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ショートショート / 詩

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#ショートショート

🎖️ ピリカグランプリ すまスパ賞|ショートショート|誰モガ・フィンガー・オン・ユア・トリガー

「私がピストルの引金を引くのは上司に頼まれたからなの。決して私自身が好き好んでではなく……」と彼女は呟き、静かに水を飲んだ。 「それが役割ですから」と僕は返したが、自分でも気の利かない発言だなと思いゲンナリした。それで慌てて付け加えた。「あなたのおかげで、静止した世界が動き出すんです。その先には喜びも悲しみもあるけれど、それはあなたのせいじゃない。まずは誇りを持たないと」  彼女と僕は仕事仲間だ。だから彼女の苦悩も分かるつもり。上からの指示をこなす日々に嫌気がさすこともある

ショートショート|ドアの向こうの季節

 俺は部屋のドアを開き、そのまま押さえ、紳士みたいにまず後輩を室内に入れてやった。この彼とは大学のバドミントン部で交流がある。ちなみにダブルスも組んでいて、俺は前衛で彼は後衛。あんまり強くはない。  いきなり彼は文句を言った。 「うわあ、この部屋暑いですね」  俺は後ろから、自覚できるほどの素っ気なさで返事する。 「そうかい」 「クーラーが見当たりませんが、ぜひ欲しいところですよ」 「バカ言え」と俺は異を唱えた。「お前に文句を言われようと、俺はいつもこの部屋で日々の疲れを癒し

ショートショート|氷の上にある計画

「100万ドルの夜景」なんてロマンチックに表現したりもするが、その光は残業をしているオフィスの灯りだったりする。現実は非情。  しかしなぜ僕が属している開発部はこんなに残業が多いのか。ワークライフバランスも何もありゃしない。  今まさに1人で残業中の僕は心の中でそう愚痴りながら、眠気覚ましに淹れたコーヒーを片手にデスクに戻った。すると、そこには僕の椅子に登ろうとピョンピョン跳ねているペンギンがいた。僕はコーヒーカップを床に落としそうになった。 「あ、こちらにいらっしゃったん

ショートショート|ほんの少しの希望があれば充分です

「蝶や鳥なんか見てるとさ、飛べるのって残酷だと思わない? 人間には羽がなくてむしろよかったかもしれないね」 「そう? 空を舞うのって素敵だと思うけどな」 「だって、歩くことが心底億劫になるだろうから……。私たちは本質的に満足ができない生物なんだよ、たぶん」    竜巻のように突然ですが、僕のこれまでの――大した長さではなく残念ながら貴重でもない――生涯について語らせていただければと思います。それでも、すべてを話すとあまりに冗長ですからトピックを厳選します。聴くのに料金はとりま

🎖️ note編集部 ピックアップ|ショートショート|ハロー・グッバイ・ハロー・グッバイ

 走ること自体も楽しいが、走りながら黙々と自分の世界に浸るのがより好きかもしれない。……ちょっと大人ぶってるかな。僕は中学生で陸上部に所属している。専門は長距離走だ。  朝の澄んだ空気の中で行う自主練は至福だ。世界を独り占めしたかのよう。走るのはいつもこの砂浜。2つ理由がある。  1つは、砂に足をとられて走りにくいため、むしろこれが良い負荷になって、脚力を鍛えるのにピッタリだから。アスリートもこのトレーニングは採用しているらしく、模倣するだけでなんだか僕も一流になった気分。

プロフィール

2024年11月19日 追記:Amazonのアソシエイトとして、福永諒は適格販売により収入を得ています。 プロフィール 福永 諒と申します 1994年、長崎県生まれです 2017年、大学を卒業しました (宮崎大学教育文化学部1年 + 同志社大学社会学部3年 の合計4年でちょっとややこしいです) 2018年1月にショートショートを書き始め、同年9月にサイトを作成し、そのショートショートを公開し始めました (ちなみに下記の通り、現在このサイトは『短編漫画ソサエティ』と題し

ショートショート|過去はどこに?

  理科の先生はアルコールランプを手に取り、僕ら児童に向かってこう注意した。「火を扱うんです。くれぐれもふざけないように」  アルコールランプの火で金網の上に乗せたビーカーの水を沸かすのだ。しかし、最も危険なのは火ではなかったのかもしれない。もちろん僕らはそれを知る由もなかった。こう書くと必要以上におどろおどろしい印象を与えるが……。  同じスイミングスクールに通っているため多少仲が良いクラスメイトの男の子が、目の前の僕に見せつけるようにマッチ箱を手で振った。箱の中でマッチ棒

ショートショート|金は宇宙の回りもの

「おたくはどちらに?」と僕は隣に座っている男性の乗客に尋ねた。 「アウストラレ卓状台地までです。そこにビルを構える火星支社に出張でして」と彼はにこやかに答え、こう続けた。「わざわざ足を運ばなくても仮想空間で会議やらなんやらすればそれで済むと私は思っているんですが、上の連中はどうも頭が固くてね」  先述の通り表情は柔和だ――おそらくビジネスの世界に身を置くことで体得したのだろう――が、心の底からの吐露のようだった。初対面の僕に愚痴るのもどうかと思うが、だいぶ鬱憤が溜まっているよ

ショートショート|細い糸、弱い光、軽い存在

『存在の耐えられない軽さ』という小説をご存じですか? 著者はチェコ人のミラン・クンデラ。なんて正鵠を得たタイトルだろう。  ……と偉そうに紹介しておいて、僕自身、実はまだこの本のページを繰っていません。タイトルや評判に気圧されて、手がつけられていない小説が皆様の本棚にも存在する……なんてことはありませんか?  時間は余計にあるのに金が少ない。さて、金は有り余っているのに時間が足りないのとどっちがマシだろう? ……虚しい問いだ。僕はどうしようもなく前者だから。  でも今のとこ

ショートショート|大いなる期待のレシピ

 大きなお鍋を用意します。そこに水を注ぎ、〈目覚まし時計を気にせず眠っていい安心感〉を入れます。  火にかけてください。焦げつかないようヘラで軽く混ぜながら、〈平日に学校や職場で日曜日になったらこれをやろうと考えていた計画〉を放り込みます。うっすら埃をかぶっている本の読破だったり、ジャングルの様相を呈している庭の草刈りだったり、お好きなもので構いません。多くの場合、計画とは異なりロクに投入できませんが、間に合わせの材料で構いません。  それから〈せっかくの日曜日が終わってしま

🎖️ 青ブラ文学部 優秀賞|ショートショート|愛も変わらず

 遠足を翌日に控えた小学生のようにワクワクしている。似たようなものだな。僕の場合、明日は待ちに待ったデートだ。仕事の都合で僕だけ海外に住んでおり、同棲や結婚はまだ難しく、デートもたまにしかできない。だからすごく貴重。  それなのにこの遠距離恋愛が6年も続いているのはありがたいことだ。きっと彼女と相性が良いのだろう。  お気に入りの服はクリーニングに出しピカピカでシワの1つもない状態にし、クローゼットでスタンバイさせてある。靴も洗った。髪は3日前に美容師に切ってもらい、眉毛と

ショートショート|よるはあそぶ

 夜中、尿意で目が覚めた。布団から体を起こし眼鏡を探す。……ん? ないな。……睡眠中に無意識に私の腕が動き、定位置——枕元、読書に用いた文庫本の上——の眼鏡にぶつかりすっ飛ばしたのだろうか。  眠いし電灯を点けるのも億劫だし朝になったら探すことにした。トイレに行き用を足すという作業は近視であっても困難ではない。と高を括っていたが文庫本を踏んで足を滑らせ尻餅をついた。前言撤回。  朝、起床。仕事を全うしているのに憎まれて頭をぶっ叩かれる目覚まし時計って可哀想、などと考えている

ショートショート|お天道様が見ている

 アメリカが「世界の警察」と呼ばれるように太陽系のいわゆる警察は太陽その星であり、決まって燃えるような熱い心で取り締まっている。 「おい火星よ、『見かけの等級』という言葉を知らんとは言わせんぞ」と太陽は問い詰めた。火星は答える。 「は、はい。絶対的な明るさではなく、地球から見た際の明るさのことですよね……。距離によって見え方は違うと。存じてますよ、ええ……」 「お前には地球に賄賂——鉱物のオパールだそうだな——を渡してこの『見かけの等級』を改竄した容疑がかかっている。逮捕は

ショートショート|京都タワーという名のロウソク

「京都タワーって見た目がロウソクみたいだよな。細長いし、胴体は綺麗な白で、頭の方が赤っぽくて」 「ここだけの話、素材の半分は本当にロウでできてるんだよ。耐久力のためにもう半分は鋼だけど」 「またまた」と青年は笑い、こう続けた。「やっぱり関西の人間はウィットに富んでる」  8月、京都五山送り火が執り行われる。東山如意ヶ嶽に炎でダイナミックに描かれた《大》の字は印象深い。  さて、ではなぜこの行事が開催されているか、その理由についても把握している人間は少ないだろう。  そう、京