笑顔の村(短編小説)
その村は笑顔の村である。
村長、村民、産まれたばかりの赤ちゃんから臨終間際の老人までが笑顔を絶やさない。
その村を訪れた者は、笑顔で歓迎され笑顔でもてなされ笑顔で見送られる。
その村の村人は笑顔を絶やさない。
ある年長雨が濁流を招き、田畑を押し流し住む家を飲み込だ。 人々は食べる物も無く休息する事も無くボロ切れの様になりながら村の再建に働いた。
それでも人々は笑った。
笑いでエンドルフィンの分泌を促し、悲壮を達成感に変換する為である。
ある年は流行り病が村を襲った。
人々は一生懸命に笑いあった。免疫細胞であるナチュラルキラー細胞を活性化させる為である。
地震が襲って沢山犠牲者が出た時は悲しみを笑いのセロトニン分泌で乗り切り、台風で家を守るのは笑いのドーパミンで力を持続した。
火山噴火から逃げる時は笑いの力で脳内の血流量を増加させて的確な判断を行い、大雪で孤立した時は笑いで自律神経を活性化して心身ともに休息モードでエネルギー浪費を抑制した。
だからいつも村人達は笑っている。
笑顔が途切れることはない。
ミステリアスな表情で笑っている。
左右対称の表情で笑っているのである。