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魁!!テレビ塾 第21訓『FNS27時間テレビ』
【注記】
これは、学研「GetNavi」2014年2月号〜2017年5月号に連載していたテレビ評コラムの再録です。番組データ、放送内容はすべて掲載当時のものです。私の主張や持論も現在では変化している点が多々ありますが、本文は当時のまま掲載し、文末に2023年現在の寸評を追記しました。
テレビ局がリア充を気取る限り
テレビのピンチは終わらない?
押忍!! ワシが当テレビ塾塾長の福田フクスケである!
毎年恒例の『FNS27時間テレビ』が今年も放送された。ポスターに「テレビの時代はもう終わり?」という自虐的なコピーを掲げ、「テレビのピンチをチャンスに変える」と息巻いていた今回だが、彼らが謳う「本気」とやらが、「なーんか空回りしてるなー」と思った諸君は多いはずだ。
先日、ツイッターで「リア充は、世間の多数派の価値観に従うことに違和感を抱かないで済む人のこと」という趣旨の書き込みを見て、ハタと膝を打った。リア充は、たまたま「自分の当たり前」と「みんなの当たり前」が一致しているから、ラクで楽しく生きられる。だから、その「当たり前」が世間のマジョリティとズレはじめると、途端に「ただのイタくて傲慢なヤツ」になってしまう。ひょっとしてテレビ局は今、そういう存在になっていないだろうか。
番組中、芸人たちがテレビ界への苦言・提言を真剣にプレゼンする『TED』のパロディ企画があった。しかし、芸人がその話芸でプレゼン内容自体をおもしろく見せようとしていたのに、半ばドッキリのような形でことごとくチャチャを入れてオチにしてしまう演出には、心底がっかりした。
視聴者は、芸人の「本気」の笑いが見たいのであって、芸人いじりやスタッフいじりをして楽しそうなスタジオの様子を見たいのではない。その「おもしろ」の感覚のズレに気が付かない限り、テレビ局は自分をまだまだリア充だと思い込み、何が「ピンチ」で「終わり」なのかわからないまま自滅していく気がしてならない。
おもしろい企画もたくさんあっただけに、ワシは「本気」で残念に思っているのだよー!
◆今月の名言
「お前らにおっぱいが何かしたか!だったら俺が謝るよ!」(by劇団ひとり)
芸人がテレビ界に苦言を呈する『TED』のパロディ企画だったが、ほとんどがドッキリや時間切れで演説は中断。劇団ひとりの「テレビでおっぱいが見たい!」という叫びだけが話芸として光っていた
(初出:学研「GetNavi」2015年10月号)
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【2023年の追記】
2015年は、テレビがネットを仮想敵としてビンビンに意識していたちょうどピークの時期だったように思います。
第19訓でも言及した通り、報道・情報番組は「ネットの声も取り入れてますよ」という擦り寄りアピールに躍起になり、『FNS27時間テレビ』は「テレビってもうオワコンですよね」という”あえての自虐”をしてみせる。しかし、どちらもその心は「そんなことができるテレビはまだまだ元気なんだ」という、余裕ぶったカラ元気だったのではないでしょうか。
思えば、第18訓で取り上げた『水曜歌謡祭』も、生放送というドーピングでアドレナリンを出すことで、無理くり「テレビならではの底力」を復権させようとしていたように見えてきます。
今挙げた番組のいずれもが、奇しくもフジテレビの番組であるという偶然。この翌年、2016年に起きたあの『SMAP×SMAP』生放送謝罪が、テレビと芸能の一つの時代の「終わりの始まり」だったと私は思っているのですが、その前年である2015年のテレビに起きた諸々の狂騒は、寿命を迎えんとするセミの最後のひとあがきだった気がしてなりません。