【ショートショート】盗難騒ぎ
「大変でございます」
家来が駆け込んできた。
「宝物庫から王冠が盗まれました」
王様が被っているのは日常使いの冠だ。正式な王冠ではない。
王宮は騒然となる。王冠を被っているものがまことの王様なのだ。
王様だけが平然としている。
彼は玉座から立ち上がり、みなのものを落ち着かせた。
「捜索せずともよい。犯人はもうすぐここにやってくる」
やがて、窃盗団がお城にやってきた。
先頭に立っているのは王冠をかぶった頭目だ。衛兵たちはあたりをうろうろしている。当然逮捕すべきだが、相手は王冠をかぶっているのだ。王様を逮捕するこわけにはいかない。
頭目は橋を渡り、お城の中枢にある王宮に入ってきた。
プロレスラーと見間違えんばかりに筋骨隆々とした王様が頭目を出迎えた。
お互いにニコニコ笑っている。
「やってきたね」
「今日から私が王様だ」
「そうだな。玉座に座ってみるかね」
頭目上がりの王様は玉座に近づいていった。足元がフラついている。
それくらい正式な王冠は重いのだ。
新しい王様は命令を発するために考え事をしているように見えた。首を傾げた瞬間、ぐきっというイヤな音がして、王冠はそのまま床に転げ落ちた。
頭目の首はぐにゃりと曲がっている。
王様は王冠を拾うと、頭にかぶってみせた。王様の首は頭と同じくらい太い。
「窃盗団を逮捕せよ」
と大声で号令を発し、衛兵たちがいっせいに動いた。
(了)
ここから先は
0字
このマガジンに含まれているショートショートは無料で読めます。
朗読用ショートショート
¥500 / 月
初月無料
平日にショートショートを1編ずつ追加していきます。無料です。ご支援いただける場合はご購読いただけると励みになります。 朗読会や音声配信サー…
新作旧作まとめて、毎日1編ずつ「朗読用ショートショート」マガジンに追加しています。朗読に使いたい方、どうぞよろしくお願いします。