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「好き」を原動力に、地域の伝統技術を紡ぐものづくり
「ふくしまおこしびとPlus」ではふくしまの地域づくりに関するキーパーソンや関係人口の方に、福島の魅力や想いをお話いただきます
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◤三井 康二(みつい こうじ)さんプロフィール◢
1984年生まれ。山梨県富士吉田市出身。2018年4月、富士吉田市から三島町へ移住。幼い頃から机に向かうより、手や体を動かすことが好きだった。小学校の工作授業では版画制作に夢中になり、木を彫る感触に魅了された。高校は工業高校に進学し、旋盤加工や溶接などの技術を習得。中学では野球部に所属し、高校時代は趣味でスケートボードを楽しんだ。山梨在住時には、編み組細工の制作を手がけ、「marumi」として作品をイベントで発表。手仕事の魅力を伝える活動を続けている。
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編み組との出会いが移住を後押し
移住前は、牧場兼宿泊施設を運営する会社でアルバイトをしながら、独学でアケビや籐(とう)細工に取り組んでいました。本を参考にしながら、「こうすれば作れるのではないか」「強度を増すにはどうすればよいか」と試行錯誤を重ねていました。近くに同じことをしている人はほとんどいませんでしたが、唯一、知り合いのおばあちゃんがアケビや籐細工をしていたことを知り、何度も質問して助けてもらいました。
2018年2月、友人からもらった雑誌で三島町の奥会津編み組細工の記事を見たことがきっかけで、三島町に興味を持ちました。問い合わせをすると、移住相談会や空き家見学会を案内してもらい、すぐに参加しました。以前から編み組を生業(なりわい)にしたいと思っていたこともあり、わずか3カ月で移住を決意しました。もともと物を多く持たない生活をしていたため、移住の準備にはそれほど手間はかかりませんでした。
奥会津編み組細工 https://www.okuaizu-amikumi.jp/amikumi/
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季節ごとに変化するものづくりのサイクル
編み組は、材料を採取し、加工し、製品を作るという一連の作業を通じて成り立ちます。そのため、1年を通して暇な時期はありません。
4月末から5月上旬は、クルミの樹皮を剥がし、裁断して使える状態にします。5月末から6月半ばにかけては山ぶどうの皮を剥くために山に入り、日中は工房にいない日が続きます。7月から8月は乾燥した山ぶどうを裁断し、その後に製品づくりに取りかかります。
11月半ばにはマタタビの材料を採取し、12月中はその加工に追われます。雪が降り始めるのは例年12月ごろですが、雪が本格的に降るまで、材料採取の作業は続きます。このように、季節ごとに必要な作業があり、1年中忙しく過ごしています。
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「編み組細工」の難しさと作り手としての挑戦
編み組細工の難しさは、材料の状態や湿度などの環境条件によって作業方法が変わる点です。材料は湿らせた状態で編む必要がありますが、その加減がとても難しいです。湿気が多い時期は少しの水分で柔らかくなりますが、乾燥した夏場はすぐに乾いてしまうため、水を多めに含ませるなど調整が必要です。
製品ごとに使う編み方もさまざまで、例えばかばんの場合は「底編み」「立ち上げ編み」「縁編み(ふちあみ)」「矢羽根編み(やばねあみ)」など、いくつかの技法を組み合わせて仕上げます。それぞれに独自のコツがあり、製品によって意識するポイントが異なります。
手を動かして作業することが性格に合っているため、編み組細工はとてもやりがいを感じます。技術を習得するには時間がかかりますが、自分が納得できるものを作れた時の喜びはひとしおです。
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三島町の暮らしがもたらすあたたかさ
三島町の魅力は、自然の豊かさと人々のあたたかさにあります。四季折々の風景が楽しめますが、特に春の新緑や秋の心地よい気候はお気に入りです。
近隣の方々はとても親切で、工房に野菜を届けてくれたり、一緒に畑作業をしたりと家族のように接してくれます。雪国ならではの知恵を教わることもあり、生活の面で多くの助けを受けています
また、会津地方の郷土料理を教えてもらう機会も増えました。こづゆやにしんの山椒漬けはもちろん、採れたての新じゃがを鯨(くじら)と煮込む料理も、近所の方からいただいたのが始まりでした。さらに、小麦粉のようなものをしそに巻いて揚げたしそ巻は、ある日訪問したお宅で「これ、揚げたてだから食べてごらん」と出された一品です。どの料理も家庭ごとの味があり、いただくたびに地域のあたたかさを感じています。
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かっこいいと思える作品を追い求めて
屋号「marumi」は、山梨にいた頃、作品をイベントに出展する際に名付けました。「まるく行こうよ」という軽やかなニュアンスと、三井の「mi」を組み合わせています。
代表的な作品の一つである椅子の座面に山ぶどうを用いたデザインは、自分自身がかばんを持ち歩かないことから着想を得ました。「かばんよりも椅子の方が使う頻度が高い」と考え、制作を始めたのがきっかけです。
ものづくりでは、自分が「かっこいい」と思えるものを作ることを大切にしています。好きではないものを作りたくないという思いがあり、オーダーを受けながらも自分自身が使いたいと思える製品を考えています。定番の手提げカゴやザルなども作り続けつつ、新しいアイデアにも挑戦していきたいです。
また、こうした作品は三島町の工人祭りに出展しています。こういった場や工房では、直接お客様と交流する機会が多く、感想や要望を聞けることが励みになっています。地域の特色を生かしながら、これからも多くの人に手仕事の魅力を伝えていければと思っています。
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marumi(マルミ)
〒969-7512 福島県大沼郡三島町大字桑原字荒屋敷1351
Tel.090-7414-3173
vc.marumi@gmail.com
https://www.instagram.com/marumi.amikumi/
※来訪の際は、事前連絡要