図書館のお仕事紹介(3)除籍
図書館が毎年大量の本を捨てている、というのは人によってはショッキングな事実かもしれません。
今回はこの「除籍」という避けて通れない業務についてご紹介します。
1、除籍とは
まず除籍の作業は2種類に分かれます。
・資料現物(本とか)を物理的に図書館に無い状態にする
・帳簿上、または機械データ上で、無いものを「無い」とわかる状態にする
物理的に無い状態にするというのは要するに捨てるとか売るとか配るとか、後で詳しく書きますがそういうことですね。
そして現実に「無い」本がデータ上「有る」ことになっているのはいろいろな点で問題なので、現実をデータに反映させる作業は地味に重要です。
2、どういう理由で除籍されるのか
①不在
要するに「なくなっちゃった本」ですね。なくなっちゃった理由はさまざまで、盗まれたのか紛失したのか、館内にあるけど行方不明なのか、もちろん不在だからといってすぐ除籍されるわけではなく、手を尽くして一生懸命探しますが、どうしても見つからないという時点であきらめて除籍になるわけです(図書館によってあきらめる基準はいろいろです)。
②破損・汚損
やはり本は使っているうちに壊れたり、カビや害虫にやられたり、水に落としてページがくっついたりで使用に耐えなくなることがあります。
貴重な資料であれば修復して所蔵を維持しますが、そこまでするほどではないと判断されると除籍になります。
③重複
同じ本を複数持っている場合、書架スペースが逼迫してきた時点で1冊を残して除籍になることが多いです。
とくにベストセラーなどは一時的に利用が集中するので複本を買いますが、ブームが過ぎると需要がなくなるので捨てることになりがちです。
以前、いわゆる「無料貸本屋」問題で「図書館がベストセラーを大量に買って出版社の利益を侵害している」と批判された時期がありました。報道番組で大量のベストセラー本が廃棄されている映像が流れたのでなんだか図書館が悪者みたいなイメージになっていましたが、実際にはボロボロになるまで利用された本は役割を充分に果たしており決して無駄になったわけではないですし、複本を大量に買えるような図書館はそもそも資料購入費の規模が大きく、専門書もそれなりにちゃんと買っているので批判にはあたらないと個人的には思います。
④情報として価値がなくなったもの
たとえば旅行ガイドとかグルメ本とかパソコンのマニュアルとか、古くなると情報として意味をなさないたぐいの本があります。
ただこれもなかなか判断が難しいところでして、「かつてこういうものがあった」ということを情報として残しておく必要もあります。実際、江戸時代のベストセラーグルメ本などは貴重な史料として研究対象になっています。
「史料」として保存するか「消耗品」として廃棄するかは各図書館の方針によって判断することになります。
④相互貸借で対応できるもの
図書館には「分担収集」という考え方があります。
これは「図書館はそれぞれ守備範囲内の資料を所蔵することにして、それ以外は他館からの取り寄せで対応しよう」という発想です。
除籍の時も「これはうちで持っていなくても、もし必要なら取り寄せればいいな」という場合があります。
ただしみんなが一斉に同じ本を捨ててしまっては大変なので、他館の所蔵状況をにらみながら判断することになります。
⑤電子化
とくに新聞や雑誌・年鑑類などに多いですが、電子版を購入して紙媒体を廃棄する、という選択をすることがあります。
ただこれも難しいところです。電子版と紙では情報量も微妙に違いますし、電子版を使い慣れない高齢者から苦情が来ることもあります。紙と電子で両方持っていればいいのですが、そもそも置く場所がないから電子化したいので、それも難しいです。
3、除籍された本はどうなるのか
①あげる
よく図書館で除籍図書を配布していることがあります。けっこう喜んでもらってくれる印象です。図書館としても廃棄するよりラクなので、そのほうがありがたいです。ただ1回も貸出履歴のなかった本が、配布となるとすぐもらわれるのは複雑な気持ちです。
②捨てる
もらい手がつかないものや配布に適さないものは廃棄になります。普通にゴミとして出す場合、溶解処理をする場合、産業廃棄物として業者に引きとってもらう場合などがあります。いずれにしてもそのままポンと捨てるわけにはいかず、除籍済みであることがわかるように加工が必要です。また紙以外の付属品が付いていると業者が難色を示して廃棄コストが高くなることもあるので厄介です。
③売る
これは「そういうこともあるらしい」と聞いたことがあるだけで、実際に売る現場に居合わせた経験はありません。
私の勤め先でも除籍本を売ることを検討したことはありますが、クリアしなければいけない問題がいろいろあって断念した経緯があるそうです。(たしかに税金の問題とか、収入をどこに計上するのかとか、考えると面倒くさそうですね…)
洋書の古書を見ていると、たまに外国の図書館の除籍印がついているものを見かけるので、「これは売ったんだな」と思うことはあります。
4、除籍という浮かばれない業務
ただでさえ「本を捨てる」というのはなんとなく罪悪感のある行為です。
利用者のなかには図書館の本は永久保存されていると思っている人もいて、除籍すると「裏切られた」と思われることもあります。
捨てるべきではない本を間違って捨ててしまっては取り返しがつかないので、除籍すべき本を選ぶのはかなりのプレッシャーです。
そうまでして除籍しても、利用者から苦情が来ることはあっても感謝されることはないですし、メディアでもてはやされることもありません(除籍がニュースになるのは問題視されるときだけではないでしょうか)。
それでも図書館のスペースが有限で、毎年本が増え続ける以上、除籍は必要です。
除籍を非難する人に対しては「ではあなたは髪も爪も切らず、落ちたフケも拾って永久保管するのか」と言えます。
ランガナタンの 「図書館学の5法則」 で「図書館は成長する有機体である」という言葉があります。これは「だから常に成長しなければいけない」という文脈で語られることが多いですが、成長するからには新陳代謝もあるわけで、古い細胞が新しい細胞と入れ替わる、ということも含むのではないでしょうか。
もし将来、図書館がブラックホールみたいな異次元空間でスペースが無限だったり、すべての蔵書が電子化されてサーバーの容量なども気にしなくていい、という世界になれば除籍という業務もなくなるのかもしれません。
ただその時になっても、除籍しないのが本当にベストなのか、という疑問は残ります。
膨大な情報があふれるネット空間でも、クリックされるのは検索結果上位数件だけだったりします。
自分の経験から言っても、選択肢が多すぎるとかえって利用者は選ばなくなります。
除籍というかたちで「選択肢を減らす」というサービスもありなんじゃないかな、と最近は思っています。