【九州在来種の香酸柑橘を求めて:vol,1】馬渡島に自生する幻の柑橘でまちおこし!(前編)
みなさんは「香酸柑橘(こうさんかんきつ)」という言葉をご存知でしょうか?
香酸柑橘とは、果汁の酸味や果皮の香りを楽しむための柑橘類のこと。ゆずやすだち、かぼす、レモン、シークワーサーなど、その数は30種以上とも言われています。
文字通り、かぐわしい香りと清々しい酸味が特徴の香酸柑橘は、食欲を刺激し、料理の味を際立たせてくれる名脇役。殺菌作用もあり、昔から多くの家庭で重宝されてきました。
また、香酸柑橘のなかには「在来種」と呼ばれる特定の地域で長年栽培されている希少な品種も多くあります。
ただ、産地が限定的であることや生産量がわずかなため、市場に出回る機会が少なく、なかなか陽の目をみることのないものも。
そこで、今回は「九州在来の香酸柑橘」にスポットを当てて紹介します。
幻の柑橘を求めて!?いざ、佐賀県は唐津へ
佐賀県北西部の海沿いに位置し、対馬海流が流れる世界有数の漁場・唐津市。
ゆたかな緑と青く凪いだ海に恵まれた唐津市は、食材の宝庫です。そんな唐津市に「謎に包まれた柑橘がある」という気になる噂を聞きつけた農劇取材班。
海と山の幸がひしめく唐津の海沿いの道から、山間の集落へ。
道なき道を進み、たどり着いた「富田農園」の富田秀俊さんにお話を伺いました!
元々は、唐津市の海に浮かぶ7つの島の内の1島・馬渡(まだら)島に自生していたという柑橘“ゲンコウ”。島にたった5本のみ自生していたと言われるそれは、名前の由来さえもわからない謎だらけの果実です。
ゲンコウを育てる「富田農園」があるのは唐津市浜玉町。
海沿いの道を軽快に突き進み、山間の小さな集落へと向かいます。ナビが案内する道を1本通り過ぎ、すぐに回り道のルートが表示されたのでそのまま進むと、車1台通るのがやっとの細い道‥(ちなみに私は横幅広めのワゴンに乗っています)。
もちろんUターンするスペースなどないので、狭い農道をバックで引き返すことに。ようやく正規のルートに戻るも、道が細いことに変わりはありませんでしたが、たどり着いた時の安堵感はひとしおでした。
珍しい品種ばかりを手掛けるパイオニア
さて、ここからが本題。
ハウスミカンの生産量日本一を誇る唐津市のなかでも生産量の多い浜玉町。ここで江戸時代から続く大庄屋として農業を営んできたという由緒ある農家に生まれた富田さんは、10代の時に親からミカン農家を継ぎます。
しかし「他の人と同じことをしていてもつまらない。自分で値付けができる農作物を育てたい」と温州ミカン栽培から手を引きます。
「何でも2番手3番手では面白くない。
1番になりたかった。人のせんごつ(しないこと)ばっかりしよった。だけん、赤字ばっかりたい!」
と富田さんは豪快に話します。
最初に案内してくれたのは、自宅に隣接する作業場の目の前にあるビニールハウス。
育てているのは、アロマの原料となるベルガモット(アロマは好きなので聞きはしますが見るのはもちろん初めてです)、仏手柑(インド北東部が原産の柑橘)は、全国に流通する仏手柑の約半数を富田さんの農園から出荷されています。全国的な人気を誇る黒いちじく「ビオレソリエス」も主軸となっています。
そのほか、レモン、菊芋、原木椎茸など様々な作物を育てています。
全国で初成功!イチジク栽培の名手
富田さんの名前を全国に広めたのは栽培から9年間、試行錯誤を繰り返し、全国の生産者の中で初めて実をつけることに成功した黒イチジク「ビオレソリエス」。
取材日はまだ暑さの残る9月、丸ごと1個ポンと手渡してくれた凍らせた状態のビオレソリエスは、柔らかい皮があっという間に溶けてしんなりとしたところを思い切り齧って見ると、上品な香りと果汁が口のなかにジュワッと広がります。
これまで日本ではほとんど生産例のない農産物を積極的に栽培してきた富田さん。
「ベルガモットもイチジクも大体、知り合いの人から育てきれんから、面倒見てやってくれんね?と引き受けたもんばっかりよ」と笑います。
詳しい栽培方法がわからないなかでも、持ち前の発想力で創意工夫を凝らし、独自のノウハウを蓄積してきました。
そのため「富田農園」は、自ら開拓者となった富田さんが生産量日本一を誇る農産物ばかりです。
この記事は、前後編の2部構成でお届けします。
後編となる次回は、未だ謎のベールに包まれる「ゲンコウ」の生い立ちや背景、美味しい食べ方など、知られざる魅力についてご紹介します。
後編に続く…(続きはコチラから)
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