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セクハラの境界線はどこにあるか?

2019年2月に警視庁が、大手ゼネコン大林組の若手社員の男を、就活中の女子学生を自宅マンションに連れ込んでわいせつ行為をしたとして逮捕しました。このような事例は極端ですが、「セクハラと恋愛」や「セクハラと冗談」の境界線に悩んでおられる方も多いと思います。今回はそのようなセクハラの境界線についてお話ししようと思います。

1.そもそもセクハラの定義とは

セクハラとはセクシュアルハラスメントの略で、
「職場において、労働者の意に反する性的な言動が行われ、それを拒否するなどの対応により解雇、降格、減給などの不利益を受けること」
「性的な言動が行われることで職場の環境が不快なものとなったため、労働者の能力の発揮に悪影響が生じること」をいいます。

定義の中に明確に立場の上下は組み込まれていませんが、基本的には上司から部下へのセクハラが多く、問題になっている事案も立場が強いものから弱い者へのハラスメントが多いのが現状です。

2.セクハラの判断枠組み

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セクハラはどのような場合に法的に違法とされるのでしょうか。
一口にセクハラといっても3段階あると言われています。

A 強制わいせつや強姦などに刑事責任を問えるほどの強度なもの
B Aまでにはいかないものの、民事上の損害賠償請求が認められるもの
C Bの程度まで行かず、単なるモラル違反に留まるもの 

よく問題になるのがBとCの境界線です。Cであれば慰謝料請求等は認められませんが、Bまでいくと慰謝料請求まで認められるからです。

判例では、
ハラスメント行為が、使用者の有する権限と関連しない場合は、被侵害利益の種類・程度と侵害行為の対応との相関関係により社会通念上許容される限度を超えた場合に違法となり、他方使用者の有する権限と関連している場合については、心理的負荷等を過度に蓄積させるような行為は原則として違法とされ例外的にその行為が合理的な理由に基づいて一般的に妥当な方法と程度に行われた場合には正当な職務行為として違法性が阻却される場合があるとされています。

判例の表現はとても難しいですね。誤解を恐れずに言えば、業務と関係ない性的言動(セクハラ)は、その程度によって違法かどうかが決まり、業務に関係ある場合でも 必要以上の場合は違法になるということでしょう。
 
例えば、 広告業を営む会社の上司が、 隣の席の部下である女性社員に 、下着の色を聞いた場合は、セクハラになる可能性が高いと思います。
 
しかし別のケースを考えてみましょう。下着メーカーの会社で、開発部署の上司が、女性部下に対して、「現在どのような下着が流行しているか」ということを聞く意味で下着の色を聞いた場合は、セクハラにならない可能性があります。※このケースでも、必要以上に聞いたり聞き方によってはセクハラと判断されることはあります。

 3.セクハラの判断基準

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セクハラにより違法とされる場合、何を基準としてなされることになるのでしょうか。これは「被害者の主観」が原則だといわれています。

人事院規則もセクハラの判断基準として「性に関する言動に対する受け止め方には個人間や男女間で差があり、セクシャルハラスメントに当たるか否かについては、相手の判断が重要である」(人事院規則10-10の運用について(通知)別紙1)と述べています。

4.判例からみたセクハラの基準 

裁判例では、胸やお尻など直接的な身体接触の場合は、比較的容易に慰謝料請求を認めています。身体的接触がない場合でも「ホテルに行こう」「キスがしたい」「子作りしよう」など、直接的な性的発言の場合は、低額ながらも慰謝料請求が認められています。
 
請求棄却になった場合、すなわちセクハラではないと判断されたものとしては、「若い女性と飲む酒は美味しいね」や「笑顔が素敵だね」「今日帰れなくなったら泊まらせてもらおうかな」 など、性的な関連性が薄いものがあります。

5.就活セクハラの話

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就活セクハラを例にとってみれば、行きたい企業の OB という立場を利用して、職場に関係のない卑猥な言動や性的関係を強要するような行為は強制わいせつや準強姦など刑事責任を問われないとしても、民事上の慰謝料を請求が成立するケースとなります。 

6.最後に

以上のようにどのような場合がセクハラになるかというものをあげてきましたが、セクハラの原因は、セクハラになる・ならないという基準以前に、 相手を人としてリスペクトする精神が足りない ことが原因だと思います。 不快に思っている人がいる以上、その行為はするべきではないのです。セクハラ以外にも「ハラスメント行為」が問題になる事例が増えています。他のハラスメント事例についてもまた記事に書きたいと思います。

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