常歩と私④
熊谷高校(くまがやこうこう)に異動(いどう)する少し前に息子が所属(しょぞく)している少年団の子どもたちに二軸動作(にじくどうさ)を教える機会(きかい)がありました。
元Jリーガーが高崎市の少年団の子を集めて週一回教えるスクールが始まり、息子もチームメートと通い始め、迎(むか)えに行くのが私の役目(やくめ)でした。ある日、「もうサッカー辞(や)める。みんなも辞めると言っている」と言い出した息子に理由を聞きましたら「雑魚(ざこ)いチームのやつは邪魔(じゃま)だから来るなと(強いチームの子に)言われた」という答えが返ってきました。
グランドから帰る車の中で「もうみんな来なくていい。来週からおじさんが教えてやる。そのかわり、どんなに上手くなっても自分より下手な子をバカにしないと約束して」と子どもたちに告げ、翌週から彼らに二軸動作(にじくどうさ)を教え始めました。
それまで、息子の少年団は試合で勝ったことはほとんどありませんでしたし、パスがつながることもありませんでした。教え始めて2か月たった頃、勝ち始めました。すると、ほとんど応援(おうえん)に来なかったお父さんたちが「パスがつながるとサッカーは見てて面白(おもしろ)いですね」と言って試合を見に来るようになりました。
私が週一回教える前に0-10で負けるようなチームに1年後は引き分けられるようになりました。それまでは1vs1でかんたんに抜かれていた彼らが、膝(ひざ)を抜(ぬ)いて足を出して抜かれなくなったのが大きいと思います。
あるとき、息子が「もう膝抜(ひざぬ)きタックルやめようよ。ファールになるから」と私に言ってきました。私は「いや、ファールじゃなくて正当(せいとう)なタックルだ。でも、相手が転(ころ)ぶからファールになる。子どものために資格(しかく)を取ってやってくれているお父さん審判(しんぱん)の判定に抗議(こうぎ)するわけにはいかない」と答えることしかできませんでした。
高校サッカーでも、球際(たまぎわ)で相手選手に体を少しだけ当てて膝を抜くと、相手が転んでしまいファールになることはよくありました。そのたびにサッカー部員(ぶいん)に対し「仕方(しかた)ない。相手の方が体が大きいのに転んだら、何かしたに違(ちが)いないと思われてしまう。将来、みんなが審判(しんぱん)になって、これがファールでないと広めるか、あるいは、みんなが指導者(しどうしゃ)になって、膝抜(ひざぬ)きタックルをあちこちのチームでするようになれば埼玉のサッカーが変(か)わるかもね」と話しました。
続きはまた次回、ではまた。