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伝統と革新で吹屋をスキルアップ。ベンガラ焼きとともに歩む陶芸家、田邊典子さん

吹屋ふるさと村ベンガラ陶芸館で陶芸家として活躍する田邊典子(たなべのりこ)さん。吹屋の隣に位置する成羽地区で生まれ育ち、備中神楽の人形やお面を製造する事業を行っていた祖父の影響を受け、高校卒業後は陶芸を学ぶため、京都の美術大学に進学しました。卒業後、地元に戻り陶芸家として活動を始め、その後、平成2年から吹屋の陶芸館の運営とベンガラ焼きの製造に関わって来ました。

陶芸家としての活動に加え、宿やカフェの運営による町並み保存や、地域商品の開発など、幅広い活動を行う田邊さん。今回は、彼女がその活動にかける思いや原動力についてお話を伺いました。



吹屋での生活、特に陶芸を行う環境はどうですか?

30年陶芸館に勤めてきて、これまであまり気づかなかったのですが、コロナを経験したことで、街中の陶芸教室とは異なり、吹屋の自然に囲まれた環境の中で、のびのびと陶芸に集中できることがとてもありがたいと感じるようになりました。

自然の中で過ごすことで、インスピレーションを得ることができますし、作品にも没頭できます。周りには、鳥の鳴き声や風の音、自然の奏でる音だけが聞こえる、そういった環境の中で陶芸ができることは、本当にすばらしいことだと思います。

陶芸館に設置された登り窯
年に1度の火入れでは
登り窯の温度は1250度を目指します。


作品作りで特に重視していることやこだわりがあれば教えてください!

食器の場合は、"自分がいいと思ったデザイン"と"人の使いやすさ”の両立を大切にしています。

見た目がかっこいい器でも、使い勝手が悪くて、重たいから1年間に何回しか出さないとなったらもったいない。このコーヒーカップで飲むとホッとすると思ってもらえる、日常使いしていて疲れないものがいいかなと思っています。

町並みやボンネットバスが施されたカップ
センスが光るだけでなく、その軽さに驚かされる
一棟貸しの宿に隣接する「cafe燈」のスイーツプレート


べんがらを使った陶芸の魅力はどんなところだと思いますか?

べんがらを使った陶芸の魅力は、日本人の肌の色や日本の土の色に非常に調和するところだと思います。

べんがらは、土から採れる酸化第二鉄という成分を基にした、自然に存在する赤色の顔料。昔から神社仏閣の装飾に使われ、日本人にとって馴染み深い色でもあります。

また、古墳からもべんがらを用いた装飾品が多く見つかっており、この色は日本の歴史や文化にも深く根付いています。そのため、べんがらの色は日本人の生き方や気質にとてもマッチしており、そうした点が大きな魅力だと感じています。

ベンガラ陶芸館では、べんがらを使った釉薬や焼き物、特産品の開発、さらにはワークショップなども行っています。


陶芸家としての活動に加え、宿やカフェの運営による町並み保存や、地域商品の開発も行われているとお聞きしました。はじめた経緯や思いを教えていただけますか?

これらの取り組みの根本には、吹屋の観光地としての価値を高めたい!という思いがあります。

吹屋は、岡山の他の観光地と比較して、過度な商業化が進んでいないところが魅力で、本物の良さが残っていると思います。しかし、そのような吹屋の魅力をうまくPRできていないという現実もありました。

私が吹屋に来た平成2年頃、観光の指標は観光バスが何台来たかということでした。しかし、時代と共に需要が変化し、個人の自家用車で来られた人たちがより個別的な楽しみ方ができる観光地でなければ存続できないという危機感を抱いていました。


具体的にはどのような取り組みをされているのでしょうか?

今は、7年前に地域の人々が中心となって設立した株式会社吹屋で、カフェや一棟貸し宿の運営に携わっています。壊れかけていた民家を改修し、一棟貸し宿として運営しています。コンセプトは、東京や関西から訪れる20代から40代の独身女性たちの癒し旅。彼女たちが求めるランチのメニューや、部屋の装飾、くつろげる空間を作ることで、観光の付加価値を高めて行こうと思っています。

仕事に疲れた人がふらっと吹屋に来て町を散策し、環境に癒され、うちの野菜たっぷりの美味しい料理を食べてほっと一息つく、そんな体験を提供したいです。

一棟貸しの宿「千枚」に隣接する「cafe燈(あかり)」


最後に、今後さらに力を入れていきたいことがあれば教えてください!

吹屋には食べ物の名物がないので、それを作りたいと思っています。「吹屋と言えばこれ!」と誰もが思い浮かべるような名物スイーツを地元の高校生や店主の皆さんと力を合わせて作っていけたらと思っています。

また、べんがらを使った文具の開発にも力を入れたいです。特に、思わず手に取ってしまうような素敵なデザインの文具商品を生み出したいと考えています。吹屋にあるものをよりデザイン性の高いものに変え、スキルアップしていきたいです。

そして、祖父から父へと長年続けてきた備中神楽を次世代につなげることも、残りの人生をかけて取り組みたいと思っています。その歴史を映像などで残し、多くの人に知ってもらうとともに、全国にファンを増やすための取り組みを行いたいと考えています!


あとがき

今回、田邊さんに取材させていただき、吹屋の地域が持つ独自の魅力とその可能性を改めて感じることができました。自分の住む町をよりよいものにし、存続させていくために挑戦する田邊さんの姿は、とても印象的でカッコよかったです!

 (インタビュー・文 : 山下さくら)

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