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【受験記】東大に受かるとは思っていなかった件(中編)

さて、いよいよ東大受験の日がやってきてしまった。まさかやってくるとは思わなかったんだ。4月に「進路関連行事予定」を渡され、8月に東大模試があることを知ったとき、「どうせ遠い未来のことだろう」と高をくくっていたのだが、いつのまにか8月になり、「8月なんて遠い現在のことだろう」と思うようになった。冬休みになると、「8月なんてちょっと昔のことに違いない」と思うようになった。今では、8月はけっこうな昔のことに感じられる。

ヒトの脳に寄生し、8月のことしか考えなくさせる寄生虫「オーガスティア」に悩まされながら、東京ゆきの新幹線に乗った。新幹線は2月24日に発車し、8月に東京に到着する。オーガスティアに加えて、蝸牛型寄生虫「スネイリア」が感染したことによって、新幹線が大幅に遅くなってしまっている。これではラチがあかないので、名古屋から人車軌道に乗り換えて東京をめざした。

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名古屋駅のホームで、運転台だけがあって真ん中が欠けている一両編成の電車(のちにキヤ97という、レールを運ぶ列車だと判明)を見た。おそらく、寄生虫「マンナカカケティア」に感染したのだろう。たしかに、さっきまで乗っていた新幹線では、3列シートの真ん中には誰も座っておらず、米原と名古屋の間の岐阜羽島という駅は存在を消されていた。大野伴睦の銅像だけが、名鉄羽島駅前に鎮座していた。

さて、人車軌道の客車は勢いよく発車した。8月のような暑さの中、名古屋から東京まで車を曳く車夫の方には感謝の念しかない。聞けば、新幹線で売っている静岡茶にキジの肉の粉末を混ぜて飲むと、時速270km/hで24時間車を曳いても疲れないのだという。そこまでして、一日中車を曳いても、給料は月20万しかもらえないらしい。いっぽうで、この車に乗っている奴は東大を受けられる程度には経済状況が豊かな不届き者だ。近代化以降急速に増殖した寄生虫メリトクラシアにより、肉体労働や頭脳労働で社会を支えている方々は、会社のなかでそこそこの立場に君臨してふんぞり返っている不届き者たちから陰で蔑まれているそうだ。私はそんな野蛮な思考をする気はないが、いずれにせよ、そのような話を聞きながら車に乗るのはいい気分ではない。しかも、車は屋根も壁もないリヤカー式なので、270km/hで走られるとそれ相応のGが体にかかり、内臓が押しつぶされそうになってしまう。お世辞にも快適とは言えない環境だが、受験は明日なので我慢して乗る。

そうしているうちに、品川駅に着いた。8月いっぱいまで改装工事をしているとのことだった。駅に近いホテルに宿泊。5年前の8月に開業したという、真新しいホテルだった。一泊8万円というバカ高い値段だったが、まもなくホテルの方がオーガスティアに効く抗生物質の錠剤を持ってきてくれた。8粒飲むと、スマホのカレンダーが2月を示し、ホテルの値段も8万円ではなくなり、気温も2月相応の寒さとなり、岐阜羽島駅が復活した。復活しすぎて12個に増えてしまい、「ひかり」利用者から大ブーイングが起こった話はまた後日に書くとしよう。

しかし錠剤を飲んでも、なにか記憶に違和感を感じる。7月と9月の間の月が思い出せない。世界史の復習をしようと『東大の世界史27か年』を開くのだが、『告白』を著した西ローマ帝国の神学者の名前が記憶から抜け落ちてしまっていた。

パンデミックによる寄生虫「自粛」により、夏休み真っ只中の8月なのに十分に遊べなかった小学生の怨恨が、オーガスティアを生んだのかもしれない。そんなことを考えながらなんとなくテレビを見ていると、突然、むごたらしい惨劇の映像が映し出された。

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