【雀ゴロ】早熟の天才が鉄火場を離れた理由 その1
太古の昔に『平成の裏仕事師列伝』というムックに書いた原稿です。
まず、麻雀の裏プロに話を聞いて1万字くらいで書いてくれと依頼がきました。
とはいえ、業界で一番有名な人は、個人的に好きじゃないし、関係もさしてない。
他に、裏プロと言える人で話を聞ける人(X氏)はいるんだけど、その世界が長い人なので、感覚が一般人からは遊離してて、話を聞いてもリアリティある細部をうまく聞き出すのが難しい。
そんな返事をしました。
すると、テーマ的に人モノだと思ってるので、実績がすごくなくても構わない、それよりもディテールが面白い人がいい、若い人で誰かいないか?と。
というわけで、いろいろ迷った結果、思いついたのが、ここに取り上げた水上さん(仮名)でした。
消息を聞かなくなったのは高レート麻雀が原因か?
麻雀の裏プロと聞いて、どんなイメージがわくだろう?
ヤクザの仕切る場、代打ちと呼ばれる強面(こわもて)の男、手積みの麻雀卓、手品師のようなイカサマ技のオンパレード……といったところか。
しかし、それら麻雀マンガやビデオで描かれるシチュエーションの大半が手積みの麻雀であることが証明するように、これは前時代な状況だ。そもそも、ヤクザが何らかの利権をかけて麻雀で勝負するなどという不合理が、現代に行われているとは考えにくい。
時間がやたらとかかり、勝ち負けがはっきりせず、イカサマなどのトラブルも多い。せいぜい賭場を開帳したときに、その一種目として麻雀があるくらいだろう。
だから今回、編集部からテーマを裏プロと指定され、かなり困ってしまった。裏プロという言葉は昭和を引きずっているが、昭和が終わってからすでに10年以上たっているのだ。
私は麻雀専門の原稿書きをしている。だが、その内容はクイズを作ったり、マンガの麻雀シーンを考えるなど「健康的」なものばかりだ。裏プロなど、まるでお知り合いではない。
いや、1人だけ知っている打ち手がいた。X氏だ。彼は表のプロでありながら、高レート麻雀の打ち手としても、業界内では知られた存在だ。裏プロと呼んで間違いはないだろう。しかし、そのX氏も昭和を引きずる50代。いまなお生き残る昭和的な麻雀打ちではなく、現代的な裏プロはいないものか。
そこで、私は知り合いの多い、表の麻雀プロのなかで取材対象を探してみることにした。ちなみに表のプロとは、プロを標榜する団体に所属している人間をひっくるめた言葉だ。わかりやすく言うと、裏プロは賭け麻雀が本職なら、表プロは競技麻雀を本領(職ではない)とする。行儀はいいが、勝ち負けの切迫感は裏プロとまるで異なる。
私はAという20代後半の若手に目をつけた。高レート雀士とのキャッチフレーズをつけられている男だ。が、周囲の話を聞いてみると、有名人と高レートで打つ程度らしい。こちらの望む話は聞けそうにない。
次に当たりをつけたBという30代前半のタイトルホルダーもはずれだった。高レートなど経験ないし打ちたくもないと言う。が、Bと交わした話に光明が見出せた。記憶から消えかけていた「彼」の消息を聞いたのだ。
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