地獄の乳腺炎から切り抜けられた話
とにかく毎日、来る日も来る日も胸が痛くて仕方なかった。
例えるなら針でブスブスと刺されるような、それでいて熱い溶岩を胸に抱えているような痛みだ。
立っていても座っていても寝ていても重力がかかるだけで痛い、痛すぎて眠れない、痛すぎて歩けない。
こんな痛みが産後に待ち受けているなんて、誰も教えてくれなかった。
いや、ちょっとは知っていた。
一応知識としてはあった。
でもここまで痛いなんて、こんなに毎日繰り返すなんて思わなかった。
『乳腺炎』ーーそれは主に授乳中に発症すると言われている、乳腺の炎症。
母乳が乳管に溜まることで起きる『うっ滞性』と、細菌が入り込んだことで起きる『化膿性』のふたつに分かれているらしい。
特に化膿性は、皮膚に起きる数ある感染症のなかで最も症状が強いと言われている。
私は生後1ヶ月を迎えたあたりからほとんど毎日、乳腺炎による高熱としこりと痛みに悩まされていた。
病院の先生いわく、今まで何百人と診てきたけれど、ここまで繰り返す人は初めてだという。
もうこれは体質と割り切るしかないらしい。
なにそれ前世のカルマ?
月に数度ならまだ耐えられる。
でも毎日だ。
Googleで夜な夜な「胸の重力 なくしかた」を検索するくらい、私の頭はどうかしていた。
――そうやって四六時中自分の胸のことばかり考えていたせいで(語弊があるけど)子どもが笑うようになっていたことにすら気づかなかった。
胸が痛すぎて抱っこする時間も減っていた。
授乳の時間が苦痛になっていた。
週に3度は助産院に通い、マッサージでしこりを排出してもらうので出費がすごかった。
ひどいときは乳腺外科で注射針を胸に刺して溜まった母乳を抜いてもらった。
よくわからない乳腺炎に効くといわれているサプリは何でも試した。
夫もそんな私を気遣い続けて疲れているようだった。
そしてなにより、息子も超絶イライラしていた。
赤ちゃんって、イライラするんだ……。
一般的に『母乳育児が波に乗り始める』と言われている3ヶ月を超えても、私は全然波に乗れなかった。
3か月も経つと自分でマッサージしてある程度は詰まりを排出することができるようにはなったけど(本当に胸から石ころみたいな母乳の塊がポン!と出て、噴水のように母乳があふれ出すので、それはそれで楽しかったけど)とはいえ限界がある。
ある日、ふと思った。
いや、普通に考えてミルクのほうが全然いいやん(今更)
子どもにとって必要な初乳成分はもう充分与えていると言われている時期だし、これ以上母乳にこだわって今の状態が続くことは誰も幸せじゃないよね、と。
というわけで、生後5ヶ月の半ばから薬の力を借りて、徐々にミルクへの切り替えを始めた。
まぁ~~~~~この薬がすごい。
助産院で勧められた、韓国で断乳の際に主に使われているという母乳量を減らす漢方なのだけど、あれだけひどかった胸の痛みが落ち着き、自然とミルクに切り替えることができた。
(それでも途中で何度かは乳腺炎になったけど)
事情を知らない人からは『まだ母乳やめるには早いよ!』『お母さん頑張ろう!』と非難されることも多々あったけれど、不思議なくらい何も気にならなかった。
あんまり大きな声で言えないけど、とんでもない助産師さんって稀にいるからね!?
「母乳のために肉はだめだ、牛乳は飲むな、パンもお菓子も食べるな、卵も餅もだめ、母親が食べていいのは白がゆと蒸し野菜だけだ!」みたいな。
実際私もそういう食生活を試したけど、本当に何も変わらなかった。
まじで変わらなかった。なー---んの効果もなかった。
私はやっぱり肉とチョコが好き!と改めて自分の食の好みを実感しただけ。
ミルク育児に切り替えてからは、母乳をあげられない代わりに、夜はたくさん抱っこして「大好きだよー」と話すようにした。
すると、にやっと笑いながら寝落ちしていく子どものなんともニヒルな表情を堪能することができる。
その幸せは、母乳トラブルから解放されたからこそあるものだ。
もし母乳をやめることに罪悪感を抱いている人がいるなら、声を大にして言いたい。
母乳だろうとミルクだろうと、子どもへの愛情はなにひとつ変わらない。
変わるわけがない。
育児に正解なんてない。
あるとすれば、家族みんなが笑顔でいられること!
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