ティッシュ配り
会社やイベントの広告紙をティッシュの袋の中に入れて配っている人がいるが、自分の意思で熱意を持ってティッシュ配りをしている人を俺はまだ見た事が無い。
家の最寄り駅の南口ロータリーか、通ってる大学の最寄り駅から学校までの道中で、もしくはその両方で、奴らを見かけることが多い。
就活相談セミナーや、駅前のカラオケ、資格勉強講座などの案内広告を挟んだティッシュを渡してくることがほとんどだ。
奴らは、イヤホンをつけて音楽を聴きながら一人で歩く俺にノコノコと近づいてきては、俺の視界の隅っこにティッシュをチラつかせてあわよくば手に取らせようとしてくる。
何かを訴えかけながら渡してくるが、毎回イヤホンをつけているから何と言いながらティッシュを差し出してきているのかは俺には知り得ない。
大体の場合、俺は奴らの活動範囲付近を歩く前には奴らの存在を確認しているし、奴らは奴らで俺が範囲内に入る前には俺という標的を見つけて無意識的に狙いを定め始めているはずだ、と思う。
俺は奴らを見かけたら勿論「またおる、めんどい、別にティッシュはいらない」と思っている。奴らは「また来た、だるい、あいつ別にティッシュいらんやろ」と思っているに違いない。これは俺が、アルバイトとして働いてる塾のビラ配りを早朝にさせられた経験があるからよく分かる。奴らは全員、あの時の俺と同じ気持ちを抱いてティッシュ配りをしていることはよく分かる。
「このティッシュを絶対に受け取ってほしい!!」と強く訴えかけられれば、その思いに圧倒され、ティッシュを受け取ろうかなという気持ちが少なからず湧くのであろうが、そんな意志を持ってティッシュ配りをしている人間はこの国にいない。勿論、「このティッシュを絶対に手に入れたい!!」と強く願うような人間もこの国にいない。
そう、つまり受け取る側も受け取らせる側も、マイナスの感情を抱いている。
こんな不当な矛盾の連鎖は早くやめた方がいい。
街で歩いていたら、遠くから歩いてくる柄の悪い男の人と目が合ってしまい、一度視線を逸らしてからすれ違いざまにもう一度その男の人を見ると鬼よりも更に鬼の形相で俺の事を睨んでいた。そんなにも俺の事が嫌いなら、そもそも見なければいい。
そこそこのお金を払って、後先考えずにお酒を飲み、後に具合悪そうにくたばっている30手前くらいの女。そんなにもしんどい思いをするなら、そもそもそこまでお酒を飲まなければいい。
でもきっとそういう訳にはいかないのだと思う。
こういう類の矛盾は、ある意味生理的に起こってしまう現象で、そう簡単に解決出来ることではないのだと思う。
でも、ティッシュ配りは違う。
マジで、ほんまに、やめた方がいい。
狂気の沙汰。
受け取る側は、ティッシュを自分の視界にチラつかされるだけで、自分の生活を見知らぬ者に邪魔された気分になる。それは刹那的で、僅かなものではあるものの、気分を害されるということには変わりは無い。
受け取らせる側も、相手にはほとんど届くことのない言葉を発しながら、ほとんど受け取られることのないティッシュを一定時間、ノルマがあればノルマの分だけ、渡そうとし続けなければならない。はっきり言って、生き地獄だ。本人にとって好ましいとは絶対に言えない。
自宅に居ながらでも働けて、動かずともお金を得ることができるこんな時代に、がんばりすぎないでほしい、と切実に思う。
がんばりすぎて、辛くなってほしくない。
YouTubeで「犬 癒される」で調べたら1番上に出てきた動画を貼っておく。ティッシュ配りで心をすり減らしてしまっている方は絶対に見てほしい。