愛情が何か分かる?
「愛情が何か分かる?私は、尊重と尊敬と信頼だと思ってる」
これは、島本理生さんの小説『ファーストラヴ』で、臨床心理士が殺人事件の被告に投げかけた問いである。
実父を手にかけた女子大生は、過去に心の傷を負い、自分を大切にできなくなった。そして、空っぽな人形のようになってしまっていた。
一方、被告と向き合う臨床心理士もまた、苦い思い出を引きずる。自分を責め続ける状態から、再生の途上にあった。
私は『ファーストラヴ』を、最も大切にしたい人に贈った。2020年、クリスマスを過ぎた頃だ。
その本を選んだ訳は、まず第一に、とても好きな小説だったから。
ただ、物語を通じ「もっと自分を大切にしてくれたらいいな」との願いも、少し入っていた。
本にメッセージを込めて渡す。リスクもあるし、ちょっと勇気が要った。
しかし今思えば、むしろ私の方が、そのメッセージを求めていたのかもしれない。
実はその年の私は、なぜか自分を責めることが増えていた。
「尊重と尊敬と信頼なんて、当たり前じゃないか。愛情のことは分かっている。甘えている場合じゃない」
小説の言葉を借りるなら、内なる声はそう言っていた。
けれど、実際はどうだろう。
どこかで、私なんか尊重されないと決めつけていた。
また、他者への尊敬を欠く視線が、自身に跳ね返っていた。
そして、自分の選択を信頼できずにいた。
常に心のどこかで「愛情不足」を感じていたのだ。
でも、それは思い込みかもしれない。その可能性を考えず、自分を責めるばかりでは、歪な自己愛だけが残る。
そして、大切な人の優しさを裏切り、悲しませてしまう。
結局「自分を大切にする」方法は、誰かがくれた愛情を、素直に受け取ることではないか。
私は、本を贈った相手に「君は、もっと自分を大切にしてほしい。わたしのためにも」と言われるまで、それに気付けなかった。もう年は明けていた。
その時は、電話口で目が潤んだ。
ありがたさと「もっと早く気付けば良かった」という後悔。
二色の感情が体を駆け巡り、涙を押し出す。ふっと、気持ちが楽になった。
尊重と、尊敬と、信頼。全てくれる大切な存在に、気付けているか。
いつか、空っぽな人形になりそうな時、そう自分に問いかけたい。
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