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ニューヨークにまた戻りたくなってしまうわけ【前編】

皆さんはニューヨークと聞くと何を思い浮かべますか?自由の女神やタイムズスクエアなど色々ありますよね。実際行ってみると地下鉄で寝ているホームレスの人がいたり、路上で大音量のスピーカーを流して踊っている人がいたりと本当にカオスな街です。なのに一度訪れると好きになってしまう、また戻りたいなと思ってしまう、そんな街です。今回は何度かニューヨークを訪れて感じたこの都市が持つ謎のパワーについて考察していきたいと思います。
※この記事に出てくる「ニューヨーク」はほとんどマンハッタンのことを指しています。

なぜニューヨークは特別なのか、都市の魅力を高める要素とは。

①一つの都市の中に複数の個性を持った「エリア」が存在する。

ニューヨーク市にはマンハッタンやブルックリン、クイーンズなどの5つの行政区があります。

赤:マンハッタン、青:ブルックリン、緑:クイーンズ、紫:ブロンクス
5つ目の行政区スタテンアイランドはこの地図には入ってないです。黄:ニュージャージー州。

この赤い部分がマンハッタンです。多くの人が想像するニューヨークはほとんどこのエリアになります。東京で言うと23区のようなものです。マンハッタンの中にはしっかりとした行政区分がないにも関わらず、異なるエリアが存在しています。各エリアに特徴的な建築スタイルや雰囲気があるのです。例えばマンハッタンの下の方であればチャイナタウンがあり、そこから5分ほど歩くとソーホーと呼ばれるハイエンドなショップが並ぶ地域があります。この2つのエリアはほとんど接していると言っても過言ではありませんが、全く違う都市、いや、全く違う国に来たかのような印象を与えてくれます。

チャイナタウンの街並み

チャイナタウンのエリアの建物は茶色のレンガ造りのものが多く、このエリアでは英語より中国語の方がよく聞こえてきます。公園に行くとおじいちゃんたちが楽しそうにトランプをしていて、その周辺では野菜やお肉を売る非公式感満載の市場が開催されていました(もちろん商品名・値段表示は中国語のみ)。本当にここはニューヨークなのかと疑ってしまうほどの空間です。日本にある中華街は日本人客が多いと思いますが、ニューヨークの中華街は現地の中華系の方が大多数を占め、この街だけで一つの経済生活圏が成り立っていました。

リトルイタリーの街並み

このチャイナタウンに隣接するのがリトル・イタリーです。リトル・イタリーにはイタリア料理レストランが集まっています。この写真からも一気に街の様子が変わったのがわかっていただけたでしょうか。中国語の看板はイタリア語の看板に変わりました。通りを一本変えるだけでこんなにも街の印象がガラッと変わるのはニューヨークを歩いていて楽しい理由の一つです。

ソーホーの街並み

そんなリトル・イタリーから数分歩くとこのような洗練された街並みが広がっています。いつの間にか道路は石畳になり、白い建物が多く窓に施しがされているものもあります。どうやらソーホーには19世紀半ば〜後半に建てられた、装飾を石造ではなく鋳鉄にすることで簡単に製造・複製できる手法「キャスト・アイロン(鋳鉄)スタイル」の建築が多く残っているそうです(出典:Soho Broadway Initiative)。これらの建物の中に誰もが知っているようなハイブランドのお店が構えています。あのダイソン専用のお店もこのエリアで見つけました笑。歩いている人もおしゃれな人やお金持ちなオーラを感じ取られるような人が多いです(大型ワンちゃん連れが多かったです。東京の広尾にもよく大きなワンちゃんがいますが、大きなワンちゃんを持つことはお金持ちの中で世界共通なのでしょうか笑)。

他にもウォール街に行けば重厚で立派な石造建築が立ち並ぶ中でスーツやパタゴニアのベスト(笑)を着た金融関係者が歩いており、アッパーイーストに行けば高級感のある家が並んでいます。

この「異なる都市空間が都市の中にある」ということが世界を代表する都市が準世界都市と異なる点であると思います。例えば、東京の中にも違った顔を持ったエリアがたくさんあります。渋谷は若者の街、原宿はかわいい文化とファッションの街、六本木は大人な街、浅草周辺は下町の雰囲気のある街のように一つの都市の中でも違った魅力やテーマを持った地域があるのはやっぱり東京が世界的都市だと言える理由だと思います。これから東京が国際都市競争で勝ち残っていくためにもエリアの差別化を意識する必要があると思います。どの駅前も同じような再開発をしていたら都市の魅力は下がってしまいます。

築地市場周辺、下町の雰囲気が残っています。
「東京のニューヨーク」こと丸の内の街並み

ニューヨークにここまで多様なエリアが存在する理由として移民の存在、セグリゲーション、人種・文化の多様性などが大前提として挙げられますが、私が非常に大切だと思うのがニューヨークでは意外にも景観保存がされている(のでは?)ということです。ニューヨークというとガラス張りのビルがどんどん建てられているイメージはありますが、実際に行ってみると昔からありそうな石やレンガ作りの建物も多く残されています。なので、今再開発されたらガラス張りの建物で統一されてしまいそうな中、古い建物とともに各エリアで個性のある空間が残っています。私はこの古い建物たちが「ニューヨークらしさ」を保ち続けているのではないかと思います。もし、これらの比較的古い建物も壊されてガラス張りのビルになれば他のアメリカの都市とあまり変わらず都市としての魅力は薄くなってしまうと思います。

セントラルパーク西側の様子。いい感じの昔のビルが残っています。

②「見えざる手」で成り立っている。

ニューヨークに行くとこの街は完全なる資本主義で成り立っていることに気づきます。お金を稼ぐにルールはない、といったところでしょうか。タイムズスクエアでミッキーマウスの着ぐるみを着てチップをもらおうとする人、観光案内自転車を漕ぐ人、ウォール・ストリートで働くエリート、ファッション業界で働く人、ストリートフードを売る人など様々な人がいろんな方法で「お金」を稼ごうとしています。その姿勢を他の都市に比べてより顕著に目にすることができるのがニューヨークです。また、タイムズスクエア周辺に行けば主張の激しい巨大電子広告板が視界を埋めるようにあり、各企業が競って消費者からお金をとってやろうという意思が丸見えなところからもこの街は「お金」で回っているというのが感じられます。

いつもたくさんの人で賑わうタイムススクエア

それがどのように都市の魅力につながるのでしょうか。私はこの資本主義に基づく競争がこの街の魅力を持続的に高めているのだと思います。需要に見合ったビジネスだけが残り、需要に合わなかったもしくは需要を作れなかったビジネスは淘汰されていく。そんな厳しい環境で常に新しいものが生まれていくのです。

ニューヨークでは公園でさえも利益が最大化になるように整備されています。今ではBID (Business Improvement District: ビジネス改善地区)で有名なブライアントパークがこの代表例です。ニューヨーク市立図書館に隣接するこの公園は現在でもニューヨーク市が所有していますが、管理・運営は民間の企業が行なっています。この民間企業はかつてドラックディーラーで治安の悪かった同公園を大幅リノベーションして今では観光客が集まる人気スポットにまで大変身させました。

ブライアントパークに訪れた際にはぜひこの公園にある公衆トイレを使ってみてください。トイレに入れる人数をコントロールするスタッフが入り口に常在しており、トイレ内ではクラシック音楽が流れ、手入れされたお花が飾られています。公園内にもセンスの良いベンダーやカフェ、レストランが配置されており、公園はいつも清掃スタッフによって綺麗に保たれています。

ニューヨークにこんなに清潔な公衆トイレがあるなんてほぼ奇跡です笑
このドアにいる人がトイレの人の出入りを管理しています。
椅子・ゴミ箱までが美しくデザインされている。

しかし、これにも意味があるのです。ニューヨーク市では公園周辺のビルの所有者に対して公園へ税金を払わせることができます(ブライアントパーク運営会社から聞いた話によると)。確かに、自社ビル近くの公園が綺麗に整備されていたら社員が昼食をとりに公園に行くことができますし、立地の良さからビル自体の価値も高まります。公園が利益を出しているって面白くないですか?日本人の私からしたら公園は「公共のもの」という認識が強いため、このビジネスコンセプトは非常に興味深いです。しかしこの公園のBIDの場合、利益を被るのが運営会社だけではなく、利用者にもあるというところがとても良いと思います。日本でも積極的に取り入れてほしいですね!

奥に見えるのがニューヨーク市立図書館です。

ということは、もしかするとニューヨークでは公園間にも競争が存在してもおかしくないですね笑。ニューヨークではこのように資本主義の流れに任せて都市が発展してきたように思えます。つまり、この資本主義に基づく完全なる生き残り競争によって、クオリティの高い都市空間が次々に生まれて、都市の魅力が上がっているのだと思います。そして、毎回この街を訪れるたびに新鮮さを感じるのもこの経済システムに帰着できるのではないでしょうか。

③最強のニューヨーカーたち

ニューヨークの地下鉄に乗ると、日本人からすると興味深いことが2つあります。それは(1)「THE人種のるつぼ」であること、そして(2)ニューヨーカーの戦う姿勢を目撃することができることです。

(1)「THE人種のるつぼ」
ニューヨークはエリアによってかなり人種・収入別の住み分け(セグリゲーション)がされています。例えば、高級地区アッパーイーストサイドはコケージャン(白人)が多数を占め、ハーレムにはアフリカ系の住民が多く、ワシントンハイツというマンハッタンの北部の地域にはドミニカ系の人が多く住んでいるそうです(出典:World Population Review)。そんなニューヨークですが、地下鉄に乗るとほぼ全人種を一つの車両の中で見つけることができます。まさに人種のるつぼです。

(2)ニューヨーカーの戦う姿勢
ニューヨークの地下鉄はたまに無法地帯なのではと思ってしまうような光景になることがあります。社内でダンスパフォーマンスを始める人たち、ほぼ全裸で暴れるホームレスの人の動画を見たことがある人がいるかもしれません!私も地下鉄で何度かこれらの行為をする人に遭遇したことがあります。観光客はしばしば驚いたり楽しんだりするのですが、このような状況に慣れているニューヨーカーの人たちは完全に無視しています。何も起きていない時でも彼らは「自分の身は自分で守る」覚悟をしているのが印象的です(彼らの顔に出てます笑)。

ニューヨークの地下鉄

地下鉄内では防御体制を貫くニューヨーカーたちですが、街中で気づくのは特に若いニューヨーカーの多くがスタイルがよく、シンプルでおしゃれな服装をしているということです(もちろん全員がそうというわけではないです)。

ローカルが多そうなメキシカンレストラン。
スリムでシンプルおしゃれです(あくまで私の解釈ですが)。

調べてみたところ、全米の大人の肥満率は42.4%なのに対し、ニューヨーク市では17.2%でした(出典:National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases, New York State Department of Health) 。つまり、肥満率は全米平均の半分以下だそうです。彼らはスリムでおしゃれなだけでなく、街中では背筋をピン!とさせて少し速く歩くのが特徴です。そんなニューヨーカーたちを観察して気づくのは皆が自分に自信を持っているということです。その理由を考えてみたのですが、自分がニューヨーカーであることに高い誇りを持っているからだと思います。なにしろ、ニューヨークはビジネスからアートやファッションの領域まで世界一が集まる街です。「そんな世界一の街で私は生きている、この街で私は生き残りをかけた戦いをしているんだ、物価や家賃が上昇し続けるマンハッタンでも私たちにはついていける余裕があるんだ」というプライドを感じます。少し誇張していますが、彼らのオーラからこのプライドは確実に伝わってきます笑。

さらにニューヨーカーの実態を探るべく調べてみたところ、マンハッタンでの世帯平均年収はなんと脅威の162,110ドル、つまり日本円で約2500万円です(2025年1月3日現在のレート)東京23区の世帯平均年収が756万円なので年収が3倍も違います、、。大富豪がいっぱいいるだけだろうと思い、一応世帯年収の中央値も調べてみたところ、これも138,608ドル(同レートで約2170万円)としっかり高かったです(出典:Point2Homes, 総務省統計局家計調査年報貯蓄・負債編(令和4年))。

ここからもニューヨーカー(特にマンハッタンに住む人)たちが高いプライドを持つにも納得がいきます。そんな人たちで集まる街だからこそ魅力的な街になっているわけです。この空気感を観光客も味わうと「かっけえ」と思うのだと思います。

あの麻布台ヒルズも設計したHeatherwick Studioがデザインした公園「Little Island」からのビュー
この公園もブライアントパークに負けないぐらい素晴らしい公園です。

そんなカオスだけど魅力溢れる街、ニューヨーク。後編ではこの街の魅力について都市計画を中心に語っていきたいと思います。最後まで読んでいただきありがとうございました!

【参考文献】

E-Stat. (n.d.). 家計調査 [Family Income and Expenditure Survey]. https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00200561&tstat=000000330001&cycle=7&year=20220&month=0&tclass1=000000330007&tclass2=000000330008&

Manhattan Borough, New York Population 2024. (n.d.). World Population Review. https://worldpopulationreview.com/us-cities/new-york/manhattan

Manhattan, NY Demographics. (n.d.). Point2Homes. https://www.point2homes.com/US/Neighborhood/NY/Manhattan-Demographics.html

National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases. (n.d.). Overweight & obesity statistics. https://www.niddk.nih.gov/health-information/health-statistics/overweight-obesity#:~:text=%25)%20are%20overweight.-,More%20than%202%20in%205%20adults%20(42.4%25)%20have%20obesity,who%20are%20overweight%20(27.5%25).

New York State Department of Health. (2023, August 15). Prevalence of obesity among New York State adults by county, BRFSS 2021. https://www.health.ny.gov/statistics/prevention/injury_prevention/information_for_action/docs/2023-03_ifa_report.pdf

Ohta, Y. (2018, October 31). More than just a pretty facade: Cast iron architecture on SoHo Broadway. SoHo Broadway. https://sohobroadway.org/more-than-just-a-pretty-facade-cast-iron-architecture-on-soho-broadway/

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