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男のコンプレックス Vol.22「キャラ男子の想像力」

【注記】
これは、マガジンハウス「POPEYE」2010年2月号〜2012年5月号に連載していたコラムの再録です。文中に出てくる情報や固有名詞はすべて連載当時のものです。現在では男尊女卑や女性蔑視、ジェンダーバイアスに当たる表現もあり、私自身の考えも当時から変化している点が多々ありますが、本文は当時のまま掲載し、文末に2023年現在の寸評を追記しました。

あだ名のブランディングが
人生を左右する!?

 ミニコミ誌の制作者が集まる交流イベントで、初対面の来場者にあだ名を付ける遊びをしたことがある。相手の内面は一切考慮せず、見た目の印象だけで次々と名付けていくのだ。

 髪がチリチリなので“ジョンイル”、面長でしゃくれているから“ばかうけ”、口が臭そうなので“口臭街道”、殴られたような顔をしているから“撲殺”などなど。一歩間違えばデリカシーの38度線を脱北してしまいそうなギリギリの言葉選びである。

 しかし、絶妙すぎるあだ名は、ときに人の人生を狂わせる。高校時代、そこそこイケメンだったのに“汁男優”と名付けられたせいで、一切モテなくなった男を私は知っている。彼の顔つきも体型も人柄も、言われてみれば心なしか徐々に汁男優っぽく思えてきて、いつしか本当に女子から生理的に受け入れられなくなってしまったのだ。

 きっと全国には、“甲府盆地”というあだ名に絶望して豊胸手術を受けたり、“なんか死神っぽい”というキャラを押し付けられてライフセーバーになる夢をあきらめた者もいたに違いない。

 こうして私たちは、植え付けられたキャラや印象に本人すら引きずられてしまう。だからといって、「本当の俺を見てくれよ!」なんて叫ぶのは野暮だしダサい。そこでここはひとつ、想像力で反乱を起こしてみよう。

 水嶋ヒロ似と言われてモテキャラ扱いされてるヤツがいたら、「あいつ、よく見るとケツみたいな口してない?」と指摘する。高い女子力で清純さをアピールしてくるコには、「芦田愛菜ちゃんをこじらせた感じだよね」と言う。

 やがて彼らが“ケツマウス”“マルモリちゃん”と呼ばれるようになったらしめたもの。そのとき初めて、汁男優とケツマウスは手を取り合い、対等な人間同士としてもう一度出会い直すことができる気がするのである。

 よし、さっそくあいつに言ってやろう。「おい、ケツマ……」「なんだよ、陰毛パーマ野郎」「先越されたー!」。

 ドーーーン!! あなたも気を付けましょう。単なる悪口は自分の評判を落とすだけですよ。ホーッホッホッホ。

(初出:『POPEYE』2011年11月号)

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【2023年の追記】

なんか、たぶん、迷走していた時期なんだと思います。男のコンプレックス関係ないし…エピソードも嘘だし……。悪意があるほうがより面白い、と思っていた時代の文章ですね。今も内心ではちょっとそう思っているので、感覚をアップデートするのが大変なのですが。

例えば、この「あだ名」の問題一つとっても、今はいじめやいじりを助長してしまうので「あだ名」で呼ぶことを禁止している学校もあると聞きます。いじめ対策としては合理的でやむなし、と思う一方で、自分の主体性や意志にかかわらず自分のキャラクターを周囲に決められてしまうことなんて、社会に出ればいくらでもあるわけで、ていうか、自分のキャラクターを自分で決めさせてもらえることなんてほぼなくて、それを受け入れてからが人生だったりするので、「あだ名」ってその最初の洗礼を受けるいい機会でもあるんだよな、なんてことも思ってしまうわけです。

そういう、自分の中の抗いがたい「古い感覚」をどう取り扱っていくのかっていうのが、今後の課題のような気もしています。

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