る必要があるというこでしょうか?

田中:最後の部分がちょっと違っていて、環境に良い商品が結果的に安くなり、環境に悪い商品の値段が上がる、これがポイントです。あるいは、従業員を大切にして賃金を高く払う会社が結果的に業績が伸び、そうではない会社がつぶれていくというルールも大事だと思います。北欧諸国などはそうしたルールを取り入れていますが、実はアメリカなどと比べても遜色のない経済成長をしています。日本の場合は、政府のルール設定や行政の取り組みが弱いので、そこを打ち出していかなければ、持続可能な経済、リスクに強い、リスクを減らす経済社会にはならないと思います。

現実からかけ離れた政治から、声を届けられる政治へ

田中:さらに大きな問題は、アベノミクスによって経済財政上のリスクがさらに大きくなっていることです。2000年代と比較しても非常に大きくなっている。気候変動のリスクも大きくなり、今や2030年までに手を打たなければいけないのではないかと言われているぐらいです。さらに実はもうひとつ大きな問題があって、さまざまな公共施設やインフラが老朽化の時期を迎えているのです。総務省によると、市区町村の保有する公共施設の面積がもっとも増えたのは1970年代です。築50年を超えているわけです。それらが災害拠点になっている。災害の問題はこれからより大きくなるのに、老朽化の問題が起きている。つまり、1970年代以降の経済政策やさまざまな政策と現実とのずれが、もういよいよ大きな状態になってきて、人々を苦しめている。これをどうにか乗り越えていかなければなりません。

福山:我々は、お互いが支え合う社会というのを問題提起して、まっとうな政治を作ると言って、多様性を大切にするLGBTの問題、差別解消や同性婚、選択的夫婦別姓などを、次の社会の在り方として我々はずっと提示してきました。その中でこのコロナの状況が起こり、社会と行政がずいぶんとずれていることが目の前に顕在化しました。そこで、各自治体に一定のことを任せる権限や財源を渡したり、先ほど田中さんが言われた経済効率性だけではないマーケットと、社会や政府が一定のチェックをするような仕組みを作らなければならない。さらには危機管理の問題もある。

田中:検察庁法改正案を巡るツイッターの動きなどを見ていると、多くの人々はこうした現実と乖離した政治行政ということに、やはり気づいてきているんだろうと思います。お金を配ってくれれば解決するとかそういうことではなくで、実は民主主義の根幹の問題と深く結びついていて、そこが最大のボトルネックであることに気づいたからこそ、検察庁法の問題が大きく注目されたと考えられています。実は多くの人々はきちんと理解をしているのです。私自身は、きちんと人々の声を政治行政に届けるところに大きな目詰まりがあって、それをまずは解消することを、立憲民主党が訴えてきた”まっとうな政治”ですよね、それを訴えるということが重要なのではないかと思います。
 そこを抜けないと、すべてが絵に描いた餅です。解決策をいくら提示しようとも、目詰まりがあるうちは絶対に上手くいきません。自治体には、持続可能な地域づくりに取り組んでいるところはありますが、やはり最後は国がどうするかが大きい。自治体の努力を後押しするような中央政府、国の政府というものが出てくると、地域においても新たな形で持続可能な経済社会を作る動きが早まっていくと思います。

※田中さんのご著書もぜひご一読ください。



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