雇用の国際比較 第2章 を見て
この動画は、日本型と欧米型の雇用システムの違いを解説しています。
日本型は、終身雇用と企業内平等を特徴とし、企業内で職種転換しながら昇進していく一方、欧米型は、職務に基づいた平等で、スキルと経験に応じて賃金が決まり、企業間の転職が一般的であると説明しています。
両システムの歴史的背景として、日本は官僚制と企業内組合、欧米はギルドや職種別組合の影響を指摘し、それぞれ長所と短所を比較検討しています。
特に、賃金体系やキャリアパス、労働者の権利における相違点が詳細に分析されています。
最後に、それぞれのシステムが形成された歴史的経緯を説明しています。
日本の雇用システムと欧米の雇用システムの違い
日本の雇用システムと欧米の雇用システムの根本的な違いは、「社員の平等」を重視する日本型と、「職務の平等」を重視する欧米型という点にあります。
1.日本型雇用システム
◯社員の平等を重視し、同一企業内では職種に関わらず社員を平等に扱うという考え方です。
◯新卒一括採用で入社し、その後、様々な職種を経験しながら昇進していくというキャリアパスが一般的です。
◯企業内組合が中心となって、同一企業内では正規労働者はできるだけ平等に扱われるべきだという「同一企業同一処遇」を求める動きがあります。
◯長期雇用や年功序列賃金が特徴で、企業は社員の雇用を保障し、年数を重ねるごとに賃金が上昇していきます。
2.欧米型雇用システム
◯職務の平等を重視し、同一の職務であれば、企業が異なっても賃金は同じであるべきだという考え方です。
◯専門性を重視し、大学院で修士号や博士号を取得して専門職として働く人が多いです。
◯職種別に組合が組織され、全国レベルで標準賃金が決められている場合もあります(ドイツの例)。
◯成果主義的な賃金体系を採用している場合もあり、成果を上げれば高い報酬を得られますが、成果が上がらなければ解雇される可能性もあります。
歴史的背景と社会構造
欧米型と日本型の雇用システムは、歴史的背景と社会構造が大きく異なり、それぞれ異なる特徴を持っています。
1.欧米型雇用システム
◯歴史的背景:中世ヨーロッパにおけるギルド(職人組合)に起源を持つ。
ギルドは、特定の職種における技能・知識を保護し、その職種の労働者の賃金や労働条件を維持するために活動していた。
職人たちは、ギルドに所属することで、品質の高い製品・サービスを提供し、顧客の信頼を得ることができた。
職種ごとに厳しい訓練と試験があり、合格した者だけがその職に就くことが許された。
このようなシステムは、近代以降も、産業別組合や専門職団体による標準賃金の交渉、専門職学位と賃金の結びつきなど、職種に基づく雇用システムとして発展してきた。
◯社会構造:個人主義、競争社会を反映している。
個人の能力や成果を重視し、高い能力や成果を持つ人材は、より高い報酬を得ることができる。
企業は、必要なスキルを持つ人材を市場から採用し、成果に応じて評価・報酬を行う。
労働者は、自分のキャリアを自ら築き、より良い条件を求めて転職することが一般的である。
◯特徴:
職務の平等: 同じ職務であれば、企業が異なっても賃金水準はほぼ同じである。
専門性の重視: 特定の分野で高い専門性を持つ人材が求められる。大学院進学率も高い。
転職の活発化: より良い条件を求めて転職することが一般的である。
ワークライフバランスの重視: 労働時間や休暇などのワークライフバランスを重視する傾向がある。
2.日本型雇用システム
◯歴史的背景:明治期の官僚制、官営企業に起源を持つ。
軍隊式の階級制度に基づき、学歴によって昇進コースが決められていた。
長期雇用、年功序列、企業内福祉などの制度が整備され、従業員の生活安定が図られた。
戦後の労働運動により、これらの制度が民間企業にも広がり、企業別組合が中心となって賃金や労働条件の交渉が行われるようになった。
◯社会構造:集団主義、協調社会を反映している。
企業は、新卒者を一括採用し、社内で育成していく。
従業員は、企業に忠誠心を持ち、長期的に働くことが期待される。
年功序列の賃金体系、定期昇給、退職金などの制度により、従業員の生活が保障される。
◯特徴:
社員の平等: 同じ企業に勤める正社員であれば、職種が異なっても賃金格差は少ない。
長期雇用: 一度入社すると、定年まで同じ企業で働くことが一般的である。
年功序列: 勤続年数に応じて賃金が上昇する。
企業内福祉: 企業が従業員に対して、住宅、医療、教育などの福利厚生を提供する。
日本型雇用システムと欧米型雇用システムの長所と短所
日本型雇用システムと欧米型雇用システムは、それぞれ異なる特徴を持つため、長所と短所も異なってきます。
1.日本型雇用システム
長所
同一企業内での社員の格差が少ない:事務職、編集者、技術者など、職種が違っても、勤続年数が同じであれば賃金はほぼ同じです。
大企業であれば、移動や転勤があっても雇用と年功序列賃金が保証される。
短所
企業間格差が大きい:大企業と中小企業の賃金や待遇の差が大きいです。
正社員と非正規社員の格差が大きい:非正規社員は正社員と比べて賃金や待遇が劣り、雇用の安定性も低いです。
専門性が育ちにくい:様々な仕事を経験させることで企業への忠誠を高めるという考え方から、特定の分野の専門性を深める機会が限られることがあります。
ワーク・ライフ・バランスが崩れやすい: 長時間労働や転勤などが求められることが多く、仕事とプライベートのバランスを保つのが難しい場合があります。
女性にとって不利な面がある:出産や育児などでキャリアを中断すると、その後、元の職務に復帰することが難しい場合があります。
2.欧米型雇用システム
長所
同一職務であれば、企業が違っても賃金格差が少ない。
専門性が育ちやすい:特定の職務に特化してキャリアを積むことが一般的であるため、専門知識やスキルを深めることができます。
ワーク・ライフ・バランスを重視する人が働きやすい:労働時間や休暇などが比較的柔軟であるため、仕事以外の時間を自由に使うことができます。
短所
学歴による格差が生じやすい:大学院卒や博士号取得者など、高学歴者ほど賃金や待遇が良くなる傾向があります。
雇用の安定性が低い:企業の業績が悪化したり、職務がなくなったりすると、解雇される可能性があります。
日本型雇用システムの起源と戦後の変容
1.起源:明治期の官僚制と官営企業
日本型雇用システムの起源は、明治時代の官僚制、官営企業に求められます。当時の官僚や官営企業の従業員は、軍隊式の階級制度に基づいて雇用され、学歴によって昇進コースが決められていました。
例えば、陸軍大佐、中央省庁の課長、帝国大学の学部長は同じ賃金、中学校の校長と三等郵便局長は同じくらいの賃金というように、階級によって賃金が細かく定められていました。
また、帝国大学卒は官僚における正位(陸軍でいう将校)に相当する地位で採用されましたが、中学校卒は下級官吏、初等教育修了者は兵卒にしかなれず、昇進に限界がありました。
このような官僚制の雇用システムは、官営工場や官営企業にも導入され、学歴によって雇用形態や昇進の機会が大きく左右されるシステムが形成されました。
2.戦前の民間企業への波及
明治政府は、多くの官営工場や官営企業を保有していましたが、これらの企業は、その後、民間企業に払い下げられました。
その過程で、官僚制の雇用システムも民間企業に波及し、戦前の重工業や製造業においても、学歴に基づいた階級的な雇用システムが採用されるようになりました。
ただし、長期雇用や年功序列賃金などの恩恵を受けられたのは、高等教育を受けた一部のエリート層(正社員)だけであり、大多数の現場労働者は、不安定な雇用と低賃金に苦しんでいました。
3.戦後の変容:労働運動による平等化
戦後、労働運動の高まりとともに、企業別組合が組織され、労働者の待遇改善を求める動きが活発化しました。
労働組合は、「社員の平等」をスローガンに、同一企業内では職種や学歴に関わらず、社員は平等に扱われるべきだと主張しました。
その結果、企業は、現場労働者にも長期雇用や年功序列賃金などの制度を適用し、企業内での待遇格差は縮小しました。
また、従来、経営者層を指していた「社員」という呼称が、一般労働者にも適用されるようになり、労働者の地位向上に繋がりました。
4. 現代における課題:企業間・身分格差
戦後の労働運動によって、企業内での待遇は大きく改善されましたが、企業間格差や正社員と非正規社員の格差など、新たな課題も生じています。
中小企業の賃金や待遇は、大企業と比べて依然として低く、非正規社員は、雇用の不安定さや低賃金、福利厚生の不足などに苦しんでいます。
また、終身雇用や年功序列賃金などの制度は、変化の激しい現代社会においては、硬直的で、労働者の能力開発や労働意欲の低下を招く可能性も指摘されています。
今後の日本型雇用システムの展望
動画では日本型雇用システムの将来展望について直接的な言及をしていませんが、これまでの歴史や欧米型雇用システムとの比較から、今後の展望を考えてみます。
1.変化への圧力
◯グローバル化の進展:
グローバル化が進むにつれて、日本企業も国際的な競争にさらされ、より柔軟で効率的な雇用システムが求められるようになっています。
欧米型の職務給制度や成果主義を導入する企業も増え、従来の年功序列賃金や終身雇用制度は見直しを迫られています。
◯労働市場の変化:
少子高齢化による労働力不足や、AI・デジタル化による雇用構造の変化など、労働市場を取り巻く環境は大きく変化しています。
これらの変化に対応するために、日本型雇用システムも柔軟性を持たせる必要が出てきています。
◯若年層の価値観の多様化:
従来の終身雇用や年功序列賃金といった安定志向の強い価値観だけでなく、ワークライフバランスや自己成長を重視する価値観を持つ若年層も増えています。
企業は、多様な価値観に対応できるような雇用システムを構築する必要に迫られています。
2.可能性
◯ハイブリッド型雇用システムの台頭:
完全な欧米型への移行ではなく、日本型雇用システムの良さを残しつつ、欧米型の要素を取り入れたハイブリッド型の雇用システムが主流になる可能性があります。
例えば、コア従業員には一定の雇用保障と年功序列賃金を維持しつつ、専門性の高い職種には職務給制度を導入するなど、柔軟な制度設計が求められます。
◯多様な働き方の広がり:
正社員、非正規社員といった雇用形態の枠組みを超え、フリーランス、副業、兼業など、多様な働き方がさらに広がっていく可能性があります。
企業は、多様な働き方を受け入れ、個々の能力や成果を適切に評価できるような制度を整備する必要があります。
◯社会保障制度の見直し:
日本型雇用システムは、企業が従業員の生活保障を担う側面が強いため、社会保障制度との連携が重要です。
今後、雇用形態の多様化が進むにつれて、社会保障制度をより充実させ、個人が安心してキャリアを選択できる環境を整備する必要性が高まります。
日本型雇用システムは、これまで日本の経済成長を支えてきましたが、時代の変化とともに変容を迫られています。
今後、グローバル化や労働市場の変化、価値観の多様化などに対応していくためには、柔軟性と多様性を持った新たな雇用システムを構築していく必要があります。