1人からはじめて越境するチームをつくる 『カイゼン・ジャーニー』 感想
勉強会「あたらしい事業やプロダクトを立ち上げよう、でもどうやって?」*にて、ブログを書くお約束で書籍『カイゼン・ジャーニー』をいただきました。以前に「カイゼン・ジャーニー発刊1周年記念イベント」にも参加していて、丁度読んでみたいと思っていたところでした。
アジャイルやスクラムの本?
カイゼン・ジャーニーはアジャイルの本か?というと、単にそうではないように思います。アジャイルに開発するためのプラクティスは紹介されていますが、焦点はそこでない印象を受けました。それをやる意識あるいはチームをどのように作るか、の方が主テーマであるように見受けました。
お話の筋は物語になっていて、タイトルのとおり、現場改善の旅です。ひとりからふたり、ふたりからチーム、さらにはチームの外へ、主人公がシステム開発のいろんな場面で困ったことになっては乗り越えていく、そんなお話です。
主人公は場面々々で価値や原則を再選択してプラクティスをやってみる。市谷さんと新井さんの解説・コメントを加えて、それらが価値や原則、プラクティスの紹介そのものになっています。
追体験がハンガーフライトそのもの
カイゼン・ジャーニーを読むと、勉強会に参加している時のような気分になります。すったもんだの物語を読むことはひとつの追体験でした。みんなそれぞれに困っていることがあって、それぞれに考えて、それぞれにやってみている。ということを共有する。共有する場が勉強会だと思うからです。
本の最後に出てきましたが、このような体験の共有をハンガーフライトと呼ぶようです。まさにこれだと思いました。方法論よりも体験を得ることの方が貴重です。実際、カイゼン・ジャーニーの物語はフィクションですが、実体験に基づいたものであるようです。
自分の頭で考えて自分の手で実践する
さて、カイゼン・ジャーニーには見聞きしたプラクティスをそのままやってはいけないということが何度も書かれています。登場人物の台詞として発せられていたり、解説の中で言及されていたりします。それだけ大事なことです。ただ答えを与えられるのではない。
プラクティスは実践なので、やり方は状況によります。物語の中のプラクティスは物語の中の状況下で成されたものです。あらゆる状況で万全に機能するプラクティスはない。だから自分の頭を使って考える、それを実践するのはまず気がついた自分から、というわけです。
また、ひとりからふたり、そしてチームやチームの外へという物語の構成は、段階の設計を表現するものなのだそうです。いきなりスクラムのやり方をひっさげて取り入れればよいというものではない。これで失敗するケースはありがちなのではないかなと思います。現に私もそのように失敗した現場を体験しています。
この本は単にアジャイル開発のプラクティスを紹介する本ではありません。スクラムはこのようにしたらよろしいをいう教本でもありません。むしろカイゼンのきっかけみたいなものです。このようなときにはこう考えることができるかもしれないよ、というヒントを与えてくれるものです。
感心するだけではなく実際にやってみる
ところで、私は今*、とあるベンチャー企業でソフトウェア開発をしています。ベンチャー企業なので、と言ってしまうのは簡単ですが、いろいろ整っていません。開発のプロセスなどは言うまでもない状態です。しかし、いつまでもそうだとばかり言って嘆いてもいられませんので……。最初のシステム立上げの山を超えて、人も少し増え、そろそろ立直しを考える時期になってきました。
なあなあでなくなってしまった朝会を見直して再会したり、カンバンを使って誰が今何をやっていてどの段階にあるのかを見えるようにしたり。小さなところから、反感や違和感を持たれない程度のバランスで、やってみたりしています。
個人的にはアジャイルやスクラムはあまり好きではありません。この本を読んでもなお。それほど先に体験した失敗は見ていられないものでした。
しかしだからこそカイゼン・ジャーニーから伝わることは現実的で建設的だと思いました。プラクティスをやるにしても段階を踏むべきだし、見聞きしたプラクティスをそのままやってはいけないと言うからです。これをやれば成功するなんてことは書いてないのです。
自分の現場のカイゼンは自分の頭を使ってやるものです。それがウォーターフォールなのかアジャイルなのかということに拘っても仕方ありません。大事なことは、カイゼンに必要なことは何かを自分で考えて自分でやってみることです。
その当たり前のようにも思える価値・原則を思い起こして自分を向き直すのに、とてもよい本だと思いました。カイゼン・ジャーニーをくださった市谷さん、ありがとうございました。新井さんにも平成最後の勉強会「多様な働き方のチームでどうやってアジャイルにやるの?」にてご挨拶させていただきました、ありがとうございます。