高校教師からバルセロナへ④

東京学芸大で体育教師の免許を取得した彼は埼玉県公立高校体育の採用試験を受験した。当時は倍率が高く、なかなか受からず、何度も受験していた人も多かったが、彼は一発で一次試験に合格し、私に電話をかけてきて「先生、採用試験の一次試験に受かったのですが、二次試験を受けなければダメですか?」と言ってきたので、「みんな受かりたくても受からないのだから、一度は受けて教員になろう」と話したら「わかりました」と彼。

予想通り、採用試験に合格した彼だったが、初任の高校で苦労した。優しくて叱れないで、ヤンチャなサッカー部員とうまく行かず(生徒と胸ぐらを掴み合ったこともあったそう)に悩んでいる彼に対し、私は「君が生徒のために一所懸命努力し、サッカーの勉強をしている姿を、生徒たちは見ているから、最後は必ず上手くいく」といったことを話した。幸い、同僚で剣道部の先生が彼の良き理解者になってくださっていた。

サッカー部員が全く練習に出てこなくなった校庭で、彼は毎朝、草むしりをしていた。すると1人の部員が「先生、僕もやります」と声をかけてきて(まるでドラマ)、2人で草むしりをやり終えた後、ロングボールを蹴り合っていたそう。すると徐々に部員たちが戻って来て、最終的に試合ができるほどの人数の部員が集まった。胸ぐらを掴み合った彼も戻って来て、エースストライカーとして活躍した。

私は当時、浦和南高校にいてサッカー部の1年生を教えていたのだが、彼に頼まれて、1年生が彼の学校のサッカー部と練習試合をした。浦和南1年生が勝利したが、エースストライカーの彼に1点取られた。試合が終わった後に監督の彼が(以前、胸ぐらを掴み合った)エースストライカーを連れて来たので、私は「君、恵まれているよ。なかなかこんなに一所懸命生徒のために勉強しているサッカー部顧問はいないよ」と話しかけたところ、笑顔で「はい、そう思います」と言ってくれた。自分のことのように嬉しかった。

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