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ショートショート|ドアの向こうの季節

 俺は部屋のドアを開き、そのまま押さえ、紳士みたいにまず後輩を室内に入れてやった。この彼とは大学のバドミントン部で交流がある。ちなみにダブルスも組んでいて、俺は前衛で彼は後衛。あんまり強くはない。
 いきなり彼は文句を言った。
「うわあ、この部屋暑いですね」
 俺は後ろから、自覚できるほどの素っ気なさで返事する。
「そうかい」
「クーラーが見当たりませんが、ぜひ欲しいところですよ」
「バカ言え」と俺は異を唱えた。「お前に文句を言われようと、俺はいつもこの部屋で日々の疲れを癒してるんだ。気に入らないんなら出てってくれて構わんぞ」

 後輩は物珍しそうに室内を見回している。そういえば初めてだっけか。そしてまたもや微妙に癇に障ることを言い出した。
「しかし殺風景ですよね」
「そうか?」
「だって観葉植物も置いてなければ、絵も飾ってないし……あ、テレビはあるんですね」
「退屈だからな。例えば、さほど興味のない野球中継を観たりするわけさ」
「さほど興味がないのに……? ああ、でもそういうもんか」

 俺と彼はテレビの前の椅子に座った。テレビではニュースが流れ、コーナーが政治から経済に移った。ニュースによると、干ばつによって原材料であるブドウが高騰し、輸入インポートワインが値上がりしているらしい。これを聞いて俺はふと思い出した。
「そういえば美味いビールがあるから飲めるぞ。酒好きのお前には朗報だろ」
「マジすか! やった!」

「しかし、やっぱり暑すぎるな……クーラーが欲しいですよね」と彼は言う。
「何回同じこと言うんだよ」と俺はツッコんでしまう。「ここはサウナ・・・なんだから暑いのは当然だろ! 俺の部屋・・・じゃあるまいし!」
「でもこれじゃ女の子も呼べませんよ」
「そりゃ銭湯は男湯と女湯で分かれてるからな!」



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レギュレーション 「クーラーが欲しい」という設定・場面のある短編小説
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人生に必要なのは勇気、想像力、そして少しばかりのお金だ——とチャップリンも『ライムライト』で述べていますのでひとつ