『ヤクザときどきピアノ』
ヤクザ専門のフリーライターが、52歳にして未経験のピアノを習い始めた話だ。著者によるノンフィクション。
著者は、何年にも及ぶ長い仕事を終えたライターズハイの中で、映画を観てたら、なんてことない音楽シーンで超感動してしまい、ピアノを習い始めることを決心する。目標はアバの「ダンシングクイーン」を弾けるようになること。
ググったら家の近所に100人ものピアノの先生がいて、片っ端から電話する。未経験の52歳♂で、ダンシングクイーンを弾けるようになりたいのだと。
トラブル防止もあって、中年男は断られやすい。電話した結果、4人残った先生のところに順に行ってみることにして、最初に会ったのが師匠となるレイコ先生だった。
このレイコ先生のキャラはそこそこ作られてる。「だわ」口調のため口など。アマゾンレビューでは、この先生の口調が、オッサンが作ったざーとらしい女性像だという意見もあったけど、俺的にはこの先生のキャラが良かった。
プロっていうのは、その世界を知らない者には見当もつかないことを言うんだよね。修練の積み重ねは、凡人を偉人にする。
ピアノは優雅なものではなくスポコンの世界であるとか、先生は昔コンクールの前には、グランドピアノが置いてある部屋に住み込み、ピアノの上で寝ていた(下で寝ると地震がきたときに圧死する)とか、そういう根性話がいい。
大人のレッスンは修業ではなく余暇のひとつであり、先生は師匠というより遊びをレクチャーしてくれるガイド役と表現するのが適切だ。
という意見など、本当にその通りだと思う。どうでもいい話だけど、「余暇のひとつ」じゃなくて「余暇の過ごし方のひとつ」か「趣味のひとつ」だな。
知人に、ピアノを始めた、先生に習い始めたというと、その先生はどこの音大か、誰に師事した人か、などの食いつきを見せる女性たちがいたという話はリアルで面白かった。業界通はそうなるよな。
著者のピアノ話は俺のダンス生活に重なった。
俺の先生はいっぱいいるけど、連想したのは美人先生だった。若くて、美人で、ダンスもバネが天才的な感じの先生だった。一時は毎週遠方まで通ってたりしたけど、やってることはすごく簡単なので、もっと難しいことをやりたくなり、美人先生のレッスンには行かなくなり、もっと高度なレッスンに行くようになった時期もあった。
あるとき、その美人先生が妊娠して、師弟関係はいきなり終了した。既婚だったか未婚だったかもよく知らない(たぶん未婚)けど、そういう情報に首を突っ込む気はなかった。
もっとダンスを教われば良かったと今になってみると思う。質問すれば何でも答えてくれたのに、あまりに美人過ぎて、やりにくかったんだよな。美人は素晴らしいことだけど、美人過ぎるとやりにくいわ(;^ω^)
今も数ヵ月に1回は会うし、美人先生のレッスンもあるといえばあるんだけど、幼児がいる環境だから、昼間の時間だけで数も少ない。
美人先生に限らず、若いプロに何かを習うって素晴らしいことだ。いつも、麻雀の本を書くときにこんな姿勢を持とうって思う。
まあ俺は話はいいよな。ヤクザライターの著者はピアノを習い始め、いったんのゴールは、発表会でダンシングクイーンを弾くことに設定する。
今はいろんなレベルの楽譜がDL販売されており、最初のやつは簡単だったけど、高度なやつにしたら今度は超絶の難易度になり、それをレイコ先生に少し手直ししてもらった。
発表会に向けて、著者は鬼に変身したかのように練習しまくった。
発表会の一週間前は、毎日スタジオに籠もって弾きまくった。人生でここまでなにかに集中したことはなかった。
ほど。
大人が発表会に出て、しどろもどろにならない人はいないらしいね。全員なる。そのためにはとにかく練習なのだが、どんなに練習しても本番はやらかすのだそうだ。
正直、本番になればそれほど緊張しないのではないかと高を括っていた。しかし、いちど躓いた時、手がはっきりと震え出した。自分の身体が制御できなかった。
結果、俺は数小節を見事にぶっ飛ばして演奏を終えた。一分弾いても、十分の演奏でも、一万円の参加費というのに……。
校正さんが素敵な花束を渡してくれたが、なにも聞こえていなかった。言いたいことはひとつ、
「いつも練習の時は弾けるんです!」
ただそれだけである。
わろたw
本の最後に読者特典としてQRコードがついていて、著者の演奏による「ダンシングクイーン」の動画をお楽しみくださいと。
おお! これは(・∀・)イイ!!
・・・と思ったら、配信期間が過ぎてやがる(;^ω^)
なんだよ、それ、ふざけんな!と思いつつググったら、その後、ユーチューブにアップされてた。
メロメロやないか(≧▽≦)
こんくらい俺でも弾けそうだぞと思ってしまうけど、それが大人の習い事だよな(==)ウム
ダンスにつながる教訓を感じるわ。人前では高度なことをやろうとしちゃいけない。むっちゃ簡単で楽勝なことを楽勝にやるのが一番だ。
そこそこ年を取れば取るほど、10年に1回くらい新しい何かを始めるといいよな。この本には80歳からピアノを始めた人の話が出てくる。
音楽系、芸術系、スポーツ系、外国語系、理系、IT系、生活系(料理とか)など、苦手な分野ほど新たに始める効果は大きいんだと思う。
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しょぼくれ中年ダイアリー
本業は麻雀ライターの、麻雀以外の日々のエッセイです。出版、本、漫画についての話が少し多めです。
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