技術の神に初詣
技術者とはどのような人々でしょうか。唯物論的な考えあるいは近代合理主義的な考えを持つ人、そういった印象を持つ人が少なくありません。そして実際、現在の技術者にはそのような人々が多いように思います。しかしながら、大工や石工、鍛冶屋、鋳物師、金細工職人といった古の技術者たちは、物に向き合い技を競いながらも、同時に神に祈る人々でもありました。
技術者が祀る神、すなわち技術の神とはどのような神なのでしょうか。そこで今回は、日本で信仰されている技術の神々を紹介していきます。
カナヤマサマ
「かなまら祭り」をご存知でしょうか。男根を模した神輿を担いで練り歩く奇祭として、祭事の折には毎年全国的に報道されており、見聞きされている方もいらっしゃるかと思います。
そのかなまら祭りが行われているのが、神奈川県川崎市にある金山神社です。かなまら様は金山様の別称であり、金山神社では金山様、すなわち金山彦(カナヤマヒコ)が祀られています。そして金山様は、日本における代表的な技術神の一柱と言えるのです。
金山様とはどのような神なのでしょうか。埼玉県立歴史と民俗の博物館では以下のように解説されています。
金山様は古くから鍛冶屋や鋳物師に信仰されており、現在でも鉄鋼に関わる人々から職業神として親しまれています。そしていくつかの由来から性神とも解されており、かなまら祭のような奇習として定着しているのです。川崎の金山神社では平時においても、男根と金床が組み合わされた像が設置され、その威容を現しています。都下のエンジニアにとっては見逃せないスポットと言えるでしょう。
金山様の信仰は広く普及しており、金山様を祀る金山神社は全国に存在します。また、鍛冶屋や鋳物師の家では、神棚で金山様を祀る際にミニチュアの仕事道具を供える風習があるそうです。
オオナムチとスクナビコナ
日本で最も広く信仰される神の一柱が、国造りの神である大己貴(オオナムチ)です。出雲大社の祭神であり、大国主、大穴牟遅、大国魂といった別称でも知られています。その大己貴と義兄弟の契りを交わし、ともに国造りに携わったのが少名毘古那(スクナビコナ)です。
そして大己貴と少名毘古那は、国造りに際して土木・農耕・医療といった数々の技術を人々に伝えたことから、最も主要な日本の技術神とも考えられます。
大己貴と少名毘古那の二柱を合祀する神社の代表格が、秋葉原駅からほど近い神田明神でしょう。言わずと知れた秋葉原の氏神は、霊験あらたかな技術神でもあったのです。そのほか都内で大己貴と少名毘古那を祀る神社には、新宿の鎧神社、上野公園の五條天神社、日本橋の福徳神社、世田谷の玉川神社、練馬の下石神井御嶽神社などが挙げられます。
少名毘古那を祀った神社のなかで異彩を放つのが、和歌山の淡嶋神社です。和歌山の淡嶋神社は人形供養で知られており、境内には数多くの人形が並べられています。祭神の淡島様は少名毘古那の異称と考えられ、技術の神を詣でながらも、神格のさまざまな側面を見ることができます。
電電明神
京都嵐山にある法輪寺の鎮守社である電電宮に祀られているのが電電明神です。古くは雷の神として地域の人々に信仰されていたそうですが、現在では電気・電波の神として知られるようになりました。境内には電電宮を守る電電宮護持会の会員名簿が掲示されており、その中にはパナソニック、日立製作所、ソフトバンク、NTTドコモといった事業者の名が見られます。
拝殿の階下にある電電塔には、テスラコイルを思わせる仏塔を挟んでトーマス・エジソンとハインリヒ・ヘルツが合祀されています。いささかミスマッチにも見えますが、エジソンは京都と縁が深く、電球を開発する際にフィラメントの素材として京都の竹を求めたという逸話が知られています。
日本には以上のほかにも玉祖、伊斯許理度売、三宝荒神といった技術神が存在します。
また、全国に目を向けると技術神を祀る神社は枚挙にいとまがありません。そしてそれらはいずれも当地の技術者たちに連綿と信仰されてきた神々なのです。私たちはそこに詣でることで、古の技術者たちが紡いだ長い伝統の列へと連なることができるのです。
(執筆・写真撮影:林田)
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