ショートショート|金は宇宙の回りもの
「おたくはどちらに?」と僕は隣に座っている男性の乗客に尋ねた。
「アウストラレ卓状台地までです。そこにビルを構える火星支社に出張でして」と彼はにこやかに答え、こう続けた。「わざわざ足を運ばなくても仮想空間で会議やらなんやらすればそれで済むと私は思っているんですが、上の連中はどうも頭が固くてね」
先述の通り表情は柔和だ――おそらくビジネスの世界に身を置くことで体得したのだろう――が、心の底からの吐露のようだった。初対面の僕に愚痴るのもどうかと思うが、だいぶ鬱憤が溜まっているよ