北IT技術者、外貨稼ぎ
制裁かいくぐり、収益年3億ドル
北朝鮮のIT技術者が身分を偽り、兵庫県が運営する防災アプリの
改修事業に携わっていたことが判明した。
国家ぐるみの外貨稼ぎの一環だったとみられ、北朝鮮が厳しい
制裁下でも、ミサイル開発など巨額の軍事費を捻出できる背景を
伺わせる。
デジタル化を進める自治体予算も北朝鮮の資金源となっていた
のではないかー。
兵庫のアプリ問題で、こうした深刻な事態が浮き彫りになった。
兵庫防災アプリにも関与
「納税者を馬鹿にするのもいい加減にしていただきたい」昨年の
兵庫県議会。
ある男性県議は県や業者の対応にこう語気を強めた。
問題となっている防災アプリは「兵庫防災ネット」。
県や市町が災害時に出す避難情報のほか、北朝鮮のミサイルが
発射された際にも速報が流れる。
元々は県内を放送対象地域とする地元のラジオ局「ラジオ関西」
(神戸市)が県から同アプリの保守管理を受託した。
約4年前、同社が別の業者を介して、東京都内のアプリ開発会社に
プログラムの修正を依頼。
開発会社がフリーランスの技術者らが登録する仲介サイトを通じて
修正業務を発注するなど、県に無断での再委託が繰り返された。
最終的に一部の業務を請け負ったのが、中国に住む北朝鮮籍の
男性技術者で、知人の韓国人名義で、報酬として数十万円を
受け取っていたという。
その後、第三者機関による検証の結果、アプリから個人情報の
流出や不正なプログラムは確認されなかった。
この男性技術者が関わったのは省電力化のためのプログラムの
修正作業のみで、県は「引き続き安心して利用できる」と
釈明している。
世界中に派遣
この男性技術者が防災アプリの修正に関与した詳しい動機は不明だが、
県関係者は、北朝鮮当局も関与した外貨獲得が目的だった可能性を
指摘する。
核やミサイルの開発を進める北朝鮮は、国連安保理による厳しい制裁や
監視の目をかいくぐって、活発な外貨獲得活動を展開。
外交筋によると、2022年の外貨収入は約23億ドルに上り、2018年以降
最高水準という。
北朝鮮の外貨稼ぎは、これまで武器取引や海外への労働者派遣などが
知られてきたが、新たな外貨獲得手段になってるのがITだ。
韓国政府関係者や米国務省などによると、北朝鮮のIT技術者は5千から
1万人が全世界に派遣されているといい、スマートフォンのモバイルゲームや
マッチングアプリの開発など、多種多様な業務に従事。
2010年代半ばから主要な収入源の一つとなり、全体で年間約3億ドル
(約390億円)の収益を上げているとの推計もある。
米国人のフリーランスのIT技術者に業務を委託すれば、時給約100ドル
かかるのに対し、北朝鮮のIT技術者は同20ドルから80ドル。
それでもその収入は、海外の建設現場や工場に派遣される労働者の
10倍以上とされ、うち最大9割が北朝鮮当局に上納されるという。
リスク周知を
韓国外務省などによると、北朝鮮のIT技術者の多くは、企業がネットを
通じ、不特定多数の人に仕事の案件を発注する「クラウドソーシング
サイト」に登録。
登録の際に北朝鮮籍であると気づかれないよう他人の運転免許証を不正に
入手して顔写真を合成したり、実在の外国人からアカウントを購入したり
して北朝鮮籍以外の技術者を装うなどの工作を行うという。
韓国外務省は、北朝鮮のIT技術者かどうかを見分ける方法について
「ビデオ通話などによる面接を嫌がり、チャットによるやり取りを
好む」と特徴を挙げ、警戒を呼び掛けた。
経済安全保障に詳しい前国連安保理北朝鮮制裁委員会専門家パネル
委員のA氏は、兵庫の防災アプリ問題について「北朝鮮の現状に対する
自治体や民間企業の認知度や関心の低さが背景にある」と指摘。
その上で「北朝鮮側の手口は複雑化しており、リスクを把握できて
いない行政や企業の担当者も少なくない。
啓発を徹底し、リスクを周知すべきだ」と話している。