見出し画像

堀之内塾長と私④

堀之内聖という男がどう育てられたのか、以前お父さんにお聞きしたら「6歳までにバッチリしつけました。でも、小学生になってからは何も言いませんでした。彼が困ったときに相談に乗るだけでした。ただ、中学生のときに彼がやる唯一の仕事が夕飯のご飯を炊くことだったのですが、疲れていたんでしょうね、ご飯を炊く前に寝てしまった彼を『お前の唯一の仕事だ』と言って叱りました」と話された。

同級生が「ホリは一緒にプレーすると凄さが分かるんです。自陣ゴール前でクリアしたホリが、そのままカウンターで相手ゴール前で最後にダイビングヘッドをする。そういう男です」と堀之内聖がいかにチームメートにとって頼りになるか語っていた。また、マネージャーも「いつも1番重い荷物を持ってくれるのはホリ君なんです」と彼の優しさを語ってくれた。最上級生の3年生になってもそれは続いたので、私が「ホリ、そろそろ下級生に任せたら」と語りかけたところ、「そうですかね」と笑っていた。

サッカーだけでなく、勉強も生活も完璧だった堀之内は、当時の先生方に「10年に1人の逸材」と言われていた。また、浦和市立高校在職30年の先生に「私ね、サッカー部がずっと嫌いだったの。偉そうにしている子ばっかりで。だから全国大会に出ても1度も応援に行かなかった。でも、今は違う。堀之内君がいるから。彼みたいに勉強も掃除も学校生活全てできちんとしている子がいるから一所懸命応援したくなる」と言われた。

彼が2年生の時に、1年生が美術室の軒先をお借りして着替えていたのだが、「使い方がだらしない。汚れている」と美術の先生からお叱りを受けたことがあり、部員たちに「なんで去年は1度も注意されなかったんだろう?」と尋ねたら、「先生、いつも最後にホリが掃除して帰ってたからですよ」とある部員が教えてくれた。

ある日、合宿所を掃除中、「ホリは将来何になりたいの?」と尋ねた(体育教師になってくれるとばかり思っていた)ら、「内緒ですけど、僕、プロになりたいんです」と小声で言った。私は、こんなに何事にも真剣に取り組んでいる男ならプロにだってなれるはずだと強く思った。その話を他校のサッカー部顧問にしたら、みんな「無理」と言っていた。理由は、ギリギリのテクニックがないからだということだった。


いいなと思ったら応援しよう!