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食とは「命をいただく」こと

はじめに

「あなたの大切ないのちを、私のいのちに代えさせて戴きます」
このように手を合わせて毎日食事をしますが、腸という消化器官を介して私たちは「いただいた命」と相互作用をして命を長らえています。
現代の医学や医療技術は急速に進歩したにもかかわらす、一方で病や病者は増え続けているのはどうしてなのでしょうか?
健康に生きるために私たち自らが実践できるセラピー(もしくはレシピ)を編み出すために、「腸と食物の関係」、「腸と心の関係」に焦点を当ててリアルに接近してみます。

腸と食物の関係

医食同源、腸脳相関という言葉をキーワードに情報検索すると、食物が栄養として体に役立つしくみから、食物が病気を防ぐさまざまな機序まで、まさに消化し切れないほどの情報を目にすることができます。
臨床医が腸内細菌について解説する動画を一つのヒントにご覧になってみてください。

ところが実際の医療現場で、食事療法が体系的に応用される段階に至っていないことも事実です。
例えば、癌の食事療法としてゲルソン療法が試されてきました。がん治療で標準治療とゲルソン療法の比較試験が行われた結果は、食事療法を行った患者集団のほうが生存期間を大きく縮めたのみならず、患者のQOLを著しく悪化させることも示されています。ゲルソン療法が欧米のがん治療で実績を残しているとは言えないのです。
腸内細菌を便移植で改善する方法(例えば、潰瘍性大腸炎に対する腸内細菌叢移植)は臨床試験中ですが、潰瘍性大腸炎に対する腸内細菌叢移植の治療効果については未だ不透明であり、投与方法、ドナー便の選択、投与回数などの方法について議論が行われている段階です。
このように癌や潰瘍性大腸炎など難病と診断された後に、食事や腸内細菌叢移植で回復を図る治療の確立は未だ途上にあることが分かります。
一方で(未病段階の)健康維持・増進のために、日々の食事を選別する方法により腸内細菌叢の良好を保つセルフケアは有意義と考えます。免疫力(自然治癒力)を高めるために食べ物や飲み物をどのように選べばよいのかなど、現場のリアルをお届けしたいと考えています(近日開催の「セフル健康プログラム」で実践を考えて頂けます)。

腸と心の関係

私たちの脳が心を支配しているというのは限られた視野であり、直感的には内臓(ガッツ)が心を支配しているように感じます。
前段では、腸が(その中の腸内細菌の助けを借りて)食物を化学的、遺伝子学的に再構成し、私たちの肉体を形作っていることに着目しました。最初の動画の中で、トキソプラズマなど微生物が腸内に棲み付くことで生物(宿主)の行動が変わることに触れていますが、その機序は未解明です。

自律神経やホルモンを介して腸と脳は繋がっている

脳内の神経伝達物質であるセロトニンは、脳だけでなく腸内でも生成されています。腸内セロトニンは腸内細菌によって合成され、主に腸の蠕動運動に関与しています。一方、脳内セロトニンは脳で合成され、血液脳関門を通過して脳に運ばれます。腸内セロトニンが脳に直接影響を与えるわけではありませんが、腸と脳は自律神経を介して密接につながっており、情報のやり取りをしています。例えば、ストレスや疲れで自律神経が乱れ、腸の働きが低下して便秘や下痢になります。すると腸の神経が、セロトニンを分泌してきちんと動くように刺激し、副交感神経の働きが亢進します。
一方でこれまでの腸内細菌研究の中で、自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder:ASD)の症状発生に腸内細菌叢が関与していることが多くの細菌叢移植治験などで示されています。最近になってプロバイオティクスによるロイテリ菌の投与がASDの社会性を回復させる研究成果も現れています。

認知症は脳の病ではない

腸内細菌叢が関与する脳腸相関を介して認知機能障害や認知症(特にアルツハイマー病)を生んでいることを示唆するコホート研究報告があります。2000年から2016年にかけて50~79歳の男性約19,000名、女性約23,000名を追跡して調査し、排便習慣と介護保険認定情報から把握した認知症との関連を調べたところ次の事実が確認されています。
・男女ともに、便の頻度が少ないグループほど、認知症リスクが高い
・男女ともに、便が硬いグループほど、認知症リスクが高い
腸内細菌叢の変化が、酸化ストレス(酸化反応による細胞の障害)や全身性の炎症をひきおこし、認知症を含む神経変性疾患の病態にかかわると推測されているようです。腸管通過時間の遅延は、腸内細菌の代謝産物である短鎖脂肪酸の減少を引き起こすことが報告されており、短鎖脂肪酸の減少は、酸化ストレスを引き起こし、認知症リスクを高める機序が考察されています。
認知症が便を介して他の個体に伝染する研究結果も紹介されています。

進化を通じて地球と健康が繋がっている

腸は人の生体内最大の免疫組織であり、リンパ球の60%、活性化T細胞の80%が腸に存在し、また、ほぼすべての種類の免疫細胞が腸に存在するなど、腸管が生体全体の免疫を制御しています。人の腸という臓器ならびにその中の腸内細菌叢は、進化の過程で生きるために備わったものであり、腸を介した地球環境との相互作用のシステムとして実在しています。
人類を含む地球全体が1つの有機的な全体システムであり、それと進化の過程で密接に相互作用して私たちの腸は結実したものですので、地球全体の健康を目指すプラネタリーヘルス(Planetary Health)というヘルスケアと私たちの健康(ヘルスケア)は直に繋がっています。





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JinseiDohraku
人生は宝石箱をいっぱいに満たす時間で、平穏な日常は手を伸ばせばすぐに届く近くに、自分のすぐ隣にあると思っていた……