DX時代の金融機関における「経営のソフトウェア化」
どうも、すべての経済活動を、デジタル化したい福島です。
今回のテーマは「経営のソフトウェア化」についてです。
今の時代、大半の企業がソフトウェアを使用しています。
しかしインターネット業界における使い方と、伝統的な産業におけるそれとは異なるのではないでしょうか。今回は筆者なりのソフトウェアを用いた経営手法とその利点について解説したいと思います。
(金融専門誌「週刊金融財政事情」へも同様の内容を寄稿しております。)
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急速に進む「真のデジタル化」
「デジタルでできること」の適応領域が広がっている。デジタルの能力が拡張される中で、人と紙を前提とした既存業務と、デジタルを前提とした業務との乖離が激しくなっている。「デジタルトランスフォーメーション=DX」という用語が急に注目されているが、このパラダイムシフトにいかに対応して、ビジネス上の競争優位をつくるかが多くの企業にとって重要課題となっている。
「IT革命」が叫ばれて久しいが、DXの意味するところとは少し異なる。従来のデジタル化は「ツールのデジタル化」にすぎなかった。例えば、金融業界はマネー・ロンダリング対応で一部ツールをデジタル化しているが、最終的には人が目視で「怪しそうだ」と判断している。しかし、直近では機械学習で判定するケースもある。このように「業務全体をデジタル化してソフトウェア上で完結する」のがDXである。
当社では、デジタル化のレベルは大きく四つあると考えている(図表)。
〔図表〕デジタル化の4つのレベル
レベル1はツールのデジタル化で、チャットツールや契約書管理ツール導入などが該当する。
レベル2は業務のデジタル化。「契約書をアップロードすると契約管理や稟議のシステムに同期され、それを上長が承認して電子署名すれば契約相手にメールが送信される」というように業務自体がデジタルで一気通貫するイメージである。
レベル3は業務の高度化だ。オンラインでの本人確認(eKYC)は初期サービスでは顔写真を撮ってアップロードするだけであったが、現在は既存データと照合して、この人はすでに本人確認済みだから二重申し込みではないかと判断できる段階にまでなっている。
レベル4は全体最適化である。本人確認やマネロンなどは各金融機関がそれぞれのシステムで行っているが、共通のデータと共通の仕組みをつくれば効率的である。今まではデジタルで完結させることは難しかったが、ブロックチェーンを使うことで容易になった。
デジタルの持つ優位性が「インターフェースをデジタルに変える」だけであれば、変化の幅は限られる。そのため、真剣に取り組む必要に迫られていなかったのが、この10〜20年ではないか。
ところが、デジタルでできる業務が広がり、海外のチャレンジャーバンク(アントフィナンシャルや、テンセント傘下のウィーバンク等)のように、店舗を持たずeKYCで口座開設を完結し、与信業務すら機械が行うという金融サービスが急成長してきた。いよいよ本格的にデジタル化を進めないと、既存金融機関の優位性を維持できない段階にまで来たのである。
絶えず改善し続ける「ソフトウェア経営」
デジタル化が進むと、従来の「商品の単発売り切り型の経営」から、そのサービスを継続的に提供し、絶えず改善しながら顧客のライフタイムバリューをどう高めるかという「サービス産業的な経営(=ソフトウェア経営)」に変わっていく。
例えば、データによりソフトウェア的に改善されていくような新たな与信モデルは、最初は単純なロジックで、特定の商品への適用から始まる。しかし、業務を行いながら仮説・データを集め、「どの人に貸してよいか、どの人から何%の金利を得れば適正か」といった、さまざまな観点を加味していくことで与信モデルは改善され続ける。このような新たな与信モデルに、既存の与信モデルは対抗できなくなっていくであろう。
利用者の行動履歴をすべてデータとして残し、ファクトベースで「何に喜び、何に不満だったか」を理解しながら経営している企業と、想像や限られたアナログなインタビューに基づき経営している会社とでは、残念ながら業績に大きな差がつく。これまでのインターネット産業を見ても利用者の行動履歴をもとに、利用者の満足度を上げるため「いかに早く学習するか」「いかに使いやすいサービスにするか」と、サービスを改善し続ける企業が勝ち残ってきた。
確かに直感も大事だ。ソフトウェア経営を高度に理解しているグーグルやアマゾンの経営者であっても、直感で判断することもあるだろう。ただし、彼らはソフトウェアが得意な領域はソフトウェアに判断させている。そういった企業に、果たして直感だけで挑む企業が勝てるのだろうか、と筆者は常々疑問に思っている。
「重い産業」の業務を置き換えよ
物流業界の需要予測、自動車業界の自動運転など、デジタル化は著しく進んできたが、重厚なシステムを抱える金融業のような「重い産業」でも、ソフトウェアを用いて軽くできる業務はある。
従来の企業経営は人を育てて、人が競争優位になるという考え方であった。これからはソフトウェアが前提にあり、その上で経営判断をする。デジタルを部分的に導入するのではなく、すべての業務をソフトウェアに合わせて初めて競争優位になる。こうした発想に至るには経営者の意識変革が必要となる。例えば、新しい与信ロジックをABテスト(A・B二つの施策の比較検討)したいときに、果たして今の銀行はすぐ実行できるガバナンス・意思決定構造になっているだろうか。
主に大企業など、多くの重い産業が考えるソフトウェア経営は、前述したデジタル化のレベル1である一方、テック企業はレベル2〜3の話をしている。ソフトウェア経営は決して難しいものではない。ただし、従来の手法や前提を全部置き換えられれば、の話だ。大半の企業はすでにソフトウェアを使っている。しかし、使いこなせなければ、これからの社会では勝ち残ることはできない。
出典:「週刊金融財政事情」2020年9月21日号掲載、「きんざいOnline」
https://kinzai-online.jp/node/6803
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