銀行員が「仕組債」の悪徳販売やってみた!
ちょっと、怒られそうなタイトルつけちゃいました(汗)
もちろん、実際に悪徳販売をやったわけではありません・・・
銀行や証券会社による「仕組債」の販売で、多くの苦情が発生している点を、金融庁が問題視しています。
2023年6月、千葉銀行等は、仕組債の販売が不適切であったとして、業務改善命令を受けました。
では、仕組債とはどんな商品で、どこに問題があるのでしょうか?
わかりやすく説明するため、ロールプレイングをしてみます。
≪ご注意≫
本稿の内容は、私の所属する株式会社西日本フィナンシャルホールディングス、株式会社西日本シティ銀行の公式な見解ではなく、私の個人的な見解です。また、金融商品・サービスの案内や営利を目的としたものではありません。
Let's ロールプレイング
後輩の花咲さんに、70歳のお婆ちゃん役をやってもらます!
ちなみに、尼田は一切「嘘」はついていません。
尼田:「花咲さん、定期預金、満期までお預けいただきありがとうございます。こちらのお金、お使いみちは決まってらっしゃいますか?」
花咲:「いや、何も決まってないから、継続してもらっていいですよ。マイナス金利が解除されたから、金利は上がるのかしら?」
尼田:「はい、確かに金利は少し上がるのですが、1,000万円を1年間預けていただいて、お利息は2,500円、税金を引くと、約2,000円ほどになります。まだまだご不満ですよね?」
花咲:「そうよ、ちっとも増えやしないわ。」
尼田:「はい、みなさんそうおっしゃいます。実は、今ですと、もっと高い利回りが期待できる期間限定の特別商品があるのですが、お話しだけでも聞いて行かれませんか?」
花咲:「あらそうなの?話だけならいいわよ。」
尼田:「ありがとうございます。花咲さんは、金利がつくとしたら、どのくらいの金利をお望みですか?」
花咲:「最低でも、2%から3%くらいはほしいわね。昔はよかったわ。」
尼田:「そうですよね。実はこちらの商品ですと、4%の利回りが期待できます。」
花咲:「それは、いいわね。でも、そういう商品ってリスクがあって、元本割れしたりするんでしょ。」
尼田:「さすが、花咲さん。おっしゃる通りです。花咲さんは、『日経平均株価』ってのを聞いたことありますか?」
花咲:「よくわからないけど、聞いたことはあるわ。ニュースでいつもやっているやつよね」
尼田:「おっしゃる通りです。最近、景気が回復して日経平均株価はバブル時の最高値を更新したんですよ。」
花咲:「株が上がってるってよく聞くようになったわね。でも、私、株にはあまり興味ないのよ。」
尼田:「そうですよね。株のように毎日上がったり、下がったりする商品は
毎日チェックしないといけないですもんね。しかし、こちらの商品は株ではなくて、一定の条件のもとで利回りが確定した商品なんです。」
花咲:「どんな条件なの?」
尼田:「はい。日経平均株価というのは国内の代表的な企業225社の平均株価のことです。この日経平均株価が、今より30%以上値下がりしなければ、3ヵ月に1度、利息を受け取ることができます。満期は2年後です。景気は回復基調で、株価はまだ上がる可能性があると言われています。」
尼田:「花咲さんは2年以内に今より3割も株価が下落することがあるとお考えですか?」
花咲:「3割もさがることはないかもね。」
尼田:「そうですよね。みなさんそうおっしゃいます。ですので、こちらの商品は今、大変人気になっていまして、売り切れになる可能性もあります。」
花咲:「あらそうなの?もしも、3割値下がりしてしまったらどうなるの?」
尼田:「はい、その時は、残念ながら3割値下がりして償還してしまいます。ただし、値下がりが30%未満なら、当初の利回りも元本も保証されますよ。」
花咲:「わかったわ。尼田さんがお勧めしてくれるなら、試しに買ってみることにするわ。」
尼田:「ありがとうございます。ただし、日経平均株価が購入時よりも5%以上値上がりした場合は、満期が早まってしまいます。その点だけ、ご了承ください。」
どこに問題があるの?
はじめにも申し上げましたが、尼田の商品説明に誤りはありません。むしろ、比較的わかりやすく商品説明したつもりです。
では、どこに問題があったのでしょうか?
実は、そもそもこのお客さまに「仕組債」を案内すべきではなかったというのが正解です。
金融機関は、リスク性金融商品を販売する際、「顧客の知識、経験、財産の状況及び金融商品取引契約を締結する目的に照らして不適当と認められる勧誘を行ってはならない」とされています。
これを「適合性の原則」といい、金融商品の販売資格を有する人は暗記しています。
では、今回のロープレの事例ではどうだったでしょうか?
花咲さんは、投資経験がなく、日経平均株価もよく理解されていませんでした。このような高齢のお客さまに、複雑でリスクがわかりにくい商品を販売することは、「適合性の原則」に照らして、適切であったと言えるでしょうか?
千葉銀行は、どうして業務改善命令を受けたの?
金融庁の検査において「顧客属性を確認及び検討しないまま、顧客を仕組債購入へ誘引している状況」が確認されました。まさに、「適合性の原則」に照らし、仕組債の不適切な勧誘行為があったということになります。
千葉銀行では、この事象を重く受け止め、業務改善計画を策定しその進捗状況をホームページに掲載しています。
仕組債は本当に悪者なのか?
さて、今回ご紹介した商品は、「日経リンク債」と呼ばれる仕組債の一つでした。多くの銀行で販売されていましたが、千葉銀行の事例等を受けて、ほとんどの銀行がその販売を停止しました。
では、この仕組債自体は悪い商品なのでしょうか?
私は、問題点は1つに絞られると考えています。
それは、金融機関の手数料がわかりにくいということです。
商品によって異なりますが、仕組債を販売すると、金融機関は4%以上の手数料を受け取るケースもあります。しかし、それがどこにも書かれていないのです。
お客さまに、手数料をわかりやすく説明し、リスクとリターンを理解できるお客さまへ納得して購入いただくのであれば、商品そのものには問題はないと考えています(個人的な見解です)。
おわりに
今回は「仕組債」をわかりやすく説明するため、あえて悪い販売の事例をご紹介しました。金融機関の職員の1人として、「適合性の原則」を常に意識し、お客さまに最適な商品を提供する努力を続けていきたいと思います。
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