漫画『ふしぎの国のバード』【しょぼくれ中年ダイアリー】11月8日
今回は漫画の紹介です。漫画をむっちゃ読むんですよ。
明治初頭に、東京から蝦夷まで、地図すらない中を旅したイギリス人女性の旅行記です。その漫画化。
これはガチで面白い。知的好奇心系です。今6巻まで出てます。
イザベラ・バードの旅行記って有名だそうですね。19世紀後半に、日本のみならず、あちこちを旅行して旅行記を残してます。
彼女の記録が、世界最大の強国だった大英帝国にとって貴重な記録になっていたんでしょう。本作中にも、日本で珍しい植物を手に入れようとしているアグリビジネスの手先が彼女のライバル的な存在として出てきます。
本作はAmazonレビューを見てみると賛否両論。原作からキャラが変わってるんですよね。星を少なくしてる人は、その点についてこだわってる人が多いようです。
原作では太った中年女性なのに、きれいな貴婦人キャラになってること。また、漫画キャラのようなうぶな旅行者ではなくて、実際は現地住民を見下す大英帝国らしいシニカルな人だった点も変わってます。原作ファンからすると、そういう点は嫌かもですね。
ただね、どのレビューも触れてないんですけど、本作の素晴らしさに絵があります。当時の日本がどんな感じだったのか、びっしり描き込んだ絵がいっぱい出てきます。漫画家さんが真面目に資料を集め、力を入れて描いてるんでしょう。
その絵の力が大きくて、今では遠く失われてしまった、文明生活を送る前の日本の様子がかなり克明に描かれてます。変な風習とか、物売りの様子とか、今のわれわれからすると、遠い異国の話みたいです。細部まできっちり描かれていて、よくわかります。
ただし、当時の日本人の平均身長は150センチくらいで、それを絵で再現すると小人の国みたいになってしまうので、さすがにそういう部分は美化されています。
今ではこういう西洋文明化されていない場所というのは、おそらくアフリカでもなくなっており、アマゾン川流域くらいしか残ってないんじゃないでしょうか。
むちゃくちゃ貧しくて生活はかなり不潔なんですけど、これは当時の生活レベルというよりも、旅行してる場所が東北だからです。戊辰戦争でやられた直後なんですよ。
幕末に関する小説や漫画を読むと、本作ほどむき出しの貧困って感じじゃないですもんね。もちろん、武士の視点から社会を見るのと、農民の視点から社会を見るのでは違ってくるにせよ。
そんな中、貧しくても誠実に働こうとする当時の日本人の様子が描かれてます。たとえば、旅のある日の行程で、大事なものを落としてしまったことに気づいた主人公に、1日だけ雇ってた車夫が「ちょっと待っててくれ」と10キロほど走って探しに行き、見つけてきます。喜んだ主人公が、お礼にお金を渡そうとすると、すごく貧しそうな車夫なのに、十分な金額をもらっているから約束通りの額でいいと、受け取らないんですよね。プロの矜持を感じさせます。
イザベラ・バードは、じつは日本がそんなに好きではなかったとか。そのあと旅した韓国の方が好きだったそうです。それでこの描写なら、日本人ってたいしたもんだと思わされます。
これを読むと、日本人のメンタリティってすげー感じいいなって思わされます。これはおそらく自分が日本人だから思うことではなくて、他の国でも、大国の横の小国の人たちって、なんか控えめで押しつけがましくないんですよ。たとえばネパールとか。この前行ったポーランドでもそれを感じました。
逆に大国の人たちは貧富に関わらず自信満々で、悪くいうなら傲慢な感じがします。アメリカ人とか中国人とかインド人とかね。
このメンタリティを考えると、日本は中国という大国の横でひっそりやってきた小国なんだなーって思います。
そんな話はともかく、これは面白いです。大人が読む漫画として。この先の展開はどうなるんだろう?ってめっちゃ思います。
聞いたことない漫画雑誌に連載されていて、なかなか話が進まないので、単行本で一気に読むのがおすすめです。
こういうのも出てるから、今の漫画はレベルが高いと思います。時代とともにどんどんレベルが上がってます。
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しょぼくれ中年ダイアリー
本業は麻雀ライターの、麻雀以外の日々のエッセイです。出版、本、漫画についての話が少し多めです。
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