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情報社会におけるアピアランス〈外見〉問題(『子育て支援と心理臨床』より③)

子育て支援に関わる人々の協働をめざし、心理臨床の立場から子育て支援の取り組みと可能性を発信する雑誌『子育て支援と心理臨床』が、年1回小社から刊行されています。各号では子育てに関わる様々なテーマを特集してきましたが、そのほかにもエッセイや連載などで多角的な視点から子育ち・子育てを考える記事を掲載しています。 このコーナーでは、そのなかから特に人気の記事・連載を紹介していきます。
 前回に引き続き、医師の原田輝一さんによるアピアランス〈外見〉問題に関する連載を掲載します。

 現代社会において、人の健康や幸福と深く関連する外見(アピアランス)。病気や外傷により外見に不安や困難を抱える人々に、どのような心理社会的支援を行っていけるのでしょうか。
 原田輝一さんは、医師として治療に携わりながら、新興の学術分野である「アピアランス〈外見〉問題」の最新の研究成果を紹介し、その学術的知見と技術の導入をめざしています。本連載では、アピアランス〈外見〉問題の概要や、それに対処するための研究とケア開発の歴史について、事例を交えながら紹介していただいています。

*下記の内容は、『子育て支援と心理臨床vol.18』から転載したものです。『子育て支援と心理臨床』の詳細はこちらをご覧ください。

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 前回、前々回と、思春期におけるアピアランス〈外見〉問題について紹介させていただいた。加えて、体系的な支援介入がイギリスを中心に発展し、現在はEUへと広がりつつあることにも触れた。その状況は、EUの専門部会のサイトでも参照できる(appearancematters.eu/)。
 言わずもがなであるが、情報社会とアピアランス〈外見〉問題は、切っても切れないほどの深い関係がある。そこで今回は、情報社会とアピアランス〈外見〉問題の関係について、まず研究知見をいくつかトリビア的に紹介する。続いて支援介入の具体的方法について簡単に触れつつ、最後に今後の課題として、メディアを利用した改善の試みについて紹介する。

情報社会とアピアランス〈外見〉問題の関係について

 この話題となると残念ではあるが、どうしても情報社会の副作用に関して、ネガティブな情報が多くなってしまう。
 2000年、イギリス医学会の報告(1)で、極端な細身のモデルがメディアに登場すると、摂食障害患者やボディ・イメージへの不安・不満足が増悪する人が増えることが示された。
 2004年、画像処理ソフトウェアを用いて、広告に採用されたモデルの画像に伸縮を加えて、「細身」または「平均」に見えるように加工したイメージを用いた実験を、HalliwellとDittmar(2)が報告した。「細身」を社会文化的理想と認識している女性は、細身のモデルのイメージを見せられることによって、身体に対する不安感が高まった。
 思春期前や思春期の少女をターゲットにしたほとんどの雑誌は、どのようにしたら「外見を改善できる」のかを大々的に扱った記事を載せている(ダイエット、エクササイズ、イメージチェンジなど)。そういう意味では男性も負けていない。アメリカの雑誌『メンズ・ヘルス』の調査では、75%が自分の体形に満足しておらず、ほとんどの回答者が、より筋肉質な体型を望んでいた。また半数の人が、加齢に特徴的な外見の変化(脱毛や体重増加など)に悩んでいた。
 海外での別の研究では、中学生における外見への不安について、44%の生徒が、「良く見えること」は社会に対する自信になると感じていた。年齢とともにこの傾向は強まり、11歳では18%だが、18歳では78%にもなる。40%が、外見と自尊感情は関連すると考えていた。また、自分の外見に満足していない多くの生徒は、社会的生活に悪影響を受けていると感じていた。
 10代の若者は自分が他人からどのように見えるのか、どのように評価されるのかについて関心が高く、メディアが映し出す外見のメッセージに対して無抵抗に近い。「正常」でありたい(「正常」になりたい)と望んでいるだけであっても、「身体的な魅力」という連続体の頂点に向かって、強力に歪められたイメージ群に強く曝されている。困ったことだが、メディアに描かれているスターへの憧れのため、あのスターのようになりたいと言って、美容整形を希望する者も少なくない。
 現代の情報社会には社会文化的圧力が含まれており、これにより多くの人々が、潜在的な醜形恐怖状態になってきている。テレビ・映画・インターネットをはじめとして、メディアは膨大化している。その動力は商業であるが、残念ながら商業は、時として倫理や道徳を無視した行為に走ってしまうことがある。CMに出てくるハンサムな男性や美女に対する好感を利用して、商品にポジティブなイメージを想起させ、購買意欲を高めようとする戦略は一般化している。多くの広告がそうした関連想起戦略を行っているが、その背景には、「外見をポジティブにすれば良いことがある」といったサブリミナル効果が存在している。外見問題に対して脆弱な人は(他者に対する自分自身の情報を、どのように統制したらいいのか判断できない、あるいは誤った判断の仕方を身につけている)、文化的圧力の影響を強く受けてしまう。メディアが外見への関心を助長させ、強力なモデリングの影響力を持つものであることは間違いない(もちろんメディアは一枚岩ではない。心あるメディア人たちは、こうした問題について、正しい理解と指針を求めていることも事実である)。

支援介入の具体的方法について

 Rumseyたち(3)が提唱している「アピアランス〈外見〉問題への段階的ケアモデル」は、レベル1~4の4段階である(図1参照)。もともとは性生活へのケアの中で提唱された形式で、患者が相談しづらく、ケアラーも扱いにくいテーマについて、段階的にアプローチしていく(頭文字をとってPLISSITモデルと呼ばれる)。今は多くの分野で応用されており、うつ病やうつ状態、癌患者のメンタルヘルスなどにも利用されている。

図1 ケアの必要者数と重症度との関係

レベル1:許諾Permission
 
許諾とは、ケアを受ける人と提供する人の両方が、心理社会的問題について話し合うことを、あらかじめ認め合っていることを意味する。共感的環境の中で、尊厳をもって扱われ、臆することなく質問できるよう配慮され、そして関連する情報が提供される。問題点について聞き取りを行うことで、生活する中で生じる苦悩を正常化することができる。また周囲のケアラーが関心を示すことで、今後の介入プロセスにおける相互関係も強化される。
 誰にも気づかれないことを願っているとか、「この問題が完全に解決するまで」家に居続けようとしているとか、「再び完全に正常に見えるまで、表に出るのは控えるつもりだ」といった反応を示すなら、もう少し高いレベルの介入が必要である可能性がある。こうしたレベル1のケアラーには、すべての職種が該当する。

レベル2:基本的情報Limited Information
 
問題点や対処法について、簡潔にまとめられた情報を文書で渡したり、インターネットのサイトへアクセスしたりすることを勧める。こうした情報は、要求されてから出す場合もあるし、治療が始まる前から提供する施設も増えてきている。正しい知識を持ってから治療を受ける方が、心理的予後が良いのは言うまでもない。

レベル3:個別アドバイスSpecific Suggestions
 「目標とするストレッサー」へのアプローチ法、すなわちコーピング技術を提供する。領域ごとに当事者の訴える表現は変化するし、また適応していくべき生活環境も多様であるため、共通して述べられることが多い諸問題への対処方略は、領域ごとにストックされていく必要がある。

レベル4:集中的治療Intensive Treatment
 介入療法における最終レベルは、心理学的治療の専門トレーニングを必要とする認知行動療法 Cognitive BehavioralTherapy(CBT)などである。この研修は、心理学やCBTの公認トレーニングにおいて提供されるべきである。アピアランス〈外見〉問題への段階的ケア・アプローチは、イギリス圏やEUでは、現在は心理士・医療スタッフ・教師などに向けた講習会で紹介されている。医療向けの場合、スーパーバイズ体制のもとでなら、医療者もレベル4を行うことが可能とされている。
 アピアランス〈外見〉問題を分解すると、インプット→(プロセシング↔アウトカム)になる。インプットとは素因や症状など、問題が発生する過程の初期条件になる。医療とは、患者の問題の原因別に対応し、初期条件の除去あるいは軽減を目指す。しかし残念ながら、現段階の医療では、それ以外への発想が乏しいため、インプットの修正に没頭してしまいがちである。ところが、それに続くプロセシングとアウトカムに適応不良なスキーマがあると、極端に言えば、インプットで何をやっても効果がないことになり、当然、アウトカムも悪化する。重要なことはプロセシングとアウトカムが相互的に作用していることであり、それぞれに単独にアプローチしても効果が上がらないことである。CBTは、プロセシングとアウトカムが相互に関係し合うタイミングに働きかけるものであり、まさに医療の手が届かない領域をカバーしてくれる、強力な補完的パートナーになる。

メディアを利用した改善の試みについて

 潜在する当事者への有効なアプローチ手段として、関連する領域への情報拡散手段として、そしてケアラーのチーム・パフォーマンス向上のためのツールとして、情報社会を利用しない手はない。

潜在する当事者への有効なアプローチ手段として
 有用な情報やセルフヘルプ教材がインターネット上で利用できれば、当事者自らがアプローチしやすいことは間違いない。イギリスの慈善団体Changing Faces のサイトは、その代表例である(changingfaces.org.uk)。トップページの下のほうに「self-help guides」があり、ここから入ると、本1冊分ほどの多様な情報にアクセスできる。
 ただし、ネット上にあふれる情報には、商品の販売を目的としたものもある(エビデンスなく、高額商品を推奨するなど)。また、サイトへのアクセスを増やすために、過度に誇張・歪曲した個人的意見を書き込んでいるものもある。とうぜんながらトラブルが多発しているのだが、結局、信じた本人の自己責任になってしまう。今後、きちんとしたエビデンスを、学会や主要団体が明らかにしていく必要がある。
 2012年にBessellら(4)が開発した『Face IT』は、コンピュータを利用した介入療法である。まだ試験的な試みだが、今後のAIの応用も期待でき、将来有望だろう(もちろん、スーパーバイズは必要)。心理学者が直接的に関わらなくても、遠隔でも介入療法ができることは、機動性においても、潜在的な当事者に光を当てていくうえでも、非常に大きな可能性を持っている。

関連する領域への情報拡散手段として
 先のChanging Facesの情報は、とうぜん当事者向けのものが多いが、その周辺の人向けのものも充実している。例えば、学校ベースの専門職への情報も多く掲載されている。多くの学校では、アピアランス〈外見〉問題を持つ子供は少数である。また、外見の不安を強く持っている生徒が少なからずいたとしても、その実態を把握することは並大抵ではない。教師や教育専門家は、この種の経験や専門技術に不慣れだが、こうして提供された情報は役に立つだろう。

ケアラーのチーム・パフォーマンス向上のためのツールとして
 インターネットを活用した方法は、他にも考えられる。例えば、CBTが思ったように進行しない場合、阻害要因や見落としている要因がないか、スーパーバイズが必要になる。そのような場合、スカイプ(Skype)でも十分目的をかなえることができる。グループで行うスーパーバイズも可能で、熱心な心理士との情報交換の可能性が広がり、臨床研究につながる可能性も秘めている。
 以上のごとく、情報社会とアピアランス〈外見〉問題は密接な関係がある。これまで増悪的な役割が注目されてきたものの、逆に、そのアクセスしやすさを利用して、問題解決のためのツールを数多く生んでいこうともしている。今後の正しい方向付けを可能にするのは、多くの職種からの、正しい理解にもとづいたフィードバックであることは間違いない。

文献
(1) British Medical Association: BMA Takes Part in Body Image Summit. 2000. (www.bma.org.uk)
(2) Halliwell, E., Dittmar, H.: Does size matter? The impact of model's body size on women's body-focused anxiety and advertising eff ectiveness. Journal of Social and Clinical Psychology 23: 104–22, 2004.
(3) クラーク・A、トンプソン・A、ジェンキンソン・E他(原田輝一・真覚健訳)『アピアランス〈外見〉問題介入への認知行動療法―段階的ケアの枠組みを用いた心理社会的介入マニュアル』福村出版 2018
(4) Bessell, A., Brough, V., Clarke, A., et al.: Evaluation of the eff ectiveness of Face IT: a computer-based psychosocial intervention for disfigurement-related distress. Psychology Health & Medicine 17 (5): 565-577, 2012.

原田輝一
医療・社会福祉法人生登会医師。急性期~回復期~社会適応期にわたる長期罹患患者において、一貫した心理社会的支援の重要性を認識してきた(特に重症熱傷領域において)。現在は医療福祉連携の全般で、最新の学際的知見と技術の導入を目指している。【主な著書】ジェームズ・パートリッジ著『もっと出会いを素晴らしく:チェンジング・フェイスによる外見問題の克服』(翻訳 春恒社 2013)、ニコラ・ラムゼイ著『アピアランス〈外見〉の心理学』(翻訳 2017)『アピアランス〈外見〉問題と包括的ケア構築の試み』(編著 2018)『アピアランス〈外見〉問題介入への認知行動療法』(翻訳 2018)いずれも福村出版。


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