父からの電話
ぐっすり眠っていたところを、電話によって起こされた。
午前中だったか夜の早い時間だったか、世間的には寝てる時間じゃなかったけど、熟睡してたんだよね。
深い沼から引き上げられるように目が覚めて、スマホに表示されてる発信者を見た。父だった。
父は91歳。けっこうな高齢者だ。
連絡は久しぶりで、これは無視できねーと電話に出た。連絡を取るのが一苦労で、こっちから簡単に連絡する手段がないからね。
父の部屋の電話は故障してて、電話機じゃなくて回線の問題だと思う。NTTの人に連絡して修理してもらおうとしても、モジュラー(って言うの?)差し込み口の前に巨大な棚があって、その棚をどかさなきゃいけない。部屋中の平野にモノが置かれてるから、それが大変な作業になる。つまり固定電話機は使えない。
ガラケーも持ってるけど、いつも電源を切ってる。
そもそも、ほとんど耳が聞こえないから、むこうがしゃべるのは聞けるけど、こっちが言うことはほとんど聞き取ってもらえない。電話で話すのは難しい。
頭は大丈夫なので、メールなどで連絡したいけど、メールは返信し方がよくわからないから使いたがらない。というか、もうパソコンは死んでるんじゃないかね。電子的な手段は駄目。ラインなど存在も知らないと思う。
ファックスを送れたらいいけど、固定電話機が使えないからそれも駄目。
高級老人ホームに住んでて、フロントがある。フロントあてにメールして、それをプリントアウトして渡してもらえると助かるけど、それは嫌がるんだよな。プライバシーに属することは見せたくないと。
業者というのは人間じゃなく機能なので、対人的な意識を持たずに使うべきだと思うんだけど、世代なのか個人なのかそういう考え方は無理。フロントと入居者の関係なんて動物園のゴリラと飼育係みたいなもんで、たがいに同じ生き物と思ってないはずなんだけど、まあ言ってもしゃーない。
というわけで、こちらから連絡を取る手段がない。フロントに電話して、息子まで電話してほしいと伝言するのが唯一の連絡手段だ。それすらも嫌がるけど。
頼みの綱は元妻だ。俺が離婚した元妻が月に一度くらい訪問してるんだよね。元妻は介護の専門家で、高齢者とヘルパーの関係になってる。
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