浜田山の赤ひげ先生。
近所の八百屋さんの店頭に猫がいる。しましま柄だから「しま」ちゃんというらしい。自分なりの一線を持っていて、決してそこから外には出てこない。
しまちゃんの相手をしていると、かぼちゃを買いに来た奥様と知り合った。「うちの猫が食べるんで」という一言に妻が食いついたのだった。「あら、うちで買っていた猫もかぼちゃの煮物が大好きで」
猫情報を交換していたら、病院の話になった。奥様の飼っている猫は、余命宣告を受けてから2年もたつという。すごい。
「余命宣告を受けてから、浜田山の先生に通うようになって」
「あら、うちもー」
浜田山は同じ杉並区なので遠いとは言えないが、交通の便が悪いし、決して近所ではない。わざわざタクシーに乗って往復する。
それでも行きたいくらいの名医なのである。検査機械などはいっさい使わず、観察と触診だけで状態を把握し、安価な薬を処方してくれる。胃腸の調子が悪ければ、「ガスター10を飲ませなさい」という。儲けなんかぜんぜん考えていないのだ。
やはり猫好きの間では有名なのだな。
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