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法人の農業参入と農地取得の動き

農業経営(担い手と手続き)の新展開

国内企業の多くが農業に新規参入を試みている(農林水産省経営局農地政策課「農地所有適格法人の参入事例」など資料参照)。本稿では簡単に外資を含む代表的な参入事例と事業運営の現状を整理している。
流通業者ならびに消費者を巻き込んで、地域ニーズに沿う新たな循環農業を市民主導で模索してみたい。この動きが地域農業の高付加価値経営と市民の意向を反映した望ましい農業経営の姿(主権者である市民が参入者選択や経営に関与する手続きの導入)に繋がることを期待したい。

セブン&アイグループの農業法人㈱セブンファーム

先行事例の一つにセブン&アイグループの農業法人㈱セブンファームが平成22 年 7 月に農業生産法人㈱セブンファーム深谷を立ち上げて参入した埼玉県の事例がある。これは平成 18 年に食品リサイクル法の改正があり、食品循環資源リサイクル目標の達成に向けて、イトーヨーカドーグループとして循環型農業を実施することを決定した経緯を経ての動きである。

生産者とお客様をダイレクトに結ぶセブンファーム

農業法人セブンファームでは、イトーヨーカドーの各店舗から出る野菜くずなどの食品残さを堆肥に変え、その良質な堆肥を使って野菜を栽培し、おいしくて安全・安心な野菜を新鮮なまま店舗で販売する「リサイクルループ」の仕組みを構築している。現在では全国13カ所に農場を設置し、栽培面積は総計200ヘクタールに達している。2018年度のリサイクル率は53.2%まで向上し、2019年度の新たなガイドラインである55%に向けてさらなる向上を図っている。

パソナグループの農業法人㈱Awaji Nature Farm

淡路島でパソナグループ(農業法人㈱Awaji Nature Farm)が持続可能な農業を展開しようとしている。パソナグループの農業参入としては当初は派遣農業従事者を指向していたと見られるが、Awaji Nature Farmは社内ベンチャーとして循環型の6次産業化を模索している。

選果で出た葉や根・皮、調理で出た生ごみを微生物の力で発酵堆肥に

グループ内でのビジネスモデルの確立と地域農家との連携を目指し始めている。

農業への外資参入規制と参入実態

農地法による外資規制の形骸化

農地法において、農地取得に日本人と外国人、国内資本と外国資本の区別はない。「農地所有適格法人」の要件を満たせば農地取得が可能である。ただし、法人が農地を所有するための要件の一つに「農業関係者が総議決権の過半を占めること」があり、これが唯一の外資規制として機能している。形式的には、外国資本の出資比率が50%を下回らないと、農地の取得はできないと言われる。
農地を所有できる法人の要件について見直しが行なわれ、要件を満たす法人の呼称を「農業生産法人」から「農地所有適格法人」に変更する法改正が平成28年4月1日から施行された。具体的には、主たる事業が農業(農産物の加工・販売等の関連事業を含む)の法人( 株式会社[公開会社でないもの]、農事組合法人、合名・合資・合同会社のいずれか)が農地所有適格法人として農業に参入できる
農林水産省が外国法人等による農地取得の事例について市町村の農業委員会を通じて調査を行った結果によると、平成29年から令和3年までに累計6社、67.6haの事業実態があった。

外国法人等による農地取得に関する調査の結果(農林水産省)

「農地所有適格法人」の要件として外国資本の出資比率が50%未満という規定はあるが、地元の農業従事者を法人役員に迎えたりする形で意思決定を支配して外資企業が事業を運営する実態になっている。

外資系農地所有適格法人の経営現状

農地所有適格法人に出資する外資企業はできれば経営権を得たい意向があり出資上限の49%を所有する場合が多く、表面上は現れていない外国企業の事業参画も多数に上るように見受けられる。
北海道では、農地所有適格法人数は平成に入ってから順調に増加してきており、令和5年には4,045法人となっている。北海道の外資参入事例としては、フランスブルゴーニュ地方を代表する老舗ワイナリー「ドメーヌ・ド・モンティーユ」が立ち上げた農地所有適格法人「株式会社ベルヴュ」が函館市桔梗地区でぶどう栽培・ワイン醸造・販売を含む事業を展開している。ブルゴーニュでのワイン事業の考え方を北海道に適応させていく形で事業運営が行われている。
外国法人が農地所有適格法人としてキウイ生産を行う愛媛県西条市では、中国(香港)法人から49%の出資を受ける農業法人「イーキウイ」が農地の取得を継続的に拡大している

数ヘクタールの予定地に防風ネットが張られて大きく変わった地域の景観

当初は地域行政を巻き込んで農業法人の立ち上げやイーキウイの地域進出に協力してきた東予園芸農協であったが、その後に地域農家や農協事業と軋轢を生んでいる実態も明らかになっている。地域のキウイ生産が困窮したところに救世主として現れた外資の農業法人の事業は地域の期待とは少し違った方向で運営されている。

安全保障+企業経営の論理と食の安全・健康

利益追求を優先する企業が農に参入したことで米国食品企業が日本市場に参入して食の安全と健康を脅かしている歴史が戦後続いてきた。米国で1951年10月に成立した相互安全保障法(MSA:Mutual Security Act)に基づき、米国が官民協働して日本の行政・産業に介入する形で私たちの食生活が操られてきている事実が「怒りの大地」で明らかにされていた。

先の食料・農業・農村基本法の改正(5/29)とこれに基づく食料・農業・農村基本計画を策定(本年度中)はMSAの延長線上の施策である。法人の農業参入という形で日本の農業がさらに改悪・破壊してしまわないように、市民による監視と民主プロセスを通じた市民参画・企業連携が大切と考える。
少なくとも生活者一人一人が毎日食べるものを自分で見極めないと私たちの健康は保てないことを知る必要がある。

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JinseiDohraku
人生は宝石箱をいっぱいに満たす時間で、平穏な日常は手を伸ばせばすぐに届く近くに、自分のすぐ隣にあると思っていた……