映画『すばらしき世界』と原作『行路病死人』と、そのラストと。 ~映画イラスト~
田村明義と『行路病死人』
『すばらしき世界』四コマ映画→ http://4koma-eiga.jp/fourcell2/entry_detail.htm?id=2688
原作は佐木隆三の『身分帳』。実在の人物である田村明義と佐木隆三がかなり親密であたたかい関係を築きながら、彼の人生を取材し小説としてまとめたもの。
田村氏はこの小説が出版されるのを楽しみにしていたし、筆の進みの遅い佐木隆三に対して編集者を介してせかしたりもするほど。
ドラマ化の話が出てきた時には(結局頓挫したが)、「自分の役は高倉健にやってもらいたい」と言ったという。本人のキャラクターや佐木隆三との関係がわかるエピソードだと思いました。
田村氏は『身分帳』刊行後に死亡。その死について詳細に書かれたのが『行路病死人』。『身分帳』の文庫版に収録されている短編です。
『行路病死人』を読みまして、映画『すばらしき世界』のラストと合わせて、感想を書きたいと思いますが、それはネタバレなので、下の方に書きます。
圧倒的な役所広司力(やくしょこうじりょく)!
役所広司と言えば、どうせまた佐藤浩市と一緒に日本アカデミー賞の壇上に立つんだろうな的な、ちょっと食傷気味な印象がありましたけど、
すみませんでした。。本当に。。ソン・ガンホかそれ以上の存在感、怪演じゃないですか。。。
役所広司はこの映画で出ずっぱり。ずっと出てるし、描かれるエピソードも多い。感情のヒダも多いし、それを激しく表現してくる。
なのに、結局ずっと「得体の知れない怪物感」が滲み出てました。。
チャーミングさもあるまっすぐな男かと思わせつつも、「やっぱりこの人、やばいんだ…」と思わせる雰囲気。
脚本がそうなっているから、というのもありますけど、それ以上にこの人物の奥深さ。社会のフィルターを介してではこの人物の全容は探れないということを演技、というか存在で知らしめている。
それは人物描写だけではなく、この社会のフィルターの浅さ、薄さ、危うさまでも伝えられていることになるので、、もう、もう、、もう、別次元の何かですよ。。
いやあ、もうほんと役所広司凄すぎて。。。
役所広司に引き上げられた俳優陣
西川監督曰く「役所さんと共演できるということで、全ての俳優が今まで見たことないレベルの演技を見せてくれた」とのこと。
この映画の中で一番弱いのは役所広司演じる山川一。他の人物は役所広司より上に立たなきゃいけない。
怪物、役所広司を前にして「自分の方が優位である」という空気を出さなきゃいけない。。相当な気合がなきゃ達成できないこと。
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飛ぶ鳥落としの仲野太賀、不気味な悪役である長澤まさみ。 六角精児、北村有起哉、キムラ緑子、梶芽衣子、橋爪功。 安田成美までこんなに素晴らしい俳優だったんだと思い知らされる演技。
旭川刑務所の刑務官や自動車教習所の教官、介護施設の職員など、全員がものすごい。
そしてこの濃厚さを結局は役所広司の得体の知れなさが包み込むので、全体としてはうるさくない。妙な温かさがあるのが不思議。。
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『すばらしき世界』四コマ映画→ http://4koma-eiga.jp/fourcell2/entry_detail.htm?id=2688
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ラストネタバレは以下に
役所広司演じる山川一は高血圧が原因で1人、自室で死亡します。
この死がどういうことなのか分からなくて、明確な答えがないまま提示する西川監督作なのはわかっているんですが、何か答えが欲しくて、その事実が書かれている『行路病死人』を読みました。
何が知りたかったかというとあれが「自殺」なのかどうか。
自殺とまでは言わなくてもある程度自分で望んだ死だったのかどうか。
高血圧の薬は持っていたはずなんです。
福岡に行った時は持ってなかったけど、東京に戻って介護施設で働き始めたくらいなんだから病院から薬もらってるはず。
「あ、やばい、発作だ」と思った段階で薬を飲む、という流れはできていたはず。
しかし映画では、障害を持った介護職員からもらった花を握りしめたまま死亡。
確かその日、山川は彼を見捨てた。今までならなりふり構わず彼を助けたはずだけど、社会に溶け込むために「卑怯な人間」に成り下がった。
そうすることで自分は職を失わずに済む。そのために「卑怯な人間」になった。
そうなった途端、元妻から電話。今度娘と3人で会いましょう、と。こんな幸せなことはない。幸せだな〜という表情の山川。
しかしこのシーンは背景がボケている。ボケて夜景がキラキラしている。キラキラしてて幸せそうに見えるけど、それはボケているから。よく見ようとしてないからキラキラして見えるだけ。今まで気にかけていた瑣末なことを無視して、目をぼかしていれば少なくとも自分だけは幸せになれる。
ここからは僕の予想。
今日は最高の日。仕事もあり、支えてくれる仲間もいて、元妻ともあたたかい関係が築けそう。幸せの絶頂。
そこに発作。苦しい。苦しいのは誰。俺だけか。彼は?彼を苦しめたのは誰だ。
血圧を下げる薬はある。
カバンか引き出しに入っている。
俺は生きていて良いのか、そもそも俺は生きたいのか。
今日はすばらしい日だった。そして最悪な日だった。
決断する必要はない。ただ彼からもらった花を握りしめているだけでいい。
死亡。
卑怯者にならないと生きていけないようなこんな世界ではない、『すばらしき世界』へ。
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本編でも予告編でも言ってるんですね「お前らみたいな卑怯者になるくらいなら死んで結構たい」。
『すばらしき世界』というタイトルが出るのもラスト。
山川が死んだ後、上にパンして、空をバックに『すばらしき世界』。
死んだ後、空バックに『すばらしき世界』ですよ。
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ちなみに事実の顛末を書いた『行路病死人』では自殺的なニュアンスは一切ないです。
ただ、あくまでも僕が読んだ感じ、ですが、なんとなく彼を死を知った周囲の人々は「これで彼ももう苦しまずに済むのでは」的な空気を発しているように感じました。
あくまでも僕の感じたところによると、ですけどね。
そんなこと誰も明確には言っていませんし、誰も全然思ってないのかも知れませんが。
『すばらしき世界』四コマ映画→ http://4koma-eiga.jp/fourcell2/entry_detail.htm?id=2688