「山善倉庫リノベプロジェクト」の企画書
「山善倉庫リノベプロジェクト」について企画書のようなものを書いておこうと思います。例えば「山善倉庫とはどのような倉庫なのか」とか「普通の倉庫とどう違うのか」とかそのような類の内容です。
まず持って「山善倉庫とはどのような倉庫なのか」ということですが、それを簡単に説明しますと倉庫でありながら倉庫以外の用途も兼ね備えた施設であるといえると思います。
まずは、その辺りの内容から書き進めていきます。
倉庫に付加される用途は「店舗」「工房(アトリエ)」「イベントスペース」「フォトスタジオ」「オフィス」の類を今の所想定しています。これらの用途は独立して集合するのではなく「倉庫」に付随してその機能を果たすように付加されるイメージで構成されます。
例えるとすれば、コンビニエンスストアの中にあるATMのようなイメージです。コンビニのATMはそれ自体が独立して存在しているのではなく、あくまでコンビニのサービスのひとつとして役割を担っています。山善倉庫も倉庫を主体としてその周辺で他の用途と機能を補完しあいます。
とはいうものの山善倉庫に倉庫以外の用途を付加しようとすれば、建築基準法や消防法などの法令上の制限をクリアしなければなりません。その辺りを解決できなければこの計画は全て絵に描いた餅と化すでしょう。ですので計画前の段階からしっかりと下調べはしておかなければいけないと思っています。
しかしまあ、新しい試みというのは大いにしてグレーな部分が多いものです。開き直るしかありません。ですが、グレーにこそ可能性があり新たなイノベーションが生まれるとも思っています。これがホワイトだとレッドオーシャンの市場で勝負しなければいけませんし、ブラックだとそもそも全ての計画が成り立ちません。グレーな事業を実現させるのは困難なことも多いと思いますが、なんとか試行錯誤しながら実現させたいと思っています。
山善倉庫は、倉庫でありながら倉庫以外の用途も兼ね備えた施設であるので、倉庫以外の用途は、倉庫というモノを保管する機能を起点に展開されるようにデザインされます。ですのでまずは「モノ」の安全を担保するためのセキュリティはしっかりと確保する必要があります。そうでないと施設の根幹である倉庫としての価値を維持することはできなくなります。あくまで倉庫であるという基本の「基」はしっかりと押さえることが重要なポイントとなってきます。
山善倉庫では「セキュリティ」は充実させる一方で妥協せざるえない要素も出てききます。それが、施設の「快適性」です。
まず、山善倉庫には住居的性質は全く含まれていません。それは施設の中で寝泊まりする事はもちろん、日常的にくつろげる空間を演出することも想定していないということになります。要するに山善倉庫は快適性を追求することから早々に離脱した施設であるといっても良いでしょう。このことは「人はどれだけ不快に対して、もしくは不便に対して許容できるのか」という実験的要素も内包しています。ですが、それは決して現代の快適至上主義へのアンチテーゼなどではなく、ただ単純に倉庫の中に快適な空間を作るだけの予算がないだけのことです。
とはいうものの倉庫そのままの状態ですと真夏や真冬ではとても人が仕事に集中できる環境ではなくなってしまいます。いくら「快適性」を追求しないといっても仕事中に熱中症で倒れられたら困ります。その辺りをどのように折り合いをつけるかは状況を見ながら手探りで対応していくしかありません。
例えば倉庫という極めて粗朴で味気ない空間を逆に「味」として見せていき、インダストリアルに演出することを目指していきたいと考えていますが、となると必然的に断熱や遮音などの効果が得られなくなります。そこで対応策としてパッシブデザインをうまく取り入れたり、入居者同士の相互扶助の精神や協調性を発揮していただきうまくクリアできないかと考えています。
山善倉庫に付加されるであろう用途の中でポイントとなるのは「店舗」の機能です。200㎡以下の床を店舗に割り当て、倉庫の商品を一般客に販売できるようにすることを考えています。機能的用途からすれば「倉庫付き店舗」の部類に入るでしょう。
来店客は本能的にまだ市場に出る前の商品を誰よりも早く手に入れたいという欲求を持っています。そのような心理的欲求(もしくは潜在的欲求)を刺激するためにも店舗をあえて店舗っぽくせず、倉庫のテイストを残したまま営業できるようにデザインしていきたいと考えています。
また、入居者(テナント)がECにも対応できるようにインターネットの環境も充実させなければなりません(倉庫付き事務所としての機能)。
また、ECを展開する上で欠かせない機能として「物撮り」の需要もあると思います。そこでフォトスタジオを倉庫内に入居者誰でもが使える共有スペースとして設置することも計画しています(フォトスタジオ付き事務所としての機能)。
山善倉庫は複数のテナントが入居できるように、小さく区画割りして賃貸します。そうすることで1区画あたりの賃料が低減されます。それはスモールビジネスやスタートアップにも入居の敷居をさげることにつながると思います。
現在の区画割の計画は、倉庫付き店舗が3区画、店舗が2区画の計5区画を予定しています(これら5区画の入居者はみなフォトスタジオを無料で利用できる)。
テナントの属性はアパレル(主として古着屋)をイメージしています。古着屋をターゲットとしている理由ですが、古着には「一点もの」「味がある」「個性的」「リメイクして新しい価値を生み出す」「掘り出し物がある」など若者を中心にポジティブな印象があり、そこが古いけど新しい倉庫リノベとコンセプトが重なり相性の良さがイメージされるからです。
発想は短絡的ですが、真理は普遍だと思っています。
山善倉庫は5区画全てをできる限り古着屋で構成しようと考えています。理由は相乗効果を意図的に発揮させたいという狙いからです。山善倉庫がある立地は古着屋のみならずアパレル系の市場すら皆無に近い状態です(半径100mの商圏)。ですので単独で店舗を営業するよりも同じカテゴリーの業種が入居した施設の方が来店客としてもわざわざ足を運ぶ理由が出るのではないだろうかと考えています。まさに「古着巡り」を戦略的に演出しようというのが狙いです。
「山善倉庫リノベプロジェクト」が上手くいくかのキモは、施設運営をどのようにデザインするかにかかっていると思います。
そもそもあまり手を加えないリノベーションを想定していますので、入居者が入居する区画は味気ない倉庫の一部分です。その味気なさを逆に「味」としてどうデザインするのかは運営側が入居者(テナント)やお客さんなど山善倉庫に関わる人たちをどう巻き込んでいくかにかかっています。
「山善倉庫リノベプロジェクト」はハード面(建物)の改修、再生だけに留まらず、ソフト面(運営)の革新、刷新でもあるのです。この辺りについては、イベントなどを通してあらかじめ関係人口を増やしながら進めていこうと考えていますが、いずれにせよトライアンドエラーを繰り返して運営の精度を上げていくしかないと思っています。
おしまい