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ロンドン滞在日記 8&9日目:旅の中だるみもリフトアップできればいいのに
YMSビザで在英中のパートナーに会いにロンドンを訪れた際の、およそ2週間にわたる旅の記録です。コラムともエッセイとも言えないようなただの日記なので、どうぞ気軽に読んでください。
1日目:なんでこんな映画見たんだ
2日目:まだ飛行機に乗っているのか
3日目:木で鼻をエルメス(塩対応という意味のことわざ)
4日目:犬が苦手な人はいないことになっている
5日目:はじめてのおつかい(ただし39歳)
6日目:その屁はいつかどこかで借りてきた屁
7日目【前編】:犬は吠えるがオクラは揚がる(日記は不作)
7日目【後編】:『レ・ミゼラブル』を観て感じた演劇界の無情
汁物があったかいんだからあ
ロンドン滞在8日目。この日は、起きたあと昼過ぎまで部屋でダラダラしてしまった。思えばここ数日間、予定を詰め詰めで一日中歩き回って観光していたせいで、私にもパートナーにも疲れが溜まっていたらしい。ここいらで中休みの日も設けようと、思い切って予定を決めずにのんびり過ごすことにした。
とはいえ、どこにも出かけないのはさすがにもったいないので、ひとまず交通の便の観点から出やすい街・チェルシーまで行ってみることに。腹ごしらえにベトナム屋台料理の店「Phat Phuc Noodle Bar」でランチをとる。ここは、階段を降りた半地下の敷地に本格的なアジアン屋台が出現するお店で、レビューサイトの評価も高いのだ。
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ロンドンとは思えない雰囲気たっぷりの店内で頼んだのは、シンガポールやマレーシアで食べられている麺料理・ラクサと、wok flying egg noodlesと呼ばれる焼きそばとまぜそばの中間みたいな料理。
ラクサといえば日本でもアジア料理の店でたまに見かけるし、最近では日清カップヌードルのラインナップのひとつとしてMAXが珍妙な歌を披露しているCMが有名だ。ココナッツミルクの効いたカレースープに、海老をはじめとする魚介の旨みが溶け込んだライスヌードル、というのが一般的な説明だろう。
これがまあ、「こんなにおいしかったっけ?」とちょっと感動するほどだった。クリーミーやらスパイシーやらで口の中が忙しいのだが、気づけば箸が止まらなくなっている。私の血肉に流れるアジア人のDNAが無意識にアジアンな味覚を求めていたのもあるが、常にどんよりと肌寒いロンドンの気候のなか、自覚していた以上に体が「あったかい汁物」を欲していたのだと思う。「あったかいんだからあ〜♪」という、もう誰も覚えていないクマムシの歌ネタまで思い出さんばかりの勢いだ。たぶん味噌汁でも同じテンションで飲み干していただろう。
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一方、焼きそばのほうは、かなりこってりと甘辛い味のソースが麺にたっぷりと絡んでおり、チンゲン菜のような青菜がいい感じにその濃さを中和してくれると思いきや、こちらもしっかり味のついた焼き豚がこれでもかと入っているので、トータルで濃さの圧勝。ラクサとシェアしながら食べたので完食できたが、焼きそばだけだったら途中で食べ疲れていたかもしれない。
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食後は、日本でもお馴染みのデンマーク発の雑貨店「flying tiger copenhagen」で、イースター関連のファンシーなひよこグッズなどを見てしばし癒やされる。ひよこに癒やされるなんて、やっぱり疲れていたみたいだ。
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本棚がびしょびしょに潤うデザイン
その後、「Waterstones」という書店に立ち寄る。日本で言えば紀伊國屋書店くらいポピュラーな知名度と店舗数を誇るらしい。「また本屋に寄るのか」と思っただろうが、また寄るのである。
これはもう、蛾が街灯にたかるように、ビニール袋を被せられた猫が後ずさるように、老人が催眠商法に吸い寄せられるように、福田は外国で本屋があれば立ち寄ってしまう動物なのだと思ってほしい。そして、日記なので立ち寄ったらそれを書かないわけにはいかない。「飽きた」とは言わないでほしい。
さすが紀伊國屋書店なだけあって、店内にはあらゆるジャンルの本が揃っているが、中でも気になったのはジュブナイル向け小説で、先日行った「Gosh!comics」同様、LGBTQ、あるいはブロマンスやシスターフッドを扱ったものがやはり最近のトレンドのよう。
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漫画コーナーでは、『呪術廻戦』や『怪獣8号』『チェンソーマン』など最近の漫画がすでに英訳出版されているのに混じって、いまだに『ドラゴンボールZ』や『DEATH NOTE』『犬夜叉』などが現役然と並んでいるのも「Gosh!comics」と同じだった。
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小説も、日本ほど新刊至上主義ではないのがわかる。翻訳小説のコーナーだから余計そうなのかもしれないが、綾辻行人の『十角館の殺人』と高村薫の『レディ・ジョーカー』と横溝正史の『本陣殺人事件』が、海外独自のヤバかっこいい装丁で堂々と肩を並べて鎮座しているのである。鎮座ドープネスなのである。
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ドープネスといえば、世界の古典文学を集めたクラシック全集みたいなシリーズがあって、そのブックデザインがシビれるほどカッコよかった。布張りのハードカバー、タイトルと著者のシンプルな入れ方、作品のキーアイテムをモチーフにした表紙デザイン、カバーの地の色と印刷とのカラーバランス、すべてがおしゃれ。
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ダウ90000のコントに「でかいAKIRAが捨ててある」というのがあるが、そのネタの言い回しに倣うなら「本棚、うるおうぜ〜!」というやつだ。こんなのが家の本棚に並べてあったら、モイスチャー成分多すぎて棚がびしょびしょだ。家なのに棚差しではなく面陳しておきたい。
帰宅してからも、ウトウトしては目を覚まし…を2度ほど繰り返してしまい、ダラダラしていたらあっという間に夜。晩ご飯は、下宿先の次男Jがワイルドポーク(イノシシ)とビーフのステーキを焼いてくれた。
その後、私もパートナーもやらなければいけない仕事があったにもかかわらず、なかなか手をつけられずにズルズルと起き続け、やんなきゃやんなきゃと思いながらほぼ一睡もせずに夜が明けてしまった。こういうときはメンタルがよくない証拠だ。2人ともロンドンの気候にあてられ冬季うつっぽくなっているのかもしれない。
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モモを連れて歩くことの優越感と支配欲
ロンドン滞在9日目。結局、明け方になってからようやくうたた寝を挟んで仕事を始めたのだが、厄介なことに、今日は下宿先の夫妻が旅行に出発する日。
何が厄介かというと、夫妻が家を出る時間にモモが出くわすと「あれ、なんで2人揃って出かけちゃうの?置いていかれるの?なんでなんで?」と不安になってしまうというので、その時間、私たちがモモを外に連れ出して時間を潰すことになったのである。
まったく、甘やかされた手のかかるお犬だ。ようやく仕事のエンジンがかかり出したというのに、そしてその仕事の締め切りはそこそこ切羽詰まっているというのに。
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仕方ないので、モモを連れて近所のドッグフレンドリーなカフェで作業をすることに。ここは、一家の旦那さんがモモをよく連れて行くお散歩コースにあるため、店員とはすっかり顔なじみ。しかも行くたびに肉の切れ端などをもらえるので、モモが大好きな店なのだ。なんて恵まれた、街ぐるみ愛されドッグなのだろう。羨ましいご身分である。
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この日もさっそく店員さんに構ってもらい、お皿に水を与えられてテーブルの下でうずくまっている。ほとんどの客はモモに好意的な視線を送り、ときどき通りすがりに撫でたり話しかけたりしてくれる。そうやっておとなしく可愛がられているモモを見ているうちに私に湧き上がってきた感情は、なんと不思議なことに「誇らしさ」だった。
この「誇らしさ」は、散歩中にも感じたことがある。よその犬の匂いに気を取られていても、呼べばけなげについてくるとき。赤信号で「Wait!」と言えば立ち止まり、青になって「Go!」と言えば歩き出すとき。カフェのテーブルで「Sit down!」と言っておとなしく座ってくれたとき。
「この子はかわいいなあ」という純粋な感情のほかに、「きちんと言うことを聞く犬を連れ従えている」ことに対するちょっとした優越感のような気持ちがあることに気がついたのだ。犬の品行を通して私が評価されているような錯覚、と言ってもいい。
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この感覚はちょっと怖いなと思った。私はモモをただの一度もしつけた覚えはないし、そもそもこの子の飼い主ではないどころか、たかだか1週間しかまだ一緒にいない。たぶんモモは私のことを「たまたま一緒に散歩マン」くらいにしか思っていないだろう。
にもかかわらず、「この人は犬をアンダー・コントロールできる”主”の能力がある男だ」と思われたい、みたいな欲目が、私のような人間の中にすらちょっと芽吹いたのである。
なんというかすごく言葉を選ぶが、人の親にとって、子どもを持つとはこのムクムクと湧き上がる支配欲(自分がコントロールし得る存在がいることの快楽、コントロールできていると評価される承認欲求、にもかかわらず思い通りにならないことへの怒り)をいかに抑え込むかの葛藤なのだろうな、と想像したのだった。
そして、その誘惑に絡め取られてしまう人がいることも容易に想像できる。自分にはやはりそれは怖いことだな、と思う。
たまたま一緒に散歩マンの敗北
途中、家から持参したご飯をモモに食べさせなければいけない時間になった。パートナーは仕事の締め切りが差し迫っていて手が離せないので、私だけでモモを近くの公園に連れて行こうとしたのだが、ここで問題発生。
なんとモモがパートナーのそばを離れようとせず、まったく行きたがってくれないのである。2人で店の外まで出ても、彼女が店内に戻るとすぐさま店の前で座り込んでしまい、「やだやだ、行きたくない」とアピールする。
私が感じていた優越感など完全な錯覚で、モモにとって私はまだまだ信頼のおけない新参者。パートナーといるからリードを握らせてくれていただけで、実際は「たまたま一緒に散歩マン」どころか、「こいつじゃ信頼ならねえマン」でしかなかったようだ。モモと出会って1週間しか経っていないのだから、そりゃそうなのだけど、なんだかポッキリと鼻を折られた気分。
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結局、店内でご飯をあげる許可をもらい、パートナーの仕事がひと段落してから近所をぐるりと散歩して帰った。すっかり日が沈んでいたので今日も観光は諦め、せめてブリティッシュパブで外食だけでもしようかと思っていたら、次男のJが鶏を丸ごと焼いてくれていたので、3人でディナーを囲むことにした。
夜になっても夫妻が帰ってこないことに何か異変を察知したのか、モモはどことなく不安そうな顔をしていて、いつもは元気よく食べるご飯をあまり食べようとしない。こういうときの動物の勘の鋭さはどこからくるのだろう。
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食後は、玉田真也・神谷圭介が企画、蓮見翔が作・演出を手がけたコントライブ「夜衝2」の配信を部屋で鑑賞。普段のダウ90000ではできない「年齢差の幅がある登場人物」によってネタのレパートリーがさらに広がっており、蓮見翔という人の底なしの才能に惚れ惚れする。特に最後のコントは、高速のサービスエリアや空港のレストランなどで誰もが食べた経験のある、特徴のないシンプルなラーメンを題材にしたネタで、その着眼点と発想にコント作家でもないのに嫉妬。深夜3時にようやく就寝。
今日は、2日分の日記をまとめてしまえるほど中身の薄い、中だるみの日であった。旅程はあと7日残っているが、果たしてそれが何回分の日記になるか、刮目して見守っていてほしい。(つづく)
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「Last chance」と言われても購買意欲をそそられない