「新幹線は春を呼ぶ」
僕は滅多にはない出張で新幹線に乗り込んだ。6時47分発やまびこ215号、各駅停車の東京行きだ。
三人がけの窓側の指定席に乗り込むと、春休みの高校生五人が乗り込んできた。たぶん修学旅行以外で友達と出かけるのは初めてなのか、大声こそ出さないが静かにハイテンションだった。その中の二人が僕の隣だった。
その高校生達は朝7時からモンスターエナジーと、アポロチョコをテーブルに広げて、旅のスタートダッシュを決めていた。そりゃそうだろう。なんせ友達だけの東京旅行なんて大冒険なのだから。僕の仕事の移動とは違う。ちなみに僕の朝食はコーヒーと5個入りのピーナッツパンだ。
那須塩原駅を過ぎたあたりから、隣の一人がスマホでリズムゲームかなんかをやり始めた。両手を器用に使って、手元だけ狂喜乱舞していた。なにか自分の中で、春が来た合図なように思えた。スマホを叩く「タタタタ」。春の合図って、鳥の囀りや花の芽吹きだったりするけど、新幹線の中で静かにテンションが上がった高校生のスマホの叩く音でも春を感じるんだなと、しみじみ思ってしまった。
僕はスマホで昨日のWBC優勝の記事を読み返しながら車窓から見える桜前線の進行具合を眺めていた。
春は一気に駆け抜けていく。
小山過ぎたあたりから、目の前のトランヴェールをパラパラとめくってみた。会津特集で最近店舗を構えたプレイタイムカフェの丹治さんが照れくさそうに写っていた。丹治さんは福島で出会った10年以上の付き合いになる知り合いだ。なんで、丹治さんがトランヴェール?そんな風に疑問を思うより、春だから丹治さんが載ってるのも納得と思った。たぶんこの写真は冬の寒い時だったと思うのだけど、写真は春ぽかった。丹治さんはすでに春の顔になっていた。
終点の東京はすっかり春真っ盛りだった。エナジードリンクのケミカルな匂い、桜前線、大谷の記事、丹治さんの写真、スマホのタップ音。視覚、嗅覚が芽吹く時、一気に春を目覚めさせてくれた。
新幹線は春を駆け抜ける。各駅停車で駆け抜ける。
あとがき
行きも帰りも各駅停車の新幹線だったので、僕なりの意味不明トランヴェールエッセイを新幹線の車内でアウトプットしてみる。まもなく郡山駅。
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