パキスタン人元仮放免者が改定入管法施行を前に思うこと
入管難民問題を発信してきた、市民メディア8bitNewsとYouTube「Listen to the Voiceless by Fuki」によるコラボ番組「We are all Human beings」。6月10日の改定入管難民法施行を前に、当事者の視点から今多くの人と考えるべき論点を探った。
スタジオでは、2021年名古屋入管に収容中に死亡したウィシュマ・サンダマリさんの遺族代理人であり、長年入管難民問題に取り組んできた指宿昭一弁護士と、今年4月、在留特別許可が出されたパキスタン出身の元仮放免者モハメド・サディクさんが出演した。8bitNewsのメンバーで、ジャーナリストの構二葵が迫った。構のリポートでお届けする。
サディクさんは1980年代後半に来日。これまで2回入管に収容され、在留許可が降りない中、癌で闘病中の妻を支えてきた。パキスタンでは反政府運動に参加し、戻れば命の危険があると訴えるサディクさんにとって、日本での在留特別許可は家族の悲願だった。サディクさんは今、改定入管難民法施行により、強制送還者が増えるのではと、不安を口にする。
私たちが今目を向けるべき問題は何か。約1時間、話を聞いた。これまで在留特別許可を求める訴訟を3回、再審情願を8回申し立ててきたサディクさん。しかし17年に渡って降りなかった許可が、今回なぜ降りることとなったのか。その背景を指宿弁護士はこう指摘する。
指宿弁護士「昨年の入管法改悪のことで報道も増えたし、関心を持つ人が増えたことで在留特別許可にしても、難民の認定にしても少し増えてはいるんで。やっぱり社会の、世間の目がいい方向に働いているってことは言えると思います。裁判官もある意味一市民ですから」
長年、サディクさんに在留特別許可が出なかったのは、中国人で永住権を持つ妻との、婚姻届を出すタイミングが原因だったという。
指宿弁護士「(サディクさんの場合は)捕まった直後に婚姻届を出した。”駆け込み婚”と言って、偽装じゃないかとか疑われちゃうっていう面があって、それで在留特別許可が出なかった」
さらに、夫婦の間に子どもがいなかったり、別居していたり、歳が離れていたりしても「偽装結婚」と疑われ、在留特別許可が降りないケースが多々あることも指摘された。家族観が偏りすぎていること自体が、そもそも大きな問題ではないだろうか。
在留特別許可が長年降りなかったサディクさんは、不法就労をしていたとして入管に収容されている。大きなショックを受けた妻は、妊娠中の子どもを流産していた。
サディクさん「苦しかったねその時。ずっと泣きっぱなしで3日間寝られなかったです。今左耳が私全く聞こえない。(耳から)血が出たらしいよ」
2023年1月に起こした裁判の中で、裁判所が被告である国側に対し「(サディクさんに)在留特別許可を付与できないか検討できませんか」との事実上の和解勧告があった。これに応じる形で、東京入管横浜支局はサディクさんに対し4月22日に在留特別許可を出したという。
「(妻には)電話で話したんだけど笑っているか泣いているか。それはわからなかった」と話すサディクさんに対し、
「それ泣いてるんだよ絶対!」と指宿弁護士が笑う場面も。
サディクさんは今後も、自分と同じ境遇だった仮放免者の人たちの支援を続けると話す。イスラム教徒でもあるサディクさん。最後に、人生の半分以上の時間を過ごしている日本への想いを語った。
サディクさん「日本人の気持ちがわかったら好きになったんだよ。考えるのはお正月とかお盆とか春休みとか。こんな体になっちゃったんですよ。イスラム教の人怒るかもしれないけどしょうがない笑」
改定入管難民法は6月10日から施行される。これまで難民申請中には強制送還が行われなかったものの、施行後は、3回目以降であれば難民申請中でも強制送還される恐れが出てくる。指宿弁護士は、この問題に関心を持ち続けること、そして少しずつでも友人や家族に伝えたり、SNSで発信したりすることが大きな支援につながると話す。
指宿弁護士「入管が狙っているのはみんなが忘れることなんです。ウィシュマさんの事件が起きてもう3年経ったから、そろそろみんな忘れる頃だろうとたかを括ってるんですよ。でも日本の多くの市民はまだ忘れてない」
”改悪”とも言われる新たな入管難民法。今もわたしたちと共に日本に暮らす難民や仮放免者を取り巻くこうした現実が、忘却の彼方に押しやられないように。これまで以上に多くの人に関心と想いを寄せてほしいと指宿弁護士は締め括った。
※インタビュー前半は8bitNews、後半はListen to the Voiceless by Fukiで配信された番組「We are all Human beings」からご覧ください。