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subaruphoto2002
【ショートショート】田舎の仕事
田舎に移住した。
借りたのは田んぼのなかの一軒家。
ある程度の貯金はあるが、収入は確保したい。
村の顔役に相談すると、
「仕事ねえ」
と首を傾げた。
「なんでもするかい?」
「もちろんです」
「じゃあ、案山子からだな」
私たちは家を出て、田んぼに向かった。
「おーい、コバヤシさーん」
顔役は案山子に向かって声をかけた。
ぎこちない足取りで案山子がこちらに近づいてきた。
「こちら、新しく移住してきたサトウさん」
「よろしく」
「よろしくお願いします」
「明日から案山子の仕事をしてもらうから」
仕事が終わってからコバヤシさんの家に行き、引き継ぎをした。
私は笠と蓑と弓矢を受け取った。
「弓矢を使ってもいいんですか」
「いいけど、なかなか当たらないよ」
私は次の日から田んぼに立った。
ときどき腰からぶら下げた経口補水液を飲むほかは、じっと立っているだけだ。
カラスが来たら、わーっなどと叫んで追い払う。
仕事が終わってから弓矢の稽古をした。なかなか上達しなかったが、やがて一羽のカラスを仕留めることができた。
カラスは賢いので、私の姿を見ると、二度と近づいてこない。
「サトウさん、なかなかいい案山子ぶりだね」
と顔役に褒められた。
やがて次の移住者がやってきて、私は案山子の仕事を彼に譲った。
さて、次の仕事はなんだろう?
(了)
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