【第2回】『三度の飯よりご飯が好き』と言っていた友達は今、何しているだろう?(赤松新)
『死那離怨寺』 2本目
「センシティブな問題扱うには、軽すぎませんか?」
皆様、こんばんは。私、日本でいや、世界で一つしかないシナリオ・脚本の供養を行っております、死那離怨寺第58代目住職、脚翻です。
本日もまた迷える脚本家からシナリオが送られて来ましたので、ご紹介します。
『脚翻和尚、はじめまして。今日、送らせていただいた脚本は2016年に某シナリオ学校の大阪校が募集したコンクールに書いたモノです。400字詰めで20ページ。課題があり「上方❤わが町の『人と愛』を描く」というやつでした。
僕は一生懸命取り組み、会心の出来だと思ったのですが、一次すら通らなかった……正直、納得いっておりません。何故なんだ!しっかりと人と愛について描いて、展開やオチもしっかりしていると思います。なのに一次すら通らないなんて……きっと何かの陰謀が働いていると思います。最初から出来レースで、そのスクールに通う生徒しか通らないようになっているとか、フリーメイソンのメンバーしか通らないんじゃないでしょうか?そうとしか考えられません。悔しいです。脚本家として大成するためにも、これからはフリーメイソンに入れるように、どんな努力も惜しまないつもりです。手始めにおでこに目のタトゥーを入れようと思います。何卒、脚本の供養、お願い致します』
……フリーメイソンに入る努力ではなく、脚本家としての努力をしたほうがいいと思います。フリーメイソンだからあの人を脚本に使おうとはなりませんから。あと、おでこに目のタトゥーが入ってる人と一緒にお仕事したくないですよね。それ、ただの「三つ目がとおる」になってしまいますよ。よくて天津飯。
まぁとにかく、本日も脚本の供養に参りましょう。
タイトル「市営バスBLUES」
☆登場人物
富沢悠(29)・・・バスの乗客。GIDで元女性。
伊藤真奈美(27)・バスの乗客。富沢の彼女。富沢と結婚の約束をしている。
浜山平八(56)・・バスの乗客。工事現場作業員
江田君江(49)・・バスの乗客。主婦。ゆり子と友達
原ゆり子(51)・・バスの乗客。主婦。君江と友達
伊藤繁(57)・・・真奈美の父親
伊藤尚子(55)・・真奈美の母親
工藤直樹(32)・・バスの乗客。サラリーマン
運転手・・・・・・ 市営バスの運転手
○市営バス・外観
バスの上部に「55大阪駅前」の表示。
○同・中
5人の乗客。「パンッ」という音。
富沢悠(29)、伊藤真奈美(27)に平手打ちされる。
浜山平八(56)、ラジオを聴いていたイヤホンを取る。イヤホンからうっすら流れるアナウンサーの声。
アナウンサーの声「さあ!夏の全国高校野球、大阪大会の第2回戦、3試合目は 」
江田君江(49)、原ゆり子(51)、話を止めて富沢達を見る。
車内アナウンスが流れる。
アナウンス「次は平尾、平尾」
真奈美、降車ボタンを押す。
アナウンス「次、停まります」
バスが停まり、降りようとする真奈美。
富沢「……真奈美……ごめん」
真奈美「……結局、逃げてるだけやないの」
真奈美、バスを降りる。発車するバス。
大きなため息をつきうな垂れる富沢。
鼻をすすり、泣いているよう。
君江「……ええの?」
少し反応する富沢。
ゆり子「ちょっと君江さん、ほっといたり」
君江「いや、でもごっつい落ち込んでるし、このままやったら可哀想やろ」
ゆり子「せやけど。人様の事情に手を突っ込んだらあかんで」
君江「首や。首突っ込むって言うねん。手を突っ込むって、くじ引きしてんのか」
浜山「兄ちゃん、なにがあってん?」
ゆり子「うわ!あのおっちゃんすごいな、人の心の中に裸足で入ってったで」
君江「土足や!裸足って普通やないの」
浜山「どないしたんやって」
富沢「(ため息をつき)いいでしょ別に」
ゆり子「話したら楽になるかもしれんで」
君江「まぁそやな。どうや兄ちゃん、おばちゃんらに話してみい」
ゆり子「あれちゃう?ふられたんちゃう?」
浜山「ふられた?それだけかい!そんなんで泣くなんてへたれやのう」
富沢「泣いてなんて……いませんよ」
浜山「泣いてたやないか(君江らに)なぁ?」
君江「もうええからおっちゃん。(富沢に)ほんで?彼女になんか嫌な事言うたんか?」
富沢「俺は……俺は、真奈美と一緒になっても幸せにすることが出来ないって」
ゆり子「ええ!そんなん言うたん?アホやな」
浜山「ほんまやで。何でそんな事言うねん」
君江「そりゃ彼女も可哀想やで。がんばって幸せにするでぐらい言うたらんと」
ゆり子「せやで、そんなん男らしくないわ」
ワイワイ言い出す3人。
富沢「(大声で)俺!」
浜山、君江、ゆり子、ビクッとする。
富沢「(深呼吸をし)俺は……」
○(回想)真奈美の家・居間
富沢、真奈美、並んで座っている。
伊藤繁(57)、伊藤尚子(55)、二人の向かいに座っている。
伊藤「富沢くん。GIDというのはほんまか」
富沢「(俯きながら)……はい」
伊藤「子供は?作らへんってことか?」
真奈美「二人で何度も話しあったんよ」
伊藤「真奈美は黙ってなさい。ええか、結婚いうもんは、家と家の問題なんや」
尚子「あの、富沢さんっていうたかな。うちの子は、なんていうか、普通の子や」
富沢、目を上げ尚子を見る。
尚子「せやから、普通の子は普通の人と一緒になった方が……特殊なのはちょっとねぇ」
真奈美「特殊って……お母さん、失礼やろ!」
富沢、俯いて手をギュッと握る。
尚子「あんたの幸せを思って言うてんねや」
真奈美「二人でずっと話し合って来てんねん!子供おらんでも幸せになろうって。それに悠くんは戸籍上でも男やし」
伊藤「そうは言うても、やっぱり結婚ってなったら、ちゃんとしたって言うたらあれやけど……問題無い人がええんと違うか?」
富沢、急に立ち上がる。
真奈美「悠くん……?」
富沢、何か言おうとするが、無言でぺこりと頭を下げて出て行く。
真奈美「悠くん!」
○(回想)市営バス・中
イヤホンでラジオを聴く浜山、話をしている君江、ゆり子。
後部座席で並んで座る富沢、真奈美。
富沢「やっぱり……無理だったんだよ……無理矢理一緒になってもいい事なんてない」
真奈美「そんな事言わんと、がんばろうや」
富沢「頑張ってきたよ!ずっと。この身体に生まれてきてからずっと。何度も何度も死にたくなったけど、歯をくいしばって……でも……結局こうなる……」
真奈美「……」
富沢「お義母さんの言う通りだよ。俺は……俺は真奈美と一緒になっても、真奈美を幸せにすることは……出来ない」
真奈美、富沢に平手打ちをする。
○元の市営バス・中
叩かれた頬を押さえている富沢。
息を飲む浜山、君江、ゆり子。
浜山「兄ちゃん、ほんまにジ、GIDなんか?」
富沢、うなずく。
浜山「そうか……ほんで、GIDってなんや?」
君江「知らんのかい!なんで驚いたんや」
ゆり子「おっちゃん、そんなんも知らんのかい。GIDはあれや、国民総生産のことや」
君江「それGNPや!無理矢理、間違わんでええわ。GIDは性同一性障害の事や」
ゆり子「ええ?て事は、兄ちゃんは姉ちゃんで、姉ちゃんやけど兄ちゃんって事か?」
バスが停まり、工藤直樹(32)、乗車する。
工藤、車内の異様な空気を察知して。
工藤「なにこの空気?どないしたん?」
バス、発車する。
浜山「それやったら諦めなしゃあないな……」
富沢「……」
浜山「ってなるかボケッ!なんやその話!」
富沢「(驚いて)ええ!?」
浜山「そんなもん関係あるかい!その彼女は、兄ちゃんの障害とやらを全部ひっくるめて一緒になる覚悟決めたんちゃうんかい!」
ゆり子「せやで!それやのに幸せに出来ひんって。それこそ男らしくないわ!」
工藤「え?なに?何なん?」
浜山「大体、GIDだかBVDだか知らんけど、わしはBVDよりグンゼ派やで!」
君江「知らんがな。それどうでもええわ」
ゆり子「男やったらどんな高っかい障害も笑顔で乗り越えんかい!」
富沢「……男だったら……笑顔で……」
君江「兄ちゃん。私らは兄ちゃんの悩んでる事も、その深さもよう知らん。けどな、本気でその娘のこと愛してるんやったら、彼女の手を離したらあかん事だけはよう知ってる。その手を今すぐ握りに行くべきや」
ゆり子「心も身体も男なんやろ?せやったら行動も男でおらな、ほんまの男ちゃうで」
富沢「でも……どうしたらいいか……」
浜山「あ~!もうイライラするのう。その娘の家はどこや?」
富沢「鶴町……鶴町三丁目ってところ」
浜山「なんや真逆か……よっしゃ運ちゃん、このバス引き返してくれ」
工藤「(驚いて)お、おい!なんでやねん!」
君江「せやな、頼むわ!はよ引き返してや」
工藤「あかんて!あと2つで大阪駅やろ。行くならその後で行きいや」
ゆり子「(工藤に)あんた降りたらええやろ。あとから乗って来たくせに」
工藤「おかしいやろ。こっちも急いどんねん」
浜山「もうしゃあないな……」
浜山、自分の顔にタオルを巻きつける。
工藤「な、なにしてんねん?」
浜山「おい!わしはバスジャックや!今から言うところに行ってもらうで!」
工藤「無茶苦茶や!今から顔隠しても遅いわ」
ゆり子・君江「(棒読みで)うわ~、これはあかん。怖い。言う事を聞くしかないな」
富沢「みなさん……ありがとうございます!」
浜山「よっしゃ鶴町三丁目に行ってもらおか」
工藤「そんなん行くわけないやろ」
運転手「……次は鶴町三丁目、鶴町三丁目」
工藤「ええ~!!なんでやねん!」
浜山、君江、ゆり子、歓声を上げる。
○鶴町三丁目バス停
富沢、バスから降りてくる。
窓から顔を出す浜山、君江、ゆり子。
浜山「(笑いながら)わしがバスジャックした事、他所では言わんといてな」
ゆり子「兄ちゃんは男なんや。頑張るんやで」
君江「もう彼女の手を離すんやないで」
富沢「本当に、ありがとうございました!」
富沢、走っていく。バスが発車する。
○市営バス・中
それぞれの席に戻る三人。
浜山「それにしても、GIDってなんの略やねん。全く分らん」
君江「まぁ、簡単に言うとあれや『頑張って・生きる・で』の略や」
ゆり子「なんや、そんなん当たり前やんか」
工藤、大きなため息をつく。
浜山「兄ちゃん、なにがあってん?」
ゆり子「話したら楽になるかもしれんで」
君江「どうや?おばちゃんらに話してみい」
工藤「ほな言うわ……あんたらのせいや!」
工藤が怒るのを見て、笑う三人。
〈終わり〉
摩訶般若波羅密多心経観自在菩薩行深般若波羅密多時照見五蘊皆空度一切苦厄舎利子色不異空空不異色色即是空空即是色……ハァーッ!!
たった今、ご供養が終わりました。
どこから言えばいんでしょうか……まずセンシティブな題材な割に、軽すぎませんか?これは選ばれませんよ。真っ向から向き合ってない感じで、表面だけなぞっている、いや、表面すらもなぞれてないですね。このような題材で20ページは無理です。なぜGIDを取り上げたのか?怒りすら湧いてきますね。
あと関西弁、これであってるの?書いている人が関西人じゃないのが丸わかりですよ。そういう「感じ」とか「ぽさ」だけで書いているから一次も通らないのです。ノリだけで上手くいく世界ではないですよ。そういのも含めてもっと勉強しなさい。あと、フリーメイソンになるの諦めなさい。
ともあれ、この作品は私の手で完全に供養されたわけですので、これからは権利フリーの作品です。これをどう使おうが、どこでやろうが一切、誰も関与しません。また、使っていただけれましたら、この作品もより供養・成仏致しますので、何卒よろしくお願いいたします。
この世にシナリオがある限り、脚本家がいる限り、この死那離怨寺がございます。
供養依頼をいつでもお待ちしております。本日はここで失礼いたします。
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